幸せ、夢、たからばこ(掌編/短編)

 淡い夢を見ていた、で名前なんだよ、一つの。
     ――私立女学院中学の生徒二人の会話より 三月某日
 
  幸せ
 
「ただいま、ツキちゃん」
『お帰りなさい、アリス』
 熱帯の海みたいな色をしたカーテン、雲のラグ、そして……ツキちゃん。この部屋に息づくのは、中学生になった私と一年の歴史たちだ。童話を夢見た小さな王国の、春休み。子供っぽくたっていい。ここにはツキちゃんと、それにマグ君が居て、私の幸せにつき添ってくれる。
 ――いいかえ、アリスちゃん。ものにはねぇ、魂が宿るのさ。
 水やりの様に毎日、煙管や寄木細工の箱や、中でもお婆ちゃんはよく、お気に入りの懐中時計と「会話」した。まだ私たち家族が、母方の実家暮らしだった時だ。
 ――誰にでも出来る訳じゃぁないよ。声が聞けるってのはねぇ、特別でなくっちゃ。
 考えれば、私がそれを信じたのは、無垢な幼さからに過ぎない。でも単純に、楽しそうに笑うお婆ちゃんが好きだった。当時はおままごとだけど、その声は分からないでいて、私も同じ事をした。何年か経って、初めては、お婆ちゃんが亡くなる前にくれた小瓶だった。
『あなたも、私とお話がしたいの?』
 一切の疑いを挟まず、私にもやっと聞こえた、と言う気持ちだけがあった。あれはただ、ものを慈しみなさいって意味の教えじゃない。
 白と青の砂に、ところどころ星型の粒や桜色の貝が入った、コルク栓の小瓶。そのどれか、ではなくて、存在自体が語り掛けている感覚をしていた。何かの弾みに壊してしまうのが嫌で殆ど持ち歩きはせず、窓辺に飾り、お婆ちゃんがそうした様に、毎日言葉を交わした。友達、と呼んでいいかは難しいけど、少なくとも、ずっと私のお守りだった。今は、手元にない。
 小学五年生の一緒の春を迎えられずに、優絵ちゃんは転校した。その時の餞別として手渡したのだ。私にとっても大事な贈りもの、だからこそ、私のかけがえない親友に受け取って欲しかった。相応しいと思った。ツキちゃんは二年越しに届いた、彼女からのお返しだ。
「えっ? 優絵ちゃんだけで来たの?」
 五号館まである、団地の様なアパート群には、建物に囲まれた共用の庭が備えられている。長年の雨に晒されてすっかりささくれ立った木造のベンチに優絵ちゃんは腰掛けて、学校帰りの私を待っていた。植え込みに躑躅の咲く頃だった。
「そうですよ。顔を見せておきたくって。……この事は、内緒にして下さいね?」
「あっ、うん。それはいいけど……何かあるの?」
「後にしましょう、今は、アリスの話が聞きたいです」
 彼女はディジタルの類の連絡手段を持たない。たまの電話や、手紙だけで結ばれていた。離れてからの、私の色々。友達は居るし、思い出も増えたけど、優絵ちゃんの欠けた日常はやっぱり寂しくて、中学に上がるとそれも一入募っていた。だから、本当に嬉しかった。
「優絵ちゃんの方は、どうなのかな」
「……きっと、すぐに分かります。でもアリス、何を聞いても心配しないで下さい。どうかアリスだけは、信じて下さい。これからはずっと、幸せな日々を過ごしますから」
 真意を理解したのは、週を跨いだ火曜日の夕方だった。
「また会いましょう」
 そう言ってふっと私の元を去った彼女は翌日、今度はただ静かに、気配だけを残して、真っ白な兎のぬいぐるみと手紙を、私が住む部屋のドアー横に置いて行った。多分予感の様なものがあって、案の定、ツキちゃんは私の言葉に応じた。
 密会の前日、優絵ちゃんは失踪していた。やがて一冊の日記が発見され、家庭、学校、彼女の悲惨な境遇を示す内容に、誰も味方は登場しなかった。警察は事件も視野に入れて捜索している、と報道されたけど、それは違う。私は、私だけは信じた。行方は現在も知れない。
「ツキちゃん」名前は、ツキちゃん自身がそう答えた。「大丈夫、なんだよね?」
『……優絵の事なら、安心していいですよ、アリス。ぼくが保証しますから』
「でも、私、何も知らなかった。何の力にも、っ」
『気に病まないで、言わない様にしていたのです。……ただ、信じていて下さい。優絵が今、幸せに暮らしているのを』
 音沙汰はなく、月日が過ぎた。彼女の生活を祈りながら願いながら、私は私を生きた。そしてその間、終業式間際のつい先週に、三度目の体験を果たす。
 駐車場脇のごみ捨て場。白い丸眉に、可愛らしくデフォルメされた柴犬のぬいぐるみは、多少の汚れこそ目立つにせよ、そこに居る理由を見受けられなかった。気になって足を止めた私に、マグ君は呼び掛けたのだ。
『オレを、助けてくれるの?』
 スピーカーが内蔵された、マグ君は初めから「喋る」タイプのものだったけど、明らかに録音のパターンや声とは異なる、もう一つの喋り方を私の前ではした。連れ帰ったのは必然であり、義務の様でもある。前の持ち主がつけた名前を嫌がったので、私が直感でつけた。以来、この部屋には常に二人の友達が住み続けている。
『今日は、どちらへ?』
「色々だよね。服見たり、本買ったり、カフェ行ったり。ね、マグ君」
『オレは大人しくしてただけだけどなー』
 リュックから少しだけマグ君の顔を覗かせて、学校の友達と遊びに。外の世界を沢山知りたい、と言うので、たまに連れ出すのだ。傍目から私が変に映るのを気にしてか、誰かと行動する時にマグ君はあまり喋らない。本当に連れ出すだけになるけど、それでも喜んでくれる。
『アリス、明日は暇なのか?』
「うん、特に用事はないかな。どこか行く?」
『行きたい! あっちはどうだ、山の方!』
「あ、いいかもね。私も久々だぁ」麓の公園は幼稚園の頃よく利用したし、夏になると、登山ルートの入り口の一つにもなっている神社で小さいお祭りもやるけど、最近はそっちもご無沙汰だ。「じゃあ、明日はハイキングだね」
『……ぼくも連れて行って下さい、アリス』
「勿論! ツキちゃんも一緒だよ」
 ささやかな幸せの約束。私が、お婆ちゃんの言う「特別」かは分からない。でも、ものと話せる私にとって、他と比べるのがおかしなくらい、二人は大切な存在だ。これは立派な、友達との予定なのだ。
 楽しみを抱えながら、一日が終わる。全てを済ませると、気持ちとは裏腹に、目を閉じて意識はすぐにぼんやりした。
『アリス……ぼくは』
 その欠片から、夢を見ていた事は確かだった。
『マグが嫌いです』
 悪い、夢。水を差す様な、それはとても、悪い夢だ。
 起きてみればツキちゃんは、いつも通りのおはようで翌朝を迎えてくれた。マグ君も変わった様子はなく、私の心だけがざわざわして、苦くて、馬鹿みたい。パンを多く焼いた。一枚はハムやチーズを挟んで、山での昼食にする。その時分には気が晴れて、雑談にもきっと花が咲いている筈だ。
 帰りが夕方にはならない事をお母さんに伝えて、皆で家を出る。普段と同じ荷物、マグ君は収まりがいいから定位置にして、ツキちゃんを抱えた。公園側から、丸太が段を作る山道へ。春の行楽に向いているとは思うけど、花見のスポットでも何でもない所為か、人は少ない。桜の満開も近いし、西の川辺が大盛況なんだろう。憚らず会話が出来て好都合だった。
『すげー、街がよく見えるなー』
「普通の眺めだけど、ちょっとわくわくするよね」
『……好きですよ。ぼくは、この景色……』
「そっか。よかったね、ツキちゃん」
 やっぱり、杞憂だった。気にし過ぎだったんだ、だって、あれはただの夢なんだから。
 頂上にもなると、そこそこの賑わいはあった。周囲の目、ならぬ、耳のない辺りを選んで、二人と素敵な時間を堪能した。稚拙なサンドウィッチが、こんなにも美味しい。
『なー、違うとこから帰ろうぜ』
「いいよ、神社の方に降りよっか」
 木々の間を歩く、足取りは自然と、小鳥の囀りみたいに軽快なリズムを刻む。何よりの証明だった。いい日になったのだ、例え思い出に昇華するには弱い、些細な出来事だとしても。
 神社はいよいよ静かだ。家に近い、裏手の方へ回る――
 ――その瞬間、何か正体の分からない違和感に襲われた。あれ、おかしいな、視界がふっと揺らめいて、
『逃げて! 逃げて下さい、アリス!』
 緊迫した声、同時に、そして私が危険を感知する前に、強い力で顔が覆われた。背中からしがみつく大きなもの、生温かいもの、恐怖も抵抗も上手く機能しないまま、両腕から落としてしまったツキちゃんの叫びが少し遠くなって、私が、奪われて行く。……どうして? ……どうしよう。思考に、どんどん取り止めがなくなる。拾わなきゃ、ツキちゃんを。汚れちゃう、離れ離れは嫌だよ。マグ君……マグ君は黙り込んでいる。どうしたの、かな。私を、助けてくれないの?……
 浮遊感、定まらない景色、後部座席、ドアーの閉まる音……ツキちゃんは隣に居た。リュックもある。よかった、一緒だね。ちゃんと皆で、揃って帰らなきゃ。
 幸せな日に、なったんだもんね。
 
     ――――
 
「……あなたは、ただの『夢の器』ではないのですか」
『ええ、違うわ。私はね……』
     ――??? 一年前、一月某日
 
  
 
 やっと俺は、新たに柏木アリスと言う一人の少女を見つけるに至った。……欲しい。飢えていた、訳ではないのだが、いざ獲物が現れると、血肉の騒ぐ様な感じがした。
 ただ、面倒があった。だから、より確実に遂行する為の、より不確実な方法を取る。遠回りだ。それもリスクを鑑みれば仕方はない、俺は、捕えられる側には決してならない。
 盗聴器をぬいぐるみに仕込むのは、音が不明瞭でよくないと何かで聞いた気がしたが、いずれにせよ手段は限られている。テストと、可能なだけの改良は重ねた。マイクとスピーカー、よし。盗聴器……よし。充分だった。後は運命が、上手く運んでくれる事を祈るだけだ。分の悪い賭けなのは、元々分かってやるのだから。
 そろそろ帰るだろう、と言う時間、ごみ捨て場にぬいぐるみを投棄して、目の届くところで張り込む。やがて少女が姿を見せ、計画の幕は上がる。
「オレを、助けてくれるの?」
 演技が巧みだなどとは、自分でも思わない。声も低い。少女に取り入りやすい様、可愛げなぬいぐるみに相応しく、まだ自然に聞こえる程度の声を努めたが、自分では気持ち悪い事この上なかった。しかし少女はその怪しい「もの」が語り掛けるのに怯えず、面白がらず、疑問一つ持たず、そのままぬいぐるみを抱えて住居の方へ消えた。そして恐らくは、自分の部屋に戻るなり、嬉々として「会話」し始めた。
『ただいま、ツキちゃん』
『お帰りなさい、アリス』
『ねえツキちゃん、この子なんだけど――』この仕掛けが少女の世界の一員になる、それはあまりにも順調な過程だった。
 向こうではマグと名づけられた俺の口車に従って、少女は幾度か街を歩く。映像はない。不自由は割り切るしかないが、下見でどうにかなる場所なら先に赴き、矛盾は極力生じない様にした。そして外出中、周囲の状況が掴めないと下手に話す事も出来ないから、安全を確信するまでは黙っていた。何せこれはただの音声なのだ、少女以外の誰にも聞こえてしまう。
 少女の様に無自覚な「淡い夢を見ていた」を、俺は知らない。特殊なケイスと考えてしかるべきだろう。しかしながら間違いはなかった。盗聴器は「ツキちゃん」の声を拾っている、俺にもそれが聞こえている事は、何よりの証拠だ。
 どう観察したって柏木アリスの分身は、己の生まれも「夢の器」についても、まともな認識を得ていない。「淡い夢を見ていた」は常々、現実から逃れたいと言う人間の強烈な感情が発生源になる。夢と現実を、入れ替えて。実体は夢の世界に移り、代役として初めて、俺たちは空間に存在する。本来の姿形から人格、記憶をも完全に学習・模倣した上で、「淡い夢を見ていた」としての意識も持ち合わせ、自分の実体、主の幸福を義務にして生きる。そしてその為に、俺たちは食い合うのだ。
「夢の器」は、俺たちに備わる能力によって「淡い夢を見ていた」を物質化したものだ。その多さは夢に影響を及ぼし、資産となる……生み落とされた瞬間からそう知っているだけで、作用を確かめる術はこちらにはないのだが。何にせよ、自分の主へと捧ぐ戦果だ。幾ら誤っても狂っても、放棄する事など決してあり得ない。
『じゃあ、明日はハイキングだね』
 しかし少女はマグを受け入れた。無自覚の脆弱性だ。この遠回りな手段はただ一つの危険、無自覚の少女が「夢の器」を持っている、この競争に誰かが敗れた事実を懸念した。
『……ぼくも連れて行って下さい、アリス』
 意識せずに振るう力くらい、恐ろしいものはない。今まで相対した封じた同種の中でも、少女だけが読めない異端だった。
 捕えられた側の実体は、この世界に戻る。初めて存在が二つに分離する。幸せな夢から覚めてしまえば、主の多くはやはり、直前に考えていた通り死を遂げると言う。これについても、真実を追うのは我々には難しい。そうだろう、とは思う。それでも他者は考慮しない。俺たちは、自らの主だけを正義にした存在なのだ。
 仕上げの段階だった。残すは俺の有利を準備し終えたその場所に、誘い込む工程だけ。
「なー、違うとこから帰ろうぜ」
『いいよ、神社の方に降りよっか』
 石碑の近くで待ち伏せる。凡そ二〇分が経ち、最後の時は来た。
 捕らえ方は、それぞれの同種毎に違う。気は抜かない。意識に影が差し、隙の出来る瞬間を見計らって、仕掛けた。既に効果の中へ踏み入れた少女、侵蝕は始まっている。腕の中で、少女の脱力が分かる。ここまで来たならば最早、抵抗の余地はない。
 小さな体が、その場に倒れる。次第に姿を変え、やがてその形が定まって――定まり切らない。歪む。歪み続ける。事態が飲み込めなかった。慌てて少女と、遺留品を持ち去る。後部座席に放り込み、車を急発進させる。
 異例の現象は、決着しなかった。
 それは車内でも、拠点に帰り着いてからも変わらず、
 いつまでも少女は、「夢の器」にならなかった。
 
     ――――
 
 ……以降、行方が分からなくなっており、県警は本日、公開捜査に……
     ――夕方の報道 三月某日
 
  たからばこ
 
 何の力にもなれなかったのは、ぼくの方。……アリス。形振り構うべきでは、なかったのでしょう。マグは明らかにおかしいと騒ぎ立てれば、却ってぼくの態度が疑われそうで。「どうして、仲よくしよう?」そう言うあなたがありありと想像された。ぼくとマグの関係を取り持とうと、アリスなら努めたと思います。それでは駄目だった、けれど、優しさを蹴るのが、ぼくは怖かったのです。……許して、とは言いません。もう、遅いのですから。
 明らかに人家とは異なる廃墟めいた場所が、車の終着点。見た限り、ホテルか何かの残骸みたいだ。男はぼくやアリスや、その他積み込んだものを暗い一室へと運ぶ。様々なものが陳列されていて、きっと彼が集めた「夢の器」の、宝物庫。その頃には、男の動転も些か抑えられていた。
「どうなっている? 最後まで、異端だと言うのか?」
 歪み。「夢の器」どころか、ものにさえ。こんなにも痛ましい姿のアリスを、長くは見ていられなかった。
「……罪人さん、お話しが出来る状態にはなりましたか?」
「何だ、お前は。なぜ勝手に、俺に語り掛けて来る」
「今なら、いいかと思いまして。事故でも起こされたら、堪りませんから」
「……お前まで異端なのか? ただの『夢の器』ではないのか?」
 かつてぼくが、あの小瓶に問うた事。全て一連の歯車だとしたら――間違ったのは、ぼくなのでしょうか、アリス。
 三ツ橋優絵を引き継いでぼくが生まれた時、まず確かめたい事があった。アリスから贈られた、ぼくの宝物。美しい彩りを詰めた「夢の器」と、ぼくになって初めて言葉を交わす。
『ああ、駄目だったのね? 力及ばず、なのは、承知していたけれど』
「……あなたは、ただの『夢の器』ではないのですか」
『ええ、違うわ。私はね……』
 経緯を一切聞き出した時の衝撃は、ぼくを圧倒した。二、三箇月くらいか、暫くの間、それについて悩む程に。そしてぼくがその選択を決意した時、小瓶は地面に叩きつけて割った。
「……そうですよ。ぼくはただの『夢の器』ではありません……『同一』なのです」
「同一、とは、何を言っているんだ?」
「簡単な事です。『淡い夢を見ていた』は、『淡い夢を見ていた』を『夢の器』にする能力を有しているでしょう? ――それは、自分に対しても有効なのです」
「……では、まさかお前は、」
「所有者と所有物が同一の場合、『淡い夢を見ていた』と『夢の器』も同一の存在になる。この状態になると、人の身としての死も訪れませんし、そして既に『夢の器』となっていますから、誰かに変えられる心配もない。……自分が永遠の魂として囚われる代わりに、主は永遠に夢の安息を得られるのです」
 実体でなく、「淡い夢を見ていた」が現実で死を迎えれば、その人が死んだ事として処理され、夢の中に居た実体は、夢として消える。「夢の器」にされた場合は、実体が世界へと引き戻される。いずれも不自然な影響、客観的な矛盾はない。
 けれどあの小瓶や今のぼくは「淡い夢を見ていた」としては生きていて、尚且つ「夢の器」として、存在は二つに分離する。だから、実体は帰って来ない。突如失踪した様に、この世界には映る。そして物品としての自分が壊れ、「淡い夢を見ていた」と「夢の器」、どちらの存在としても自分を維持出来なくなったところで、もう、実体とは無関係になっている。ぼくの主、三ツ橋優絵はずっと夢の中で暮らし、分身のぼくは、心残りだったアリスの近くに身を置く事にした。直接会って、心配ないと伝えてから。
 どこかで幸せに生き続けるのだと、見せ掛けてから。
「……さて、そろそろですね」
「まだ、話があるのか」
「言ったでしょう? ぼくは『淡い夢を見ていた』でもあるのです。……教えてあげましょうか。『対象の半径一〇メートル以内に居続け、一時間が経過した瞬間』。ぼくが同族を『夢の器』に変える能力は、それを条件に、発動するものです」
「貴様、その姿になってまで……!」
「……呆れました。まだ、お気づきにならないのですね」
 あなたを所有しようとなんて、ぼくは微塵も思ってはいない。それは単に結果としてついては来るけれど、目的はただ一つ――せめてもの贖いと報復なのですよ、罪人さん。
「何だと?」
 その力で、存在を強引に歪められて、
「あなたが、全ての『淡い夢を見ていた』が実体の代役を務める存在である様に、ぼくの声は人を選ばず、誰にでも聞こえます……ぼくはただの『夢の器』ではないのですから」
 彼女はきっと、もう戻らない、
「そしてアリスはずっと、ずっとぼくの側に居てくれました。勿論、一〇メートル、一時間と言わず、ずぅっと、ね。――もう、お分かりでしょう?」
 もう、戻れない。
「アリスは、ただの人間だったのですよ」

 この朽ちた場所で、朽ちるまでぼくの意識は残り続ける。それが自分への罰になればいい。
 ただ、あなたは違う。ならば、違う償いをして貰うしかない。
 あなた自身が、この宝箱を飾る一片となり、
 そして、淡い夢に相応しい末路を。
「さあ、罪人さん」
 さようなら。最後の一秒が、終わる。
「死んで下さい」
 その罰を、今なら告げられる。


 あなたには「淡い夢を見ていた」で始まり、「今なら告げられる」で終わる物語を書いて欲しいです。
#書き出しと終わり
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