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女性ホルモンと病気の関係は?

以前公開した記事では、女性ホルモンと呼ばれるエストロゲンは、本当に足りなくなるのか?ということを書きました。


この記事で、一般的にエストロゲンが不足して起こるという症状と、エストロゲンが過剰になって起こる症状が酷似していることをお伝えしました。


そして、外因性のエストロゲン作用物質についてもお伝えしました。

問題はやはり適度ではなく、エストロゲンが過剰になる場合になります。
実際にエストロゲン過剰が数々の病態と関連しています。


今回はエストロゲンが過剰になって起こる病気との関係のごく一部を紹介していきます。

エストロゲン過剰と病気の関係は?

エストロゲンは女性ホルモンと呼ばれてはいますが、過剰になることで様々な病態と関連があります。

がん

エストロゲンが関わる大きな病気としては、乳がん、子宮内膜がん、卵巣がんの重要な決定因子であることが知られています。[1][2]


タモキシフェンやラロキシフェンという医薬品があります。
この薬は、乳がん、生理不順、生理痛の症状に効能があります。
タモキシフェンやラロキシフェンの主な作用は、エストロゲン受容体に結合して抗エストロゲン作用をします。


つまり、この薬が使われるということは、医学でもエストロゲンは乳がんの決定的な因子であることを認めています。


更に、エストロゲンが乳がんの増悪因子としての示唆があります。[3][4]
特に浸潤性のある乳がんでは、正常な細胞に比べてエストロゲンの感受性が高まっていることが確認されています。[5]


全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデス(SLE)とは、免疫システムが異常となり、全身の様々な場所や臓器、組織に多くの病態を引き起こす症状です。


SLEは女性に発症が多く、発熱や皮膚に赤く発疹ができたり、関節痛、息切れ、手足のむくみ、尿の泡立ちなどが起こります。
日本では指定難病に認定されています。


SLEの患者では、血中のエストロゲンと炎症性サイトカインやケモカイン(IL-6、IL-12、IL-17、IL-8、IFN-γ、MIP1α、MIP1β)と正の相関が確認されて、インターフェロン刺激遺伝子の発現が有意に増加していたことが確認されています。[6]


特に妊娠中や月経周期の特定の時期に、エストロゲン濃度が高くなることで、重症化することが証明されています。[7]


一方で、エストロゲンと反対の作用をするアンドロジェンズやプロゲステロンによって、症状がおさまることが確認されています。[8]


子宮の病気

不正出血や子宮内膜症、子宮の様々な疾患は、
体内のエストロゲンが過剰になることで発生しやすくなります。[9][10][11][12][13]
(プロゲステロン抵抗性)


浮腫み

エストロゲンは血管や血液脳関門の透過性を高め、血液成分をリークさせます。[14][15]


肝硬変の患者では、症状として浮腫が起こりやすいですが、肝臓でエストロゲンが代謝できないため起こります。

MEDLEY記事より抜粋

つまり、エストロゲンには浮腫を起こす作用があります。[16]


脂肪浮腫やセルライトにエストロゲンが関与しています。[17]

心血管疾患

過去、冠動脈疾患となった患者に、エストロゲン製剤単独、またはプロゲステロン製剤と併用して処方しても冠動脈疾患や心血管疾患の発生率が減少しませんでした。[18][19][20]


反対に、血管閉塞や胆嚢疾患の発生率を増加させています。
そのため、現在では冠動脈疾患や心血管疾患に対するホルモン療法は行われなくなりました。

静脈瘤や動脈瘤

静脈瘤のある男性は、静脈瘤の無い男性と比べて血中のエストロゲン濃度が高いことが報告されています。[21][22]


ホルモン療法を受けていない更年期の女性ボランティア104名を調査した実験では、静脈血管異常のある女性ほど、血中のエストロゲン濃度が有意に高いことが報告されています。[23]
なお104名のうち、14人はそもそも静脈血管異常とエストロゲンの血中濃度に異常がないことから除外されていました。


腹部大動脈瘤のモデルマウスの実験では、大豆由来の植物性エストロゲンを与えたマウスに動脈瘤の破裂が多かったことが確認されています。
またこの実験では、エストロゲンを産生する卵巣を摘出すると、動脈瘤が増大しませんでした。[24]


血中のエストロゲン濃度が高いほど、遅発性脳虚血(DCI)や動脈瘤性くも膜下出血(aSAH)の傷害の重傷度が高いことが報告されています。[25]

まとめ

近年では様々な病気が増えています。
特に乳がんに関しては、罹患と死亡が年々増加しています。[26]


エストロゲンは身体の中で作られるホルモンなのに、どうしてこのようにエストロゲンと関連する病気が数多くあるのでしょうか。


そこにはエストロゲンが過剰になる要因が見えてきます。

【参考文献】

[1]Estrogens in the causation of breast, endometrial and ovarian cancers — evidence and hypotheses from epidemiological findings
J Steroid Biochem Mol Biol . 2000 Nov 30;74(5):357-64.

[2]Estrogen receptor alpha in human breast cancer: Occurrence and significance. J. Mammary Gland Biol. Neoplasia. 2000;5:271–281.

[3]Estrogen metabolism and breast cancer
Cancer Lett . 2015 Jan 28;356(2 Pt A):231-43.

[4]Iron intake, body iron status, and risk of breast cancer: a systematic review and meta-analysis
BMC Cancer. 2019; 19: 543.

[5]Mechanistic insight of drug resistance with special focus on iron in estrogen receptor positive breast cancer
Curr Pharm Biotechnol . 2014;15(12):1141-57.

[6]Interferon Genes Are Influenced by 17β-Estradiol in SLE
Front Immunol. 2021; 12: 725325.

[7]Genetic and hormonal factors in female-biased autoimmunity
Autoimmun Rev. 2010 May; 9(7): 494–498.

[8]Estrogens and autoimmune diseases
Ann N Y Acad Sci . 2006 Nov;1089:538-47.

[9]Mechanisms of endometrial progesterone resistance
Mol Cell Endocrinol . 2012 Jul 25;358(2):208-15.

[10]Progesterone Resistance in Endometriosis: an Acquired Property?
Trends Endocrinol Metab . 2018 Aug;29(8):535-548.

[11]Progesterone resistance in endometriosis: origins, consequences and interventions
Acta Obstet Gynecol Scand . 2017 Jun;96(6):623-632.

[12]Endometrial progesterone resistance and PCOS
J Biomed Sci. 2014; 21(1): 2.

[13]Endometriosis: pathogenesis and treatment
Nat Rev Endocrinol . 2014 May;10(5):261-75.

[14]Vascular endothelial growth factor/vascular permeability factor expression in the rat uterus: rapid stimulation by estrogen correlates with estrogen-induced increases in uterine capillary permeability and growth
Endocrinology .
1993 Aug;133(2):829-37.

[15]17β-Estradiol Differentially Regulates Blood-Brain Barrier Permeability in Young and Aging Female Rats
Endocrinology . 2004 Dec;145(12):5471-5.

[16]Estrogen Regulation of Aquaporins in the Mouse Uterus: Potential Roles in Uterine Water Movement
Biol Reprod . 2003 Nov;69(5):1481-7.

[17] Lipedema and the Potential Role of Estrogen in Excessive Adipose Tissue Accumulation.
Int J Mol Sci. 2021 Nov; 22(21): 11720.

[18] Randomized trial of estrogen plus progestin for secondary prevention of coronary heart disease in postmenopausal women. Heart and Estrogen/progestin Replacement Study (HERS) Research Group.
JAMA. 1998;280:605–613.

[19] Estrogen plus Progestin and the Risk of Coronary Heart Disease.
N Engl J Med. 2003;349:523–534.

[20] Effects of conjugated equine estrogen in postmenopausal women with hysterectomy: the Women’s Health Initiative randomized controlled trial.
JAMA. 2004;291:1701–1712.

[21] Elevated serum estradiol/testosterone ratio in men with primary varicose veins compared with a healthy control group.
Angiology . 2009 Jun-Jul;60(3):283-9.

[22] Impact of elevated serum estradiol/free testosterone ratio on male varicose veins in a prospective study.
Wien Klin Wochenschr . 2015 Oct;127(19-20):764-9.

[23] High endogenous estradiol is associated with increased venous distensibility and clinical evidence of varicose veins in menopausal women.
J Vasc Surg . 2000 Sep;32(3):544-9.

[24]Female Mice Exhibit Abdominal Aortic Aneurysm Protection in an Established Rupture Model.
J Surg Res. 2020 Mar; 247: 387–396.

[25] Plasma Estrogen Levels Are Associated With Severity of Injury and Outcomes After Aneurysmal Subarachnoid Hemorrhage.
Biol Res Nurs. 2015 Oct; 17(5): 558–566.

[26]総説1 日本人女性の乳癌罹患率・乳癌死亡率の推移
乳癌診療ガイドライン2022年版

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