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「リビングルーム・ウォー」 2024.7.25の日記

◯『ディエンビエンフー』


 ディエンビエンフーを6巻まで読んだ。
不思議な読み味のある漫画だ。めちゃくちゃおもしろい。
ベトナム戦争を描いた作品ではあるが、他の戦争をテーマにしたそれとは全く違う、独特の空気感を持っている。

史実に基づいた戦況の動き、アメリカの機銃掃射でゴミのように倒れてく人々、ベトコンの恐ろしいブービートラップ、多くの死。
ベトナム戦争における要素がふんだんに描写されているのも関わらず、全く読み進めることに抵抗がなく、ポテチでもかじりながらスラスラとページをめくれてしまう。

写真家はいつだって観客なんだ。本当は思想も批評もいらない。
君に才能を感じるのはそういうことさ。”無力”で”軽薄”な徹底した”部外者”。

『ディエンビエンフー』3巻 「レンズの中」より

 とある人物が、米軍の従軍記者である主人公を評したセリフである。

そう、この漫画は主人公に、徹底して緊張感が無い。
まず従軍記者であると書いたが、主人公になんら報道に対する熱意はない。カメラを構えるシーンすら無い。
これまで共に過ごしていた人が無惨に死ぬことに対する悲しみも無く、毎日やることといえば自慰である。
彼の目に映るのは戦争ではなく、魔法のように鮮やかに米軍を殺していく、美しいプランセス(お姫様)ただ一人である。

 物語における主人公とは、カメラである。
アンリアルなフィルターがかかったそれは、可愛らしくスタイリッシュに記号化された絵柄と合わさり、最前線を見ながら我々を悲惨から遠ざける。


「リビングルーム・ウォー」
ベトナム戦争は、自宅にいながら戦場のリアルをつぶさ知ることができた、まさに新しい時代の戦争で、だからこそ『ディエンビエンフー』の表現には意義がある。

この漫画は、高速で走っていく新幹線から、”いい自然風景”として過疎村を見るように、すらすらと楽しんでいく自分に本を閉じて身震いする、ユニークな形で戦争が表現された新しい体験である。



今なら一巻33円、全巻500円程度で電子版を購入できるらしい。



君も来ないか?  
陸軍特殊部隊に。


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