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読書の断片:カインは言わなかった

圧倒的な才能を前にすると、
複数の選択肢が自身の中に生まれる。

到底かなわない、と諦める。
どうしてあいつが、と羨む。
素晴らしい、と心酔する。
いつかその高みへ、と執着する。

わたしが選択を迫られるとき、
なにを選ぶのだろうか。

「カイン」の初公演から丸五年、当時主役の藤谷誠が見せてくれたあまりに切実な踊りにもうこの舞台の主役を務めることができるのは彼を措いて他にいないであろうと思われたが、今回、尾上和馬は予想を大いに裏切ってくれた。
ここに来るまでに、彼が見たものは何だったのだろう。それこそが、この舞台をここまでの高みに引き上げたのだと思うと、感に堪えない。

カインは言わなかった/芦沢央著

なにかに執着することはときに、
傍から見ると狂気じみた行動である。

それほどまでに追い求めるものなのか。
身を削ってまで成し遂げなければ
いけないことなのか。

しかし追わずにはいられない、
そうしなければ自己を確立できない、
そんなものに一生のうちに
一度は出会ってみたいものである。

それではまた次の断片で。

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