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種火

もうすぐシアターセブンの予約開始の時間。
予約時間は朝の9時から。
名古屋シネマテークは予約はないから当日だけ。

実は新宿のケイズシネマでの上映に、東海地区から数人のお客様が来てくださった。ロビーで名古屋で待ってますなんて言葉を頂いた。
新宿まで駆けつけてくださっていることに驚いた。
新宿の上映の前に名古屋、大阪を発表したのに。
でも今度は映画の方から名古屋、大阪に向かえる。
そのことが嬉しい。

同時に寂しさのようなものも襲ってくる。
現時点で上映が決まっているのはこの2つの限定上映だけ。
ここからどこまで進んでいくのかもわからない。
場合によってはもう上映される機会が訪れない可能性だって充分にある。
頑張るけどさ。
また観たいと言ってくださる人たちだっているのだから。
そして名古屋、大阪でもそう言ってもらえるかもしれないのだから。

新宿でわかったこと、思ったことは、多分、まだまだ気にしてくださっている方がいるということ。上映期間が一週間だとタイミングが合わずに来れなかった方がまだまだいらっしゃる。
上映終了してからの連絡もあるのだ。
その上、名古屋や大阪は更にその上映機会が少ない。
きっと気になっているけれど、まだ来れるかわからないという方もいる。
観たいと思ってくださる方はもちろん、少しでも気になっている方にも届けられたらと痛切に願う。

観たいと思ったら上映期間終了しているのが映画だ。なんていう人もいるけれど、それは意外に芯を食ってるのかもしれない。
今の映画は公開日にウェイトを置いていて、口コミが拡がった頃には上映終了しているなんてことがよくあるから。
シネコンの存在価値は重要だと思うけれど、あれだけの数のスクリーンだと上映打ち切りの判断も僕が思う感覚よりも早いように感じる。
トモダチから良い映画だと聞いて、じゃあ今度の休みに行ってみようかと思ったらもう終わっていたなんてことは、よくある話だ。
統計や数字、配給会社との力関係では読めない、映画館から出てきた鑑賞直後のお客様の熱のようなものがもっと反映されたら違った形になるのになぁと思う。
それは数字になんか絶対に出ないことだ。

小劇場にはアンケートという慣習があった。
コロナ禍後の今もネットアンケートなども含めて続いている。
どこからこの舞台を知ったかから始まって、お知らせを送っていいかまで。
その中には必ずフリースペースの記入場所を用意してあった。
僕は制作面も触っていたから、全ての情報が重要だった。
全体の中のはじめてのお客様の割合や、何経由で知ってくれたかどうかは特に重要だったし、お知らせをメールやはがきで希望してくださる方の数も統計を取るようにしていた。
でも、一番重要なのはやっぱりフリースペースだった。

なぜならそこには熱があるからだ。
もちろん、例えば受付周りのこととかのことを書いてあることもある。
そういう部分はすべて反映していくようにしていた。
役者への私信が書かれていることもあった。
でもまぁ基本的には感想が書かれている。
びっくりするぐらい細かい字でびっしりと書かれているようなこともある。
感想の数と、数だけではわからない熱。
それがその時々の公演の評価をはっきりと表していた。
間違いなく手応えのあった公演は、その熱が高かった。
たとえ動員数が高くても熱が低い公演もあったし、動員数は伸びなくても熱が高い公演もあった。
そしてその熱はダイレクトに次の公演に繋がっていた。
アンケートは感想集ではない。アンケートだった。

そういうことが本当はもっと出来れば数字だけで判断することはない。
当時と違うことがあるとすればSNSが生まれたことだろうか。
キーワードさえ書かれていれば、熱のようなものまでキャッチできる。
鑑賞直後のあの顔と、帰宅してから思い出すような熱と。
その二つがわかるようになったなぁと僕は感じている。

僕の市場調査は数字ではないところに重きを置いてきたということ。
ずっとずっとそうだったと思う。
それは自分が観たい何かを探す時にも同じだったからなのかもしれない。
ブームの火付け役なんて言葉を目にすることがあるけれど、誰かがブームにするなんてことじゃないと僕は思う。火はもう着火していたはずだ。その熱に気が付いて勝ち馬に乗る人を火付け役と呼んでいるに過ぎない。
その僕が映画『演者』には一定以上の手応えを感じている。
自分の作品だからじゃない。
むしろ自分の作品にはいつも以上に懐疑的になるし厳しくなる。
だってネガティブな意見も探しに行くのだから。
そうじゃない熱を感じている。

新宿・今池・十三。
この3つの街で、小さな種火が点けばいい。
その熱が少しずつでもいいから届くと良いなぁ。
僕はもうすぐ決まっている上映が終わってしまうのに、始まりだと感じているようだ。

もう始まっているのだと感じている。
桜はスタートの印。
葉桜の季節がやってくる合図。

映画『演者』

企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル

「ほんとう」はどちらなんですか?

【限定3回上映】
2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)
各回10時から上映
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
初日舞台挨拶あり 登壇:小野寺隆一

【限定2回上映】
2023年4月15日(土)18:30、16日(日)19:00
シアターセブン(大阪・十三)
予約開始:4月8日9時より
2日間舞台挨拶あり 登壇:小野寺隆一

◆終映◆
2023年3月25日(土)~31日(金)
K'sシネマ (東京・新宿)

出演
藤井菜魚子/河原幸子/広田あきほ
中野圭/織田稚成/金子透
安藤聖/樋口真衣
大多和麦/西本早輝/小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟 録音 高島良太
題字 豊田利晃 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希 制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。