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日本初の「シャンパンホテル」誕生秘話。フランスの"ものづくり"に想いを馳せる。【Newsletter 旅先案内人 vol.10】

こんにちは。ホテルや旅館を運営する、温故知新です。

普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。

noteではバックナンバーを掲載しています。ここからは【3月5日 配信 旅先案内人 vol.10】の内容をご覧ください。
(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f 等)

350年の歴史と、造り手たちの哲学が詰まった美酒「シャンパン」。

「シャンパン」と聴くと、ハリウッド映画の中で恋人たちがグラスを傾けるシーン、F1の表彰式など、祝祭や華やかさの象徴として思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

煌びやかなイメージが強いシャンパンですが、実は350年以上の歴史を紡ぎ、地道な苦労を重ねてきた、文化的側面も併せ持つお酒なのです。

シャンパンはフランスのシャンパーニュ地方でつくられ、かつ、ぶどうの品種や栽培、伝統的製造方法など厳しい条件を満たしたもののみ、名乗ることができます。

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2015年には、フランス・シャンパーニュ地方の「畑、メゾン(※)、セラー」がユネスコ世界遺産に登録。(※メゾンとは、ワイン生産者のこと。)
他のワイン産地に類を見ない独特の醸造や生産、販売の方法、地域や自然との関わり合いの中で育まれた文化が評価されてきました。

通常のワインとは異なり、非常に細かい製造工程を経て完成するシャンパン。美しく立ち上る泡と繊細な味わいは、各メゾン(生産者)のクラフトマンシップの上に造られています。

華やかなブランドやマーケティングの裏に隠れてしまいがちな、シャンパンの物語。そんな造り手たちの情熱や世界観を、遠く離れた日本で体感するために。

この秋、私たちが運営するホテルブランド「okcs」から、日本初のシャンパンホテル「Cuvée J2 Hôtel Osaka」(キュヴェ・ジェイツー・ホテルオオサカ)が誕生します。

ホテルの仕掛け人は、日本にシャンパン文化を広めた第一人者。

いまや、レストランやバーでシャンパンを気軽に楽しむことができますが、数十年前までは、街中でカジュアルに飲めるお店はまだ少なかったといいます。いわば、日本の”シャンパン黎明期”。

そんな時代から、フランス現地へ幾度となく足を運び、造り手の想いと情熱にふれてきた、一人の男性がいます。J.S.A.認定シニアソムリエの山本一人さんです。「日本にシャンパーニュ文化を造る」という想いのもと長年活動をしており、現在はシャンパンバーの経営などを手掛けています。今回のシャンパンホテルは、彼が全面プロデュースのもと実現しました。

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山本さんは、2012年に日本にシャンパーニュ文化を広げることを目的とした「リヤン・ドール・ドゥ・シャンパーニュ」を創設。シャンパーニュの祭典を各地で開催するなど、日本最大級のシャンパーニュイベントをオーガナイズしています。

他にも、ルイ14世の宮廷貴族たちによって設立されたシャンパン愛好団「シャンパーニュ騎士団」から、上位ランクであるオフィシエ(将校)を叙任。生産者達も、山本さんのシャンパーニュにまつわる様々な活動実績と人柄に、厚い信頼を寄せています。

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人生を変えた、1本のシャンパーニュとの出会い。

彼のシャンパーニュ人生のスタートは、20歳の頃に参加したワイン会から。わずか5つの年代(1979年、1981年、1982年、1983年、1985年)しか世に出回っていない稀少なボトル「シャルル・エイドシック・シャンパーニュ・チャーリー・1985」と衝撃的な出会いを果たします。その芸術的な美味しさに魅せられ、奥深い世界へと誘われていきます。

他のワインでは表現できない、繊細な味わいと、泡の煌めき。シャンパンを口にしていると、不思議と嫌なことを忘れ、幸せな気持ちになる。

「人々を魅了するこのシャンパンたちは、一体どのように作られているのだろうか?」

ミステリアスな美酒の背景に興味をもち、はじめてシャンパンの故郷フランスを尋ねたのが、いまから25年ほど前でした。


ブドウが作れる、北限ギリギリの地。厳しい環境で育つ情熱のワイン。

シャンパーニュ地方は、ブドウ栽培ができる北限ギリギリの、非常に冷涼な地域です。霜や雹、雪により大きな被害を受けることもしばしば。ブドウの栽培に恵まれているとは決して言えないエリアです。

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山本さんがはじめてシャンパーニュ地方を訪れたのは、1990年代のはじめ。日本人が旅でシャンパーニュ地方を訪れることも、あまり多くはありませんでした。現在のようにワインツーリズムの環境も整っていないにも関わらず、どの生産者も遥か遠い国からの客人を「ようこそ、ムッシュ山本!」と、まるでファミリーを招き入れるように、暖かく出迎えてくれました。

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大手のメゾンから、家族経営の小さなメゾンまで、様々な生産者を訪ね歩き、山本さんは、シャンパーニュの人たちの匠の技と哲学を、身を以て体感します。

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厳しい環境を逆手に取り、寒い地域だからこそ生まれる、切れ味や酸味を活かす。「アッサンブラージュ」という異なる生産年のワインをブレンドする伝統技法が発展し、高いクオリティを保ち、生産し続ける。手間隙を惜しまずに造られる、クラフトマンシップの集大成。

「人の手が加わらないとできない、匠の産物。これが、”シャンパーニュは芸術”と言われる由縁か、と感じました。そしてなにより、この寒く厳しい地域に、飽くなき情熱を持ってものづくりに携わる人たちがいる。彼らの”熱さ”を伝えるのが僕らの仕事だ、と今でも強く思っています。」

と、山本さんは語ります。


再現性のないホテルを造りたい。唯一無二のホテルブランド誕生秘話。

当初、「インバウンド需要を狙った、ビジネルホテルを大阪に作って欲しい」というホテル計画の依頼があったのが、今から1年半ほど前。しかし、大阪には建設中のホテルも多々あり、単なるビジネスホテルを作っても競争が激しく差別化できないと、代表の松山は頭を悩ませます。

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そんな中、大阪を拠点に、シャンパーニュ界のキーマン山本さんが活動していることを知り、今回のホテルの話を持ちかけます。そこから、山本さん自らフランスの生産者たちに働きかけ、シャンパーニュメゾンとコラボレーションしながら、1つのホテルを創り上げていくことに。

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日々多くのホテルが誕生していく中で、私たちokcsブランドが大切にしていること。それは、「ひとつひとつの宿に丁寧に向き合い、唯一無二のコンセプトを掲げる」ということです。

土地の風土、建築、歴史、食、カルチャー、人。そんな具象にフォーカスし、私たちの視点で紐解き、ホテルとして表現をする。それが、誰にも真似できない”再現性のないホテル”を造ることに繋がると考えています。

【山本さんのロマンと想いに、賭けてみたい。】

山本さんがいなければ実現できなかった。誰かのロマンを応援し、寄り添い、伴走していく。個人の熱い想いとつながりの中で、生まれていく1つの宿。そんなホテルがあってもいいのではないか。これが、”シャンパンホテル”の誕生のきっかけであり、私たちが”再現性のないホテル”を造る理由です。

なぜ大阪か?もう一つの理由は、派手なことも、ちょっと気取ったことも、活気のある大阪なら許されてしまいそうな街の雰囲気に、今回のコンセプト「シャンパン」がマッチしていると考えました。ちょっとした思いつきと、遊び心です。(笑)


彼らが教えてくれるのは、受け継ぐことの本当の価値。

とある夏の日。山本さんは、フランスと日本を繋ぐために、シャンパンの「夏祭り」のイベントを主催します。ランスの大聖堂、トー宮殿という世界遺産を貸し切った一大イベントとなり、多くの日本人が開催地である現地に足を運び、約50の生産者がそのイベントに参加してくれたそうです。

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イベント終了後、参加メゾンのひとつであった、「シャンパーニュ・シャルル・エイドシック」を訪れオーナーのステファン・ルロー氏と話す機会がありました。

山本さん:「今回のイベントで、すぐにシャンパンが広まるような貢献はできていないかもしれない。けれど、参加してくれたゲストは、絶対にこの日を忘れないし、楽しかった瞬間を語り継いでくれるはず。ここからはじまる大きな広がりを育み、未来に繋げていきたいと思っている。」

ルロー氏:「大丈夫、わかっているよ、ムッシュ山本。こういうことの積み重ねが、広げていくということだと思っている。ありがとう。」

山本さんは、涙が溢れ、会話を続けられなくなってしまったそうです。

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遥か遠い国の文化は、造り手の顔が遠く感じられてしまい、直接生産者の声を聴くことも、匠の技術を見ることも、容易ではありません。マーケティングの力によって、華やかな側面に目を向けられがちで、その裏にある物語を伝えるのは、一人の力では難しいことも・・・。

そんな悩みや葛藤を持ちつつ活動してきた数十年が、肯定された瞬間でした。

「シャンパーニュの生産者は、とても長い視点で物事をみてくれるように感じます。350年の歴史と伝統に誇りを持ち、継承してきた彼らの価値観が現れているのかもしれません。消費社会の中で生きる私たちに、”続いていくこと、受け継ぐことの価値”を教えてくれる気がします。長い長い文化の延長線上に、私たちはいるということを。」

メゾンの世界観に浸る。「泊まれるシャンパン体験」を。

今秋大阪にオープンするシャンパンホテル「Cuvée J2 Hôtel Osaka」では、複数の名門生産者と共にコンセプトルームを造り上げます。14階のペントハウスは、映画「007」にも登場しジェームズ・ボンドが愛した「ボランジェ」とのコラボルーム。

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その他のフロアも、様々な生産者のシャンパーニュの世界をお愉しみ頂けます。部屋にはメゾンからのメッセージや代表的なシャンパーニュボトル1本など特別なプレゼントをご用意。

まずは、シャンパーニュを飲む喜び、食、美しい空間に酔いしれて。そしてぜひ、各メゾンの哲学・デザイン・ストーリーなど、普段なかなか知ることのない、文化的背景にも耳を傾けてみてはいかがでしょう。

様々な造り手のドラマと歴史に触れながら、乾杯の喜びと美泡の余韻に浸るひと時をお過ごし頂けることを願っています。


編集後記

いつも、胸の中に大切にしまっている言葉があります。

「普段は見ないようなものを見たり考えないようなことを、考えるというのは、観光の本質ですよね。」

私がよく通っているホテルのオーナーさんが、ふとおっしゃっていた言葉です。いつもと違う空間(ホテル)に身を置くからこそ、そのモノが持つ違った側面に触れられることって、あると思うんです。

このシャンパンホテルが、熱さを秘めた"もうひとつの物語"たちに触れていただける、そんな場所になれば良いな、と考えています。
小林未歩 (温故知新 プランナー)

Cuvée J2 Hôtel Osaka

Official site:https://www.cuveej2.com/


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