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夢の跡

ユーロスペースに映画鑑賞に行く。
お客様と同じように発券して。
もう映画『演者』は跡形もない。
ついこの間ここで上映していたなんて信じられないぐらいに。
影も形もなくなっていた。

ロビーに音が洩れてくることなんかない。
場内で席に座れば、映像と音に集中できる。
今日まで何度もここに来ていたはずなのに。
改めて、ああ、良い映画館だなぁと感じる。
感性をくすぐってくる。
予告編も現在上映している作品もラインナップが高揚させる。
リバイバル、アート作品、インディーズ、選ばれた作品たち。
この中にあったんだと考えるとやっぱり嬉しくなる。
ユーロスペースに通う全ての皆様に観ていただきたかったなぁ。

鑑賞した作品に繋がりも感じた。
2週連続で鑑賞した方は何かを感じたかもしれないなんて思う。
映画はそういう多層的な楽しみ方も出来る。

帰りの電車で立ったままなのに少しうとうとした。
どうしたわけだろうか。
雨の朝の名古屋今池に僕はいた。
きょろきょろと今池スタービルを探していた。
電車が揺れて目が覚めた。
名古屋での上映は朝の3回だけだった。
舞台挨拶の日は雨だったなあなんて覚醒しきっていない意識の中思った。
もう名古屋シネマテークはあそこにないのか。

不在の在。
かつてそこにあったものがなくなっている。
それでもなんというか空気だけがそこに漂っている。
廃墟の写真に人が惹かれるのは不在の在がそこに写るからだ。
減衰しきって感知できない声がこだましたまま淀んでいる。
映画『演者』でも不在の在をどう描くかずっと気にしていた。
映らないものを映すということが最大のミッションだった。

舞台は一回性だなんていうけれど。
それこそがもちろん宝物なんだけれど。
映画もお客様にとっては一回性のものだ。
鑑賞した映画の余韻の中で電車に揺られていた。
スクリーンに投影された光が僕たちの心に何かを残す。
僕たちが通常、記憶と呼ぶ経験とは違った不完全な記憶。
経験のような五感全ての記憶ではなく、音と映像と心の動きだけの記憶。
それもまた目に見えないものなのだろうなぁ。

映画『演者』の記憶はお客様の中にどんなふうに残っているのかな。
もう余韻のようなものは消えているはずだ。
最後に残る何かを知りたい。
たとえいつか忘れ去るとしても、最後に残る一瞬を。

同じ映画館で鑑賞者になることで感じることがある。
それは目に見えるものでも手でつかめるものでもないという。
ただ当たり前の原則だった。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【次回上映館】
未定

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映◆
・2023年11月18日(土)~24日(金)
ユーロスペース(東京・渋谷)

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。