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「縄中毒」

これぞ噂の・・・

「小学生の冬」
というワードを耳にして、あなたは何を連想しましたか?
わたしは、「小学生の冬=縄跳び」が一番に頭に浮かびます。
そう、これぞ噂の縄中毒です。
当時小学六年生だったわたしは、見事に縄中毒者でした。
冬になると、体育の授業で縄跳びが始まります。
それと同時に、わたしは狂ったように縄跳びをします。
休み時間、放課後、帰宅後自宅の前で。
クラスの男子と、縄跳びの技や回数を競い合う為、自主練習が欠かせなかったんですね。
他人との勝負ということもありますが、縄跳びは自分との勝負でしょうか。
二重跳びでは満足出来ず、三重跳びの記録に日々挑戦していたわたしは、去年の自分よりも、昨日の自分よりも、さっきの自分よりも、一回でも多く跳ぶことだけに集中していました。
冷え切った顔や足に、容赦なく当たる縄。
当たる度に、ひぃぃぃぃ!と顔を歪めながらも、回し続ける、やめられない縄跳び。
だって、わたしは正真正銘の縄中毒者ですから。

中毒者に訪れる障壁

それだけ毎日毎日縄跳びを練習していると、どうなるか知っていますか?
答えは単純。体に痛みが現れます。
中毒者に訪れる障壁です。
実はこの時、既に縄中毒者として三回目の冬を迎えておりました。
足の裏に違和感を抱え始めた時、また、わたしの終わりなき挑戦を妨げる「アレ」がやってきたのだと、静かに悟ります。
静かに悟った後、母に足の裏が痛い!と大声で喚き、整形外科でお決まりのレントゲンを撮り、足の裏だけの簡易的なギプスを処置してもらいます。
整形外科の先生もよくおわかりで、またですね、という感じ。
疲労骨折まではいかないけれど、いつもその辺りの診断を受けます。
そして、足を休めるように、という三年目の注意を聞き、わたしはニコニコと元気に返事をし、帰路につきました。
よし、これでまた跳べるぞ!と、縄中毒のわたしはしたり顔です。

異様な光景


わたしの通っていた小学校は、田舎なので公立だけど制服があり、指定の運動靴がありました。
その運動靴は靴底が薄く、狂ったように縄跳びをする小学生向けではありません。
その時期だけ、底の分厚い運動靴と、ギプスを装着しては履けない上靴の代わりにスリッパを、特別に履かせてもらうよう、母が担任の先生に許可を取ります。
冬になると、一人だけパタパタとスリッパの音を立てて廊下を歩く姿は、少し異様でもあり、わたしの中では、自分だけの冬の風物詩でした。

親への感謝

今、わたしには小学生の息子がいます。
冬休みの宿題に、縄跳びの練習カードを持ち帰り、練習している姿を見て、縄中毒だった小学生の自分を思い出しました。
親になった今、毎年毎年冬になると、狂ったように縄跳びをし、当然のように我が子が足を痛めるんだとしたら・・・
間違いなく、怒ってそんなになるまでやるな!と止めていたことでしょう。
三回目の整形外科の時には、もうそれはそれはプリプリと怒っていることと思います。
わたしの両親は、わたしが出来るまでひたすら練習したい子だと理解してくれていたので、止められることもなく、整形外科に怒りながら連れて行かれることもなかった。
狂った縄中毒者のわたしを、あたたかく見守ってくれていた寛大さに、自ずと感謝が溢れてきます。

それにしても、冬になると、廊下をパタパタと一人スリッパで歩く小学女児は、「私だけかもしれないレア体験」の一つとして、認めてもらえるでしょうか。


#私だけかもしれないレア体験 #縄跳び #中毒者  

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