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2023年を振り返る3

2023年最後の満月の夜。
薄い雲が空を覆っていて見えないかと思いきやくっきりと見える。
雲が薄すぎて月光が勝っているという不思議な満月だった。

反省を続ける。
足りなかったもの、思い描いたようにならなかったこと。
例年のごとく2023年もたくさんあった。
毎年のように自分のダメなところを見つけて生きている。
なんなんだ、まったく。

一つ、心残りなことがある。
ユーロスペースでチラシを配っていたときのことだ。
見知らぬ高齢の男性から、予告観て面白そうだから観るつもりだったんだけど、時間帯が合わないんだよなんて声をかけられた。
ある一定の層に予告編は確実に届いていたことが分かった。
上映開始時刻が21時に近いということで断念された方はきっと他にもいただろう。

多くの自主制作映画はレイトショーで上映される。特に2~30代の若い監督の作品はそういう時間帯に限定期間で上映されることが多い。
毎日のように舞台挨拶をして夜間でも足の運びやすい層に観てもらう。
そこから話題が拡がったりもするし、それで正しいのだと思う。
僕自身もレイトショーが良いなと思い込んでいた。
平日でもホワイトカラーな人たちが足を運びやすいし、実際にたくさんご来場してくださった。
逆にレイトショーでなければかなりのお客様が来れなかっただろう。
そこまではわかっているのだけれど、同時に悔いが残っている。
しかもそれは上映が終わってから気付いたことだった。

それは学生のお客様とご高齢のお客様たちが来にくいということ。
新宿、十三、渋谷、いずれも夜間だった。
名古屋シネマテークだけは朝一番だったけれど。
そのことに気付いた時、なんだかとても反省してしまった。
特に歴史あるミニシアターは、昔の繁華街と呼ばれる場所に多くあるから、十代の学生なんかは来にくい場所ということも忘れていた。
僕自身十代の頃に当時の文芸坐のオールナイトなんかに行ったりしていたけれど、今はあの頃よりも規制も強く、難しくなっているだろう。
ユーロスペースだってラブホテルに囲まれている。

もちろん夕方の下校時刻に合わせた時間帯に上映すればもっとたくさんの人が来てくれたのかと聞かれるとそれは難しかっただろうと思う。
それでも僕の中に何かが引っかかったままだ。
小劇場の公演でも平日は夜の公演が一般的だから思い込みもあったかもしれない。
けれど確かに僕は夕方ぐらいに映画館に行ったりした記憶が残っている。

極論かもしれないけれどさ。
良い映画だったかもわからない。意味不明な映画や雑多なピカレスクものもあった。
映画館に行って映画を観てなんだこりゃ?って思って帰る。
でもそういう体験こそ、今になってみれば重要だったのだと気付く。
ガキになんか理解できてたまるかよという気概も作品にあったような気もするよ。
わからないを体験するとか、わからないけど魅力を感じるとか。
わかりたいといつの間にか思っていた事とか。
そういう映画体験が今も映画館っていいなぁと思う源泉だ。
そうじゃない人だっているだろうけれど、僕はそうだ。

一生懸命、友人や知人に声をかけて満席を目指すインディーズムービー。
それは圧倒的に正しい姿だし、実際に僕たちもずっと小劇場でそれを繰り返してきた。特に2~30代の頃は皆が必死になって友達に声をかけた。
年を重ねれば分別もついて声はかけても、無理に呼ぶようなことはなくなるし実際に周囲の人たちも落ち着いた方々になっていく。
なんとなく、今の僕が何をやるべきかという部分でズレを感じた。
あの頃の十代の自分のような誰かと出会う機会があるべきだったんじゃないかってそんなことを急に思い始めた。
必死で呼ぶんだけれど、呼びながら何かがズレているような気がした。
もちろんたくさんお客様に来てもらうに越したことはないのだけれど。
それでもね、そうやって若いお客様がいつか映画ファンになるのかもしれないのだからその方が実は一過性で終わるよりもすごいことだ。
例えばそのミニシアターに通うようになる若い人が一人生まれたらその方が長い目で見たら重要なのは誰にだってわかることだ。

19時台だった新宿K’sシネマで出会った数少ない若い世代の鮮烈な感想が今も身体に残っていて、その機会がなかったのかと何度も考える。
出演してくれた西本早輝さんの新宿での舞台挨拶の言葉も素敵だった。
別に若い世代に何かを教えてやるとかそんな上から目線の偉そうなことではなくて、普通に当たり前にミニシアターという文化があって、今まで観たこともないような映画がやっていて、何かを持って帰るというそのこと自体の素晴らしさを考え始めている。
そして映画『演者』は、このような世界になってしまった今、かつての戦時中の日本を描いているという作品だ。それは思えば大変なタイミングなのだ。

僕が学生の頃、湾岸戦争が起きてさ。
そんなの関係ねーよとか言いながら、実は皆が不安だった。
学校の下駄箱に反戦のチラシが入っていて、実はそれは同級生の女の子が早起きして生徒全員の下駄箱に入れたんだと後から知った時は衝撃を受けた。
ブルーハーツが戦闘機が買えるぐらいのはした金ならいらねえと叫んだ。
世界中が矛盾だらけだってことを知って頭にきた。
今の感受性の強い世代はきっとこの世界に大きな不安を持っている。
そんなの知らないよと言いながらどこかで気にしている子もいるだろう。
そんな誰かがこの作品に出会えるチャンスがなくて良かったのだろうか。

皆のために闘う!とか、自己犠牲で感動するとか。
そんな流行の映画もたくさんある中でさ。
ミニシアターでこんな演者みたいな映画に出会ったら。
まあ、わかんないかもしれないし、わかるかもしれないけれど。
いずれにしても何かが残ったんじゃないかって感じている。
別に演者じゃなくてもいいのかもしれないけどさ。
それでも思ってしまうのだから仕方がない。

上映前にそこに気付けなかった自分を反省している。
観たかったと言ってくださった方を思い出しながら。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【次回上映館】
未定

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映◆
・2023年11月18日(土)~24日(金)
ユーロスペース(東京・渋谷)

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

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