読書記録#002「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

本日の読書記録は大前粟生 著の「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」。
蔵前にある新刊書店の透明書店で購入した。
2年前に映画館で映画を観てから原作も読みたいと思いつつ、本屋で出会うことがないままだった。

大学に進学した主人公が「ぬいぐるみサークル」で出会う人、特に二人の女性との関係を通じて浮き彫りになる自身の持つ加害性と被害者としての側面に悩むさまが描かれる。

飲み会のノリ、容姿いじり、マッチョな思考とは相容れず距離をとる主人公は「男らしさ」から遠い存在である一方で、電車に不安を感じずに乗ることができる、そんな男であることの特権性にも苦しむ。
主人公のそんな葛藤には自分も共感できる部分がある。自分の周りを見渡しても、飲み会での酒ありきのコミュニケーション、下世話な話、人の容姿への言及、消費される個性など、辟易するとともに軽蔑したくなるような出来事に溢れかえっている。

苦しさや生き辛さを、ぬいぐるみに話しかける人たち。
生身の人間に辛さを伝えることで、その人たちを傷つけたり、不意に苦しみを背負わせることが怖い。そういう感情がぬいぐるみへと向き合わせるという。今作の優れているのは、そうした「やさしさ」だけが大事にされるわけではない点にあると思う。
白城という登場人物はぬいぐるみには喋りかけない。女性の抱える生き辛さに関しても「現実に存在するもの」として諦めとも怒りとも形容できないような受け止め方をしている。その中でうまく生きる術を駆使する。

そんな人々の織り成す物語の最後に刻まれる一文に、心を掴まれた。


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