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連載「record album」⑦

 都心部で生まれ育った子供たちは生涯に渡って一つコンプレックスを持つ。それは故郷がないという追い目だ。何を目指すのにもどこそこから出てきて頑張ってという言葉を耳にするけれど都心部で育った人は大抵が、そうなんだぁの一言で済まされてしまう。街も日々変化し続けるから愛着が少ないと思われていたりする。実は都心部にいたってそれなりに地元への愛着と言うものはあるものだけれど、地方に行けばいくほどその思いは強いとやはり思われている。それはシンプルに距離の問題なのか、或いは家を出てからの時間の問題なのかはわからないけれど。
 そういう意味では夏休みや正月に行く祖父母の家が地方にあるだけで少し気分が変わってくると思う。夏休みにおじいちゃんちに行くんだぁと言ってそれを聞いた友達が寂しそうな顔をしていて、ああそっか、おじいちゃんと一緒に暮らしているのかと思ったこともあった。田舎にいれば都心部に。都心部にいれば田舎に憧れてしまうのは当たり前のことなのかもしれない。

 おじいちゃんちは売りに出されることになった。

 海のある街と言うだけで僕は田舎に行くというつもりで毎年の夏休みと正月におじいちゃんちに行った。その時にしか会えない従兄弟たちと馬鹿みたいにはしゃいで遊びまわった。毎年それが楽しみだったし、毎年帰る時には寂しくなっていた。だからいつの間にか僕にとっておじいちゃんちは故郷のようなものになったし、恐らくは一生忘れる事の出来ない日々を過ごした大事な大事な風景をたくさんもらった。
 そのおじいちゃんちに行くことが出来なくなった。おじいちゃんがいなくなっちゃったから。おじいちゃんとおじいちゃんちが同時になくなっちゃった。

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