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完全独自設計の特注スピーカースタンド・後編

2020年に制作した、ディナウディオの「CONFIDENCE C-1 signature」用のスピーカースタンドについての後編です。

至高の突板選び

スピーカースタンドの構造はおおよそ決まったので、表面を仕上げる突板選びをすることになりました。木工所の親方に手配していただき、女性のプランナーさんと一緒に木材の問屋さんを訪問。

正直、驚きました。巨大な倉庫に、びっしりと多種多様な突板が並んでいます。世界にこれだけたくさんの木の種類があるのだと圧倒されました。色や模様は自然が作り上げた芸術。しかも、同じ木材でも、いや同じ木から取った板であっても模様は全て違うわけで、余裕で数万枚ある中からどうやって選べばよいのか、ただただ圧倒されて思考が停止しそうになります。

突板選びはまずは色から

言うまでもありませんが、この問屋さんはプロ向け100%の専門店です。一般のお客さんは誰もいない。膨大な突板の素材が並んでいます。

幸いにも、親方の威光か問屋さんの社長さんが対応してくださいました。

「家具は、置き場所に似合う色から選ぶといいですよ」というありがたいご助言。確かに、スピーカースタンドとはいえ家具(少なくとも、私にとってオーディオは家電であり家具であり、楽器であり、工芸品なのです。)ですから、置く場所に合った、またセッティングするスピーカーの色や模様、仕上げに合った色から探すのがスムーズ。

「置く場所にある、他の家具とも色を合わせると、馴染みやすいですよ」

完全に家具選びを同じロジック。設置予定の我が家のリビングは、ソファもダイニングテーブルも椅子もウォルナット。ダークブラウンの家具ばかりです。

フローリングが淡いベージュ系の色見なので、コントラストをつけたくて選びました。そのことをプランナーさんや問屋の社長さんに伝えると、「それならウォルナットで揃えたほうが部屋に馴染むし、飽きないですよ。」とアドバイスをいただきました。

たしかに、派手な色や個性的な木目(バーズアイメープルとか、マホガニー)が魅力的だったのですが、数年経つと飽きてくる可能性もあります。

無難な選択だと思っていたウォルナットですが、長く愛用する予定(いつも買うときは長期間使うつもりでいます)なのだから、ここは信頼と実績を採用するべきだと思いました。

というわけで、ウォルナットの突板から好みのものを選ぶことに。ここからが大変でした。

まず、色の種類がとても多い。同じ産地のウォルナットでも木によって色の濃さが全然違います。また、同じ木でも木の内側外側で色が大きく変わります。

濃淡がしっかりグラデーションになっている板がかっこよかったのですが、「スピーカースタンドは家具と違って一つ一つの面積が小さいので、その板だと同じ面にグラデーションが出ないですよ」と貴重なご助言。実際の製品の寸法で考えなければならないのです。

プランナーさんから「板のどの部分を正面にしたいとか、スタンドの底面にしたいとかも希望に添えますので、パーツ取りを考えて選ぶとお好みの通りにできますよ」と、ありがたいけどハードルの高いご提案も。

結果的に、数十枚をとっかえひっかえして理想の突板を探し出しました。写真を残していないのが痛恨です。

選んだあとに問屋社長さんとのいろいろお話させていただきました。木材と家電メーカー、自動車メーカーとのかかわりや業界事情に関する大変興味深い内容でした。

仕上げはどうする

表面の仕上げは決まりました。突板が木工所に納品されるのを待って、再度打ち合わせ。どの部分をスタンドのどの部分に貼るかを決めていきます。

そして、今回こだわったのが「角無垢(かどむく)」という仕上げ方です。

一般的には突板は角と角の部分にどうしても断面が出てしまいます。しかし、角に無垢の木を入れることで、非常に滑らかな処理ができるのです。

当然、工数も増えるし職人さんの高い技術がないと美しく仕上がらない部分です。しかし、ディナウディオのスピーカーはそれをやってあるのです。そうなれば、スタンドも同じように最高の仕上げにしたい。

全体を角無垢で仕上げていただくことにしました。

親方が作業場で角無とをどのように組み上げるのかを見せてくださったのも大きいです。木工の繊細な技術が組み込まれたスピーカースタンドは見るたびに所有の満足度が得られるはずです。

塗装は宮内庁ご用達!?

あとは表面の仕上げ。前回の打ち合わせで、スピーカーと同じく「鏡面塗装」がよいと勧められましたので、それで決定する方向で、どんな感じに仕上がるのかを尋ねていると、塗装をしてくださるのがなんと宮内庁ご用達で、宮様由来の象嵌の机とか塗ることもあるという東京でも屈指の塗装職人さんだと判明。

まさか、思い付きでスタートしたスピーカースタンド制作が、一般的なオーダー家具を超える木工技術と塗装技術を結集した、職人魂の結晶のような工芸品制作になってしまうなんて。

ちなみに、鏡面塗装とは薄く塗装をしては全面を研磨してピカピカにした上に、また塗装して、それをまた磨いて、また塗装してと繰り返して、最終的に鏡のように表面が滑らかに仕上がるという、人件費と技術の塊です。

ピアノ塗装も同じような工程なので、同じスピーカーでも一般的なクリア塗装の突板仕上げよりピアノブラックなどが高額なのは手間暇が圧倒的にかかるからです。

ちなみに、全ての仕様が決まって見積もりが出たのですが、スタンドを組み上げるための金額と塗装の金額がほとんど変わりませんでした。

つまり、塗装を簡易なものにすれば半額とはいかないまでもかなり安く(6~7割前後)できたわけです。

しかしながら、それだけの技術を投入したものを手に入れられるということを考えると、お値段以上。プライスレス。そして、思ったよりも全体の金額は膨れ上がりませんでした(もちろん安くはないですけど、オーディオ関連商品はなにかと高額なのでね。)。

こうして完成したスピーカースタンド。しかし大切なのは音です。試聴室で聴いた、大理石とアルミ柱の超重量級スタンドの音を超えられるのか!?

スタンドを木工所に取りに行き、そのスケジュールに合わせてスピーカーを納品したもらいました。ディナウディオジャパンの社長さんが来て下さって一緒にスタンドに設置します。

強固に設置するため、スタンドの天板とスピーカーの底部をボルトで留めます。コンフィデンスC-1は底部の樹脂部分にネットワークが入っているので、慎重に作業します。と、社長さんに教えていただきました。

ちなみに、スタンドの底板の裏側に、鉄板が仕込まれています。これは地震などの際に転倒するのを防止するためのもの。コンフィデンスC-1は、非常にユニットが重くて、前荷重のスピーカーです。重量バランスからも、スタンド自体に相応の重量が必要です。その意味では、前オーナーの超重量級スタンドは実に理にかなっていました。

そこを私はバランスでどうにかしようと考えました。スタンドの天板を見ていただくと、前にオフセットしているのが分かると思います。これは、スピーカーユニットから出た音をなるべくきれいに拡散させたくて、スタンドの支柱から遠ざけるという意図です。

そうなると、一層重量バランスが悪くなるため、スタンド底面の重さと支柱の取り付け位置を親方に慎重に決めていただきました。さすが職人の長年の経験と勘で、とても安定した仕上がりになっています。

この絶妙なバランスは、私の素人考えのDIYでは到底叶わなかったわけで、プロの知恵と技術をお借りして正解でした。

それと、ディナウディオは木の響き(エンクロージャー自体の響き)をうまく活用して音を作っているように感じます。

ほとんどのシチュエーションが「ながら聴き」であり、かついろんなジャンルの音楽を聴く私にとっては、ある種の「緩さ」「柔らかさ」がとてもありがたくて、一定の強度は確保しつつも、固めすぎない、響きをうまく活用した音作りを心掛けてきました。

結果的に思った通りの音楽再生ができているので、大変満足度が高いです。

総論

というような経緯でスピーカースタンドを制作していただいたわけですが、ぼんやり思い描いていたオリジナルスピーカースタンドが現実になる過程はとても楽しいものでした。職人さんのこだわりや現場の作業を間近に見せていただいて、その素晴らしい技術が製品に込められる過程を知ることが、所有の満足度をとても高めてくれています。
もちろん、様々なオーディオ機器メーカーが素晴らしい製品を日々生み出していて、その組み合わせに試行錯誤するのはとても楽しいものです。オーディオという趣味の醍醐味ともいえます。
オートクチュールとプレタポルテはどちらが上とか下とかではなく、嗜好が細分化する趣味というジャンルにおいては、限りある経済力の最適化という意味において適切に組み合わせて使い分けるというのが、私なりの趣味に対するスタンスなのだと思います。

自分自身の求める理想の音を改めてじっくり考える機会にもなりました。

オーディオを、音楽を愛する皆様の趣味の一助になれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。

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