日記

「こんな気色悪い世の中に誰がしたんだ」と街に叫んでも、うんともすんとも答えは返ってこない。諦めて、「一体、誰の為なんだよ」と呟くと、後ろから肩越しにに「お前の為だよ」と囁かれる。その声を払うように振り向いても誰の姿も見えない。さっきまで寝そべっていたベットがそこにはあった。私は隣で毛布にくるまってもう一度眠りについた。起きると、ベットの真上の天井に窓が張り付いていた。空も二階の住人も透過していない。二重になっているからかと納得して、内側の窓をスライドさせる。すると、窓は天井にめり込んで、もう閉まらなくなった。そしてより一つ外側にもう一枚、窓があることを発見する。自分が窓を開けてから出来たのか、そもそも最初から三重窓であったのか。窓は開けても開けても、窓の外との距離は変わらない。開け続けてすっぽりと体が天井に埋まった時、ふと周りを見渡すと、そこはさっきの街であった。地面には窓はない。どうやら車道の真ん中に出たようだ。「轢き殺せ」と呼びかけたせいで、向かいの車は車線を変更した。追い越しざまに、ウィンカーが飛び乗れと告げる。それに従ってナンバープレートを引きちぎると、私はキッチンの前で冷凍食品を温めている最中であった。換気扇はキッチンにある調味料を少しずつ吸い取り外に吐き出している。外気の香辛料濃度と内部のそれが一致するまで、換気扇は回り続ける。弱と強をタイミングよく入れ替える事が、粉が舞い散らないためのささやかなコツであった。弱は強の三拍後に、強は強の二拍後になくてはならない。それを七と五に仕分けて四十三拍目で止を押すと、裏道の室外機の上に弾き出された。隣の野良猫に「許してくれ」と嘆くと、私は「5年後にもう一度」と答える。三毛が片足を上げると、私はトイレで用を足していた。排泄物を流す先を見つめても、そこに猫の死体は入っていない。流してしまって惜しいことをしたが、仕方ないので、トイレットペーパーの芯を出てきたウォシュレットの棒に通してから停止のボタンを押すと、トイレの換気扇が回り始める。すると便器の水面は高層ビルの窓ガラスになり、あの街が見下ろせた。「お前らがおかしいのだ」そう確信すると、二つ横の部屋から「違う」と、一つの横の部屋は「同じだ」と勝手に喋り出す。それを私は一階から見上げている。階段は吹き抜け、螺旋状に登っている。その中心へと飛び降りると自室のベットの上に着地していた。そしてまた眠りについた。

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