[創作]年下ヤンキーとオタクな大学生とモデルの俺

「嫌です」
 
世間で認められる、人気者でイケメンで彼氏にしたいNo.1の男が人生で初めて言われた言葉である
姿を現すだけで黄色い声援が飛び交い、
目を合わせれば失神する者あとを絶たず、
なにより、手の甲にキスを落とされた暁には、彼の虜になること間違いなし
………の、はずだった













[知らないなんて言わせない]













数時間前のことである


俺、神宮寺音弥はモデルをしている
28歳、付き合ってる彼女は15人

雑誌に載れば、発売日には完売
TVに出れば、視聴率は倍
街に繰り出せば、ヌーの群れのごとく人だかりが出来る

この世で最もモテてる男だと自覚している

自画自賛?高慢?
敢えて言おう

その言葉は、俺の為に使われる存在なのである
自分の素晴らしさを褒めずになんとする



「あの!」


大声で呼びかけられ立ち止まる音弥
振り向くと、20代前半くらいの女性が居た
その後ろに友達だろうか、頑張れーと口パクしながらその女性を見守っている

ここは街中、仕事はオフなのでお忍びで出かけていた
だが、姿を隠しきれないのが難点だ
すぐにあの人気モデルの神宮寺音弥だとバレてしまう
困ったものだ…

「あの!私!いつも雑誌とかTVで見てて!ファンです!サイン下さい!!!」

顔を真っ赤にし、手が汗ばんで、ギュッと目を瞑っている
なんて可愛らしいんだ
勇気をもって話しかけてくれたファンにサービスしないでなにがモデルだ


「いいよ?何処にサインされたいかな?」

「あ!え、えっと!服の上に!!」


女性はそう言って、サインペンを渡してきた
音弥はペンを受け取ると、女性の服の裾に手馴れた手つきでサラサラとサインする
そして、

「あと、これもおまけ」

「え?」

音也は背をかがみ、女性のおでこにキスをした


それを見ていた他のファン達は「きゃあああああああ!」と高々に悲鳴を揚げ、
キスされた女性は魂を抜かれたように動けず、
その光景を見た音弥は満足気に去っていった


「ちょ!羨ま!!やばくない!!」
「…私もうおでこ洗わない」
「ねぇあんたのおでこにキスしたら、音弥と間接キスしたことになるかな?」
「ふざけんな!ぜってぇさせねぇよ!!」




さて、先程も言ったように音弥はお忍びでお出かけ中なのだ
なるべく多くの子にファンサービスをしてあげたいところだが、街の真ん中でゲリライベントが発生してしまうのは公共の場としては些か宜しくない
音弥もこう見えて社会人で常識人である

「お?この道に行こう」

細い路地を見つけた音弥はひょいと入っていく
昔もよくこんな古びた細い路地に入るのが好きだった
いつもは女の子に囲まれてライブのような毎日だが、たまにはこんな人もいない暗い場所も落ち着く

ふんふふんと鼻歌混じりに歩いていると、
また後ろから声をかけられた



「あの」


振り返ると、ストレートの黒髪にロングスカートを履いた女性が立っている
清楚系で少しオドオドしている

おっと、またしても女の子だ
困ったなー、俺の存在自体罪だと自覚してるが、蔑ろにしないわけにはいかない

「なんだい?」

お忍びで来ているとはいえ、溢れ出るオーラは隠しきれないか…
なんとも悩ましい、だが見つかったのなら仕方ない

音弥は自分の後を追いかけたファンの子だと思い、にこにこしていると


「お財布、落としましたよ」


そう言って女の子の手元を見ると、青いレザーの財布があった

どうやら、音弥が落とした財布を見つけて届けに来てくれたようだ

(あ、そういえば…後ろポケットに入ってない)

右手でズボンの後ろを確かめると、何も入っていなかったことに今気づくのであった

(なんて心優しい女の子なんだ、わざわざ届けてくれるなんて…よし、それならば…)

音也は女の子に近づく
そして、自分の財布を貰い受ける


「ありがとう!助かったよ、これから買いたいものがあったからさ!」

「い、いえ、…それじゃ」

「待って」

弱々しく受け答えした女の子は、その場を立ち去ろうとしたが音弥に呼び止められ思わず止まる

そして、音弥は得意げに話しかける


「どうだろう、お礼も兼ねて、この後俺とお茶でもしない?」


音也にとって、自分からのお誘いはご褒美だと考えている
彼女にだって、ファンにだって、
一緒に過ごす時間は何より大事で喜ばしいことだと

いつもと変わらない、いつもと同じ
相手から返ってくる返事はYESのみ
音弥は返事を待った















「嫌です」













……………………………………………え?


音弥は止まった
周りの雑音や人の声、吹いている風さえも無音に変化した

(今、なんて言ったんだ?)

そのまま黙っている音也に、不審がる女の子
音也もはっと我に返り、また笑顔で確かめることにした


「ごめん、…よく聞こえなかった!
もう一度言ってくれるかな?」

「え、あの、嫌ですって言いました」

「そうだよね!俺の誘いに嫌ですって言わないよ、ね……え???」


2回目だ
2回も嫌って言ったぞ??

信じられない気持ちで音弥は更に確かめる

「き、君さ、俺の事知ってるよね??」

「知らないです」













知ラナイ?



音也は、衝撃を受けずには居られなかった
この神宮寺音弥の誘いを断るどころか、存在すら知らないとおかしなことを言うのだ


「じょ、冗談が上手いね君!こんな脅かし方初めてだよ〜」

「い、いえ、冗談じゃなくて…
ほんとに貴方のこと知りませんし、知らない方から急に誘われても怖いし、というか貴方誰なんですか??」


早口で言われたが、全部聞きとれた
知ラナイ?怖イ?誰デスカ?

……嘘だろ…………


音弥は壁に手をつき、がっくりと項垂れた
普段ならこんな姿見せるようなメンタルの持ち主では無い
それほどショックだったのだ

世間での認知度は高い方だ…
知らないなんてありえない…
TV見ないの?雑誌だって本屋やコンビニで目に入ってるだろ?
お忍びで顔隠してるとはいえ、わかるだろ普通?
てゆうか、許せん


「あの、…そろそろ私行きます、ね?
ひっ!!!!」

女の子は、そろ〜りと音弥の前から消えようとしたが叶わなかった
音也は女の子の行く手を阻むよう目の前に立ちはだかる

(逃がすかよ…
逃がしてたまるかよ…)

音也の中で、悲しみとショックが怒りとプライドに変わった


「ほんとは僕が誰かなんてわかってて近づいて来たんでしょ?」

「ち、違います!私は偶然貴方のポッケから財布が落ちたのを見て、届けようと…」

「はっ!理由なんていくらでも作れるよ
この神宮寺音弥とお近付きになりたい女の子は星の数ほどいるんだから」

音弥はサングラスと帽子を脱ぎ、素顔を晒す
そこに現れたのは、イケメンのご尊顔

「神宮寺……音弥…?」

俺の名前を呟く女の子

(どうだ、素顔に限らず名前まで明かしたぞ?
流石にわかるだろ、いや1000歩譲って聞いた事があるくらいは絶対あるだろ)

少し考え込んだ女の子は、音弥に目線を合わせてハッキリと答える


「やっぱり知らない人です、ごめんなさい」








……………………………はぁ?!!


顔が引きつっているのが分かる
だが、女の子の目はしっかりと音弥に訴える


知らない、と


「…っ!」

「あっ!ちょっと!!」

音弥がまた動けずにいると女の子は「今だ!」と音弥の横を走り抜ける

音弥も反射的に追いかけた


「待てぇぇえええええ!!」

「いやああああああああぁぁぁ!!」

入り組んだ細い路地を走る2人
だが、奥は行き止まりだった為すぐに追いつかれてしまう女の子


「はぁ…はぁ…」

「いや、来ないで!!」

「ご、ごめん、でも…」

そうだ、思わず追いかけてしまった
ほっといてもよかった
そのまま別れてしまえば、会うことも無い
なのに

(このまま、…俺の事知らないままの方がいやだ)

その気持ちが強かった

だが、…こんな不審な行動をして女の子にいい印象を与えていない事に気づいていない音弥

(くそ!言葉が見つからない、なんて言えば…)

女の子は今にも泣き出しそうである
恐怖している
体も震えてる

当たり前だ、見知らぬ男に引き止められ「俺の事知らないの?」としつこく言われた上に追いかけられたのだ
警察に呼ばれて捕まる案件である

音弥は考える
だが頭が回らないうちに、女の子はめいいっぱいに叫んだ




「零くん!!助けて!!!」



(…零くん?誰だ?)

音也がそう思った瞬間、上から“何か“が降ってきた

ドシーーーン!!


砂煙が立ち込め、思わず目を塞ぐ
次第に、うっすらと目を開けるとそこにもう1人佇んでいた


上から降ってきたのは、人だった


黒髪短髪に赤いメッシュ
黒いツナギファッションに腕に蛇のタトゥー
耳にはピアスがいくつも空けていた

そう、見た目は明らかに不良だ

(な、なんだこいつ…)

突然現れた人物に警戒していると、女の子はほっと安心した顔になった

「れ、零くん…!」

女の子は、そのヤバそうな不良に後ろから抱きついた

(え?まさか…)

涙目の女の子を見た不良は、こちらにキッと睨む
いや、射殺さんばかりの目付きなので、表現としては乏しい

訂正しよう





コ  ロ  サ  レ  ル




「てめぇ、…覚悟出来てんだろうな」

青筋をたて、まるで過去に何十人も殺してきたかのような人相が目の前に来た

(あ、やっぱりこいつ、その女の子の…)

そう思った瞬間、俺は宙を舞っていた













「ねぇ!音弥が入院したって知ってる??!」

「嘘ぉ!!」

「顔を殴られたって噂だよ!!」

「ひどっ!音弥の顔殴るなんてそいつ許せない!!」






気づけば、俺は病院のベッドに寝ていた

殴られた、という事は分かっていた
ただその後どうやって運ばれたかは覚えていない
マネージャーからも彼女からも問い詰められた
一体何があったのかと…



言えない!!!!!



俺はただ、自分の存在を知らないと散々言われて、悔しくて認めたくなくて女の子を追いかけ回した挙句その彼氏さんに殴られましたなんて口が裂けても恥ずかしくて情けなくて言えない!!!




………







「あ!そっか!
夢だ!夢だったんだ!!!」

音弥は切り替えた、簡単に言えば現実逃避した

そうだよ!この世で俺の事知らないなんて言う女の子が居るわけがない!
なぁーんだ!モテすぎて逆に不安な気持ちが表れたんだなー納得納得!
この腫れた頬もきっと、俺の人気を妬んだ奴が殴ったんだ!
そう考えれば、これは男の勲章というやつでは?
あはは!


あは…は…




音弥は、少し、考える

あの女の子は、所詮夢の住人
会うことは、ない

そう考えた途端、ズキンと胸に痛みが走った

(痛い…?胸部も殴られたのだろうか…?)


突如襲った痛みに不思議に思っていると、病室の扉がガラガラと開いた


そこに現れたのは、“夢の住人“だった


「あの、…大丈夫ですか?」



また、殴られた頬がズキンと痛みだした
夢ではないとハッキリと教えられた




続く



###登場人物###
■神宮寺音弥(じんくうじ おとや)
28歳
世間で人気の高いスーパーモデル
自分がモテるのは当たり前と思っている
彼女は15人いる

■音弥に絡まれた女の子
たまたま音弥の財布を届けた女の子
美大生
オドオドしているが、ハッキリ嫌なものは嫌と言えるタイプ

■零くんという不良
音弥に絡まれた女の子の彼氏
年下だが、喧嘩に強いという噂
人相は怖いが、彼女の前では別



****あとがき****
この話、大学3年生くらいの時に考えてたネタですね!
自信満々な奴が口説いた女の子にボロくそに言われるの超好きで、ゲフンゲフン( ˘꒳​˘ )
言ってしまえば、報われない恋に気づくというコンセプトでギャグ系に持っていくつもりですこの話

今登場人物ではっきりしてるのは音弥だけですが、あとの2人は次回の話で名前も出てきますよ!

ちなみに、タイトルはちょっとしっくり来てないので変えるつもりです( ˙꒳​˙`)
なんか、もうちょっと、…ピタッとハマるような
そんな感じのタイトル考えていきます( ˘꒳​˘ )

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