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完全独自設計の特注スピーカースタンド・前編

2020年に生意気にもフルオーダー、完全オリジナルのスピーカースタンドを制作してもらったので、経緯などをご紹介させていただきます。

タイミングの良すぎる巡り合わせでディナウディオのスピーカー「CONFIDENCE C-1 signature」を手に入れました。

既に廃版になったスピーカーの中古品であり、前オーナーさんはオリジナルのスタンドを制作して使っておられました。

これがなんとも凄まじいスタンドでして、大理石や無垢アルミ支柱を組み合わせた超重量級のスタンドでした。
試聴室ではそのスタンドと汎用スタンドで視ました。

汎用スタンドの実力

最初に汎用スタンド(とはいえ、ディナウディオのスタンドです)で聴いた時には、味わいや奥行きは感じるものの、現行のハイレゾ志向のハイエンドスピーカーと比較すると「古典的スピーカー」な印象が正直ありました。
ネガティブな感じではなく、まとまりの良さや弦やヴォーカルの質感や雰囲気を存分に聴かせてくれるタイプの典型に思えました。

前オーナーの特製スタンド

そして前オーナー制作の特注重量スタンド。
別次元でした。このスピーカースタンドは完璧な制動をしてます。
いわゆる「スピーカーが消える」というやつです。事前情報として前オーナーはこのスタンドにかなり自信をお持ちだったと聴きました。「次オーナーにもこのスタンドで試聴してもらいたい」とおっしゃってたようですが、それも納得のサウンドでした。
まず、低音の明瞭感が段違いでした。音量を膨らませる事なく、輪郭を実に力強く描いてくれます。
特にPOPSのバスドラがきちんと分離してキレ良く鳴るので、音楽のグルーヴ感が大きく増します。
また、各楽器やヴォーカルのセパレーションが向上するので、スピーカーの存在を簡単に意識から消してくれます。
CONFIDENCE C-1は小型なのにとても低音が出るスピーカーです。しかし、それは同時に「強固に固定しないと正確にスピーカーコーンが動かない」という事だと私は理解しています。
ハイエンドスピーカーが大型なのは、そして大多数がトールボーイであったりするのは、本体重量も含めて音作りをしている面が大きいと思います。
特に現代ハイエンドスピーカーは極めて強固て重いエンクロージャーを採用して、更に年々重量化しています。

ここで感じたのは、汎用スタンドが悪いというのではなく、C-1の純正スタンドは天板とスピーカーをビス留めする構造になっており、ポン置きでは実力をそもそも発揮できないスピーカーなのだろうという点です。

だったら私もオリジナルのスタンドを作る

前オーナーの素晴らしいスピーカースタンド。これは圧倒的に魅力がありました。
しかし、こっちもそれなりに経験を積んできたわけで、自分なりにこのスピーカーの能力を引き出したい。違う表情を見たいのと思ってしまうのです。
超重量級スタンドでスピーカーの素性を徹底的に引き出す手法があるのなら、私は全く逆のアプローチをしてやろうと思いました。
このあたりの無駄な尖り方やこだわり、自己主張は私の人間性の根本なので仕方がありません。

というわけで、まずは既成のスピーカースタンドのカスタムに対応してくれそうなところを探したのですが、なかなか見つかりません。
天板形状の変更くらいであれば対応してくださるメーカーさんもあるのですが、そもそもスタンドの設計から私の思想を注ぎ込みたいと思うと、それは新製品になってしまうわけで、対応できるわけがないのです。

ネットでオリジナルのオーディオ家具を設計してくれるお店や工房を検索する日々。とはいえ、予算的にも距離的にもちょうどよいところが見当たらない。

そこでたまたま目にしたのが「オーディオラックを納品しました」というオーダー家具屋さんのブログです。
オーディオラックといっても、マニアが使うようなものではなく、新築戸建のオシャレリビングに大きなテレビとかレコーダーとかをキレイに収める造り付け家具でした。
ブログをいろいろと見ていると、レストランの収納やマンションの食器棚、壁掛けの棚、玄関収納などなんでも制作されてました。
自社で設計から制作、納品取り付けまでやっているところで、所在地を見たらうちの近所(車で10分!!)。これは運命と思い、とりあえずダメもとで「スピーカーのスタンドを作ってほしくて」と電話してみました。
受付の女性が「たぶん作れると思うんですけど、うちの親方と直接話してもらったほうがいいと思いますよ」と言われ、アポをとりました。

住宅街にあるいかにも木工所然とした建物。事務所に伺うと70歳前後と思われる頑固職人感満載の親方(この方が社長さん)が出迎えてくれました。
オリジナルでスピーカースタンドを作って欲しくて、と話すも最初は全然乗り気じゃない親方。。。
しかし、私がオーディオへのこだわりを熱弁していると、どんどん距離が近くなって話が盛り上がってきました。親方の仕事へのこだわりも聞かせてもらって「オーディオってのはそんなにこだわって音を出すんだね」と、なぜか職人のこだわりと一致していきました。
最終的に工場の中を見せてくれたり、最新の機材を使って精度の高さをデモンストレーションしてくれたり。結果的に「じゃあ、一度設計してみて見積もりするのでまた来てよ」と笑顔で見送っていただきました。
何度か電話で打ち合わせして、だいたい設計の構想が固まったからと再度打ち合わせの予定を組み、それをディナウディオの社長さんに伝えたら「私も行きます。たまにお客様からオリジナルスタンドやラックの制作を相談されるので」となり、一緒に木工所へ。

スピーカースタンドの設計

基本的なコンセプトは「スピーカーユニットから出る音を邪魔をしない」「スピーカーと一体になって音楽を表現する」という2点です。あ、あと「デザイン的に愛せる」もありました。

親方が重要視しているのは何より「安定感」です。地震でも倒れないバランス。それとスタンドの強度。木材は長期的には絶対に変化する素材です。なので、木の繊維の向きや性質を考えて、10年単位で安定して使えるものを考えてくれました。
確かに家具というのは一生ものなので、それを作ってきたノウハウは大変ありがたいものでした。

ディナウディオの社長さんには、私が購入したスピーカーの現物を木工所まで持ってきていただきました。
親方がじっくりスピーカーを眺めて「これの塗装はいいねえ。いい仕事してる。」と。

塗装だけでなく、筐体自体の木部の仕上げや接合、突板の板の取り方など、感心しきりでした。

デンマークの家具作りの技術がふんだんに盛り込まれているディナウディオのトップエンドラインのスピーカーの凄さを親方の言葉で再認識しました。
日本の家具職人から見たスピーカーの木工細工として評価を実に興味深く聞かせてもらいました。

結果的には、親方から
「このスピーカーの仕上げに負けないスタンドにするには、塗装を普通のポリウレタンじゃなくてちゃんとした職人に頼んで鏡面仕上げにした方がいい。それと、構造材と表面の仕上げ材は別にして、無垢の突板にしよう。無垢だから材料によって表情が全て違う。全然雰囲気変わるから、問屋さんに一緒に行って選んでよ」
という提案があり、なかなか大変なプロジェクトになってきました。

なんとなく高額になる気配がしたので「ところで親方、金額めちゃかかるんじゃないですか?」と確認したら「大丈夫。まけてあげるから」という根拠の見えない返事をされるも「まあ、楽しいからいいか。」と次のステップである突板選びをすることに。
続きは後編で。
お読みいただきありがとうございました!!続きもよろしくお願いいたします。

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