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文芸誌『Sugomori』で短編小説が公開されました

世界陸上が開幕。リレーをしたりレースをしたり。やり投げ北口選手の銅メダル獲得など快挙も聞く。サニブラウン選手の辞退から、「100m×4人」バトンミスによる失格は驚きだったが、それでも前を向くコメントを読んで、なるほど第一線に立つ人は違うとうなった。ミスを誰のせいもせず「実力がなかった」とコメントができるのは大人の対応というか。スポーツ選手が背負っているものは大きい。

お知らせ

文芸誌『Sugomori』で短編小説が公開されました。よければご一読ください!

 2人で借りたアパートには庭が付いていて、それが決め手になった。花でも育てよう、部屋の中にもグリーンをたくさん置こうよときみはそういった。いいね、と私。春先のことだった。ネットで、同性同士で賃貸を借りるのは難しいこともあると情報を得ていたが、友達同士のルームシェアだと不動産屋に説明したら審査はすんなり通った。都会だから詮索されなかったのかどうかも分からないが。この世界では、誰も彼でも、本当のことを言いすぎる必要はない、私のポリシーでもある。

 曖昧なものがいい。曖昧にしておけるならその方が良い。そんな態度だから、恋人と付き合い始めた頃は相手をどう呼ぶべきなのか宙ぶらりんのままにしていた。彼氏なのか、彼女なのか。そもそも心のどこかで「私の好きな人」とそう呼びかければ済むだから、今でもまだ馴染んでない気がする。友人らの食事会になると、彼氏が「夫」に昇格しただの、妻になったとたんに「ツレ」と言い始めるような照れくさい光景も何度か見かけてきた。

 パートナーへの正しい名称ってなんだろう。しょせん、人との関係性を曖昧にしたまま、恋愛に慣れないまま、大人になってしまった人間なのだ。30歳近くなってからの「恋愛」だから今でも恋人について説明することには、赤面しそうになる。人のことをいう立場でないのは重々承知だが、いっそ「かれぴ」の方が清々しいとさえ思う。そんな私を知ってか、きみからは実際、からかわれていた節もある。

 賃貸契約の終わりに不動産屋さんにきみは「実は友達というかパートナーというか」と、何か説明しかけたときだって驚いた。不動産屋さんも冷静に「そう、まあ、ケンカ仲良く住んでもらって」と言うものだ
から、私は勝手にアレコレ想像していて青くなったり赤くなったりした。きみはそんな動揺を見抜いて「ね、大丈夫? 耳まで赤いよ」とスマホでメッセージを送ってきた。
あらゆる同棲グッズを買いそろえたのはご機嫌な「パートナー」だった。
「やっぱり、歯ブラシはお揃いのがいいでしょ」
「きみが青? じゃあ、私がピンクの?」
青い歯ブラシとピンクの歯ブラシが並ぶ。同棲生活の象徴に思えた。
「まあ、そうなるね」
 いやだった?とパートナーは目線を向けるが、すでにパッケージを開いている。色ごとき、と思うかもしれないが今後、私は歯ブラシといったらピンクを買い続けるの? せめてもの抵抗で赤とかオレンジでしょ?って逡巡していた。
 「いいでしょ」って同意を求めてきたような、はねた後ろ髪。それもいいよ、と私なりの同棲ハイ。
 恋愛経験も少ないことに比例して人生経験もさしてない。
なので季節の暦における「初夏」の立ち位置がよく分からないままだった。春が終わったあとに梅雨がきて初夏から本格的な夏なのか。それとも梅雨入りの前に「初夏」が来るのか、よくわからなかった。
君に聞いて「バカ」だと思われたらいやだった。恋だの愛だのに浮かれているのもガラじゃない。


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