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お猿が 家に やってきた

お猿がうちにやってきた。
朝10時少し前、居間の窓から庭を見ると お猿が1匹、目に飛び込んできた。私の視界の左から右へ ゆっくり歩いている。その先の柵の上には、小猿が1匹すでに座っていた。ゆっくり歩いていた猿は 小猿のいる柵の前で止まると ゆっくり腰をおろした。腰をおろしたところが、うちの庭のまん中あたりになる。まん中あたりと言ったのは、実は今、うちの庭は特別な状態にある。庭の体をなしていないのだ。
何年か前の大雨で、家の前の川の土手が水にもっていかれた。そして庭も もっていかれた。ちょっと前にやっと庭と土手に土が入ったところで、庭であったところは、まだ ジャリの空き地なのである。土手と川の間に柵があるばかりで、草木もなく、家の仕切りの柵もない。なので 見通しがよく、猿の姿も よく見えるというわけだ。

小猿は細い柵の上で遊んでいる。座っていたかと思うと 横になったり、なまけもの よろしく、4つの手足でバーを握ったまま ぶら下がり、一回転して元に戻ったりと自由自在だ。柵の前に腰をおろした猿は、うちの庭に生えている雑草に手を伸ばすと 口に入れた。実をつけていた豆を食べたようだ。土を肥やすために、みてくれは悪いのだが抜かずに残しておいた雑草だ(カラスノエンドウ)。人間が食べたりする代ものではないが、猿のロに合ったのなら 抜かずに 置いておいたのは良かった。なんだか うれしい。

その2匹の右の方に目をやると 更に2匹いることに気がついた。2匹は川岸にある 枝が川に突き出た ニセアカシアの木に どんどん登っていく。座り心地の良さそうな枝を選んで、それぞれが違う枝に おさまっている。猿たちは しきりに ニセアカシアの白い花を手で たぐり寄せている。はちみつが取れる花だと聞くから きっと甘いのを知っているのかもしれない。

小猿の方に目を戻すと、柵の上の小猿も 柵の前の猿も、もう姿はなかった。どこへ行ったと あちこち目を凝らすと、川向こうの竹林の1本の竹が 不自然に揺れている。というよりも 誰かが揺すっているように ワサワサ小刻みに 竹の てっぺん が動いている。その辺りを じっと見つめる。すると、スルスルと竹に登っていく猿が見えた。そして近くの別の竹に 地面から飛びつき、同じように スルスル登っていく別の猿も見えた。すぐに最初に登った猿がスルスル下りてくる。すると 後から登った猿もスルスルと下りてきた。その猿が 先ほどの小猿たちなのかは わからないが、竹から下りた2匹は、竹林のうしろを見え隠れしながら 左から右へ歩いているのがわかった。

ニセアカシアの猿たちも、いつのまにか 木から下り、川を渡っている。そして後をついていくように 竹林の中に消えていった。

それにしても 猿が歩いた川岸の小径は、それなりに人も通る。やっかいな人と 鉢合わせでもしたら どうするんだろう。それとも そんなヘマはしないというのだろうか。人が通らない時を狙っていると。
あるいは、自然に呼ばれたか。どんな動物も(もちろん人間だって) どうしても自分の家から出たくなるような時がある。まさに そんな 初夏の気持ちのよい日だった。

いづれにせよ、私にとっては愉快で、極上な時間であったことは間違いない。

(冒頭の写真の中に その時の猿が1匹いるよ!)

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