原初的第Ⅹ感(掌編/短編)

「インディゴの国がある」。
 
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〈その手はまたも遠くへ。哀しみとダイス。現実投影。
 ぼくはまた祈るの? 閉じた目のままじゃいられない。嘘を焦がして。闇を汚して。運命を揺らして。〉
 
〈白馬を願えば見える無駄な詩の、頻りに傾いてゆく修羅場に酔う。封筒の奥はよろずの灰、降り立つわたくしの幸運たち。
 硝子の死骸朽ちて、まだ少し足りず最後の愛を捨てる。火照る、燃やす、片隅の迷子。黒ずんだ七色の反応材料。
 この時だけに叱られた一言で陽だまりが綻びている。背徳? 企み? 綺麗な振りで、時計で二つが遺伝隠している。
 今は危険じゃなく、嗾けたのは誰か下手に急かさずに。そっくりな靴、未来の塔。立ち止まるいつの間にか視界はもう。〉
 
〈その手はまたも遠くへ。こんな時代に素数はまず小さな音で掻き鳴らす。哀しみとダイス。現実投影。鏡で見た明日の姿さえ不正解です。
 ぼくはまた祈るの? 閉じた目のままじゃいられない。嘘を焦がして。闇を汚して。運命を揺らして。〉
 
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「昨日、私の新しいコレクションが増えたの」
「小さなお庭に、仲間が出来たのね?」
「そう。今度は、石。掌で転がせる程の大きさしかないけれど、そこに美しさと魅力がぎゅっと詰まっている」
「相当、いい出会いだったのね。いつになく弾んだ声だもの」
「だから、あなたに、見て欲しくて」
「是非ともお願いしたいわ。行きましょう」
 
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〈薄暮を埋めて景色がほら時を課さなくなった。榛の木のナイフで狐を刺そうとしたんだ。暗喩の作家がパンを齧って過去ごとしがらみから放してくれと身代わりの簪を差し出せばきみが笑っているの。
 阿呆だらけの反対票。こんな異常でも喝采を浴びた、それだけペンがおめでたいみたい。堪えろ革命の反証なら意図が曇る。この街に鐘が鳴る妄言を閉じた血の感触。
 狙撃犯へ、虚栄心だけだと思ったら表現媒体の手紙も誇張の超過だ。隔離が剥き出す威圧に静か、且つ三日月が不始末に死んだ。
 弾けた去り際も一見ただの疑問、愛募って迫った雷雨を責めるな。言葉のゼロが遡る音は目を疑い後がない定めは忘れた。剥製だ。
 引火、熱を失うまでに固まれ。〉
 
〈その手はまたも遠くへ。こんな時代に素数はまず小さな音で掻き鳴らす。哀しみとダイス。現実投影。鏡で見た明日の姿さえ不正解です。
 ぼくはまた祈るの? 閉じた目のままじゃいられない。嘘を焦がして。闇を汚して。運命を揺らして。〉
 
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「とっても綺麗。どこで見つけたの?」
「海の中。集めた石では一、二を争うくらい気に入っている」
「……素敵な青。吸い込まれそう」
「反対側からも見て。よく分かる。ところどころ、緑に煌いているのが」
「不思議な模様ね。形もよく整っている様に見えるけれど、加工をしたの?」
「いいえ。きっと長い年月の中で、自然にこうなったのだと思う」
「……本当に凄いわ。だってまるで、生きているみたい」
 
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 突然だった。私が或る一つの絵と向き合う事になったのは。それは「やって来た」。目にした瞬間、膨大で取り留めのないイメイジが思考を襲い、凌駕した。理解は消えた。脈絡も意味も奪われた辛うじて詩の様な混沌と、秘密めいた会話。これが数秒も待たず脳を支配した。真理と呼ぶのも恐れてしまうくらいの、形容しがたい何かが存在している。
 私は思わず外へと飛び出して、路傍の石を乱暴に掴んだ。
 手を開くと、黒み掛かった茶色が私を汚している。
 私はもう、それを土の汚れだとは思えなかった。
 気づいた。潰れた。――生命を、潰した。
 ああ、私も、私たちも。
 全ては。
 
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「以前、あなたが自慢してみせたのは『クルアライト』って名前だったわね」
「わざわざ、覚えているの」
「フフフ、当然でしょう。あなたの大切なものじゃない。それで? この小さな石にも名前はあるのかしら?」
「うん。これは」
 
 イン・ヴィトロ・ユニヴァース。
 
「地球、って言うの」


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 この作品は「創作交換」と言う企画から生まれました。
 私の小説とお相手の絵、まずは互いに自由な創作をし、交換し、それを元に更なる創作をしよう、そんな企画です。
 私からは「消極的創世記」(特に無茶なやつで本当にごめんなさい)を放り投げ、お相手からは「クルアライト」と言う絵をお借り致しました。これが私なりの「クルアライト」の具現化です。狂アライトじゃん。