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#05│桃太郎「鬼が自分の9倍強いうえに9999匹いるんですが」

あらすじ&第1話はこちら

「――――て、―――しろ」

なるほど、それならやれるかもしれない。狙うは、鬼の左脚だ。


「いくぞ!」


合図と共に、猿飛が砂浜に右後ろ脚を突っ込み、蹴り上げる。砂が鬼の顔面を襲った。猿飛の目つぶし作戦だ。
鬼が目をつむった瞬間、一気に間を詰め、刀を振り上げる。狙うは、左の太もも。


「ハッ!!」


全力で太ももに振り下ろす。ところが、数センチ食い込んだだけで刀は止まった。

(硬い!!)


次の瞬間、左頭部に衝撃が走る。
真横に吹き飛び、意識が途切れた。
目を覚ますと、家だった。


また、あの布団の中だ。楽丸はもう起きていて、心配そうにこちらを見つめている。
左の頭部をさすりながら聞く。


「やられたのは、どんな攻撃だった?」
「平手打ちや。三十尺約9メートルくらいぶっ飛んだで。残された猿飛さんも、ワイも喰われて終わり。ひどい話やわぁ」


平手打ち、か。打撃一発で終わり。しかも、オバアサンが作ってくれた関孫六もたいして通じなかった。


「でも、猿飛の言うとおり戦ってよかったよ。これからどうしていくべきか、考えやすくなる」


前向きに考えたほうがいい。
猿飛も雉彦も同じ部屋で寝ている。復活する場所は、希火団子を食べたところになるらしい。


「わっ、本当に復活できました」


雉彦が目を覚まし、不思議そうな表情でキョロキョロしている。「この逃げ腰野郎!」、と罵倒しようとした瞬間、


「てめぇよぉ!!なめるんやないでぇ!」


楽丸が、矢のように飛んでいき、かみついていた。


「いたたたたたた!」
「鬼を見た瞬間、逃げやがって!!自分だけ助かればえぇんか!」
「やめろ楽丸!気持ちはわかるぞ!スゲーわかる!だが、仲間割れはやめとけって!」


楽丸は、それでも離さない。騒ぎによって目を覚ました猿飛も加わり、なんとか怒りを鎮めさせた。
あらためて、雉彦を問い詰める。雉彦は、コホン、と咳払いしてから話し始めた。


「楽丸さんが怒るのは、無理のないことです。でも、話を聞いてください」


雉彦は丁寧に頭を下げた。


「わたくしは、ぱっと見て『鬼には勝てない』と悟りました。動物的本能です」


楽丸の睨み方がこわい。
鼻息も荒くなっている


「だから、上空に飛んで島全体の様子を確認しようとしたのです。あのとき、飛びながらでもみなさんに説明すればよかった」


まぁ、筋は通っている


「それで、空から見て、何か気づくことはあったか?」


猿飛が落ち着いて声で聞いた。


「島全体に集落があり、人間と同じように生活していました。島の中心には、大きな城がありましたよ。鬼の頭領とうりょうがいるところに間違いないでしょう」


鬼の頭領、だと。そいつをぶっ倒せば、打出の小槌が手に入り、元の世界に帰れるはずだ。
少し見通しが持てた。
右こぶしをギュッと握る。


「頭領の居場所に目星がついたのは、えぇことや。でも、まずは上陸したときの鬼を何とかせんと・・・・・・」


そう、手下らしき鬼たちですらまったく歯が立たない。勝つ方法は、きっとあるよな?

◇◇◇◇◇◇


「これが、村かぁ」


朝食を食べたあと、気分転換に村にやってきた。
オバアサンの家は、山のテッペンにぽつんと一軒だけ建っている。オバアサンの提案により、気分転換がてらみんなで下山し、村人と交流しに来たのだ。

  
小一時間かけて下山し、村に着いた。村人たちは、朝からせわしなく働いている。畑を耕す女性、川の水を運ぶ子どもたち。男たちは、弓矢を携えてどこかに行こうとしている。狩りだろうか。

コッコッコッコッコッ。


檻に入れられた鶏の鳴き声も聞こえる。この世界では、人語を話せる動物とそうでない動物とがいる。なぜ違いがあるのかは、よくわからない。


「あっ、桃太郎さんだ!」


幼稚園児くらいの子どもが、五、六人やってきた。
子どもたちは手を取り輪になって、何やら歌い出した・・・・・・


『♪桃太郎さん、桃太郎さん
  鬼のクソどもぶっとばせ~
  月の果てまでぶっとばせ~』


誰が考えたんだ、この歌・・・・・・。子どもが歌うには、物騒すぎるぞ。


「おぉ、桃太郎さん。こんにちは」
「桃太郎さん。今日はどうしたんです?」


仕事に集中していた大人たちも気が付いた。
城下町で悪人をこらしめるうちに、有名人になってしまったらしい。


「ワイたちがご飯を食べられるのは、この人たちのおかげですわ」
「どういうことだ?」
「桃太郎さんの家は、山頂にあるやん。そこで取れる食料には限りがあるやろ。だから、村の人たちが食料を届けてくれとるんですわ」


知らなかった。今日の朝食に出てきた生玉子は、もしかしてさっきの鶏が産んだものなのかもしれない。


「この村にとって、桃太郎さんは特別な存在なんでしょうね」


雉彦の言葉は耳に痛い。
特別な存在――などではないのだ。悪党退治も、好きでやっているだけ・・・・・・。
 
 
「モォーーー」


村には牛舎もあった。覗いてみると、金髪の少女がせっせと働いている。この世界で、金髪?


少女は、牛の身体を拭いてきれいにしていた。動きがキビキビとしており見ていて気持ちがいい。ときおり牛に話しかけるのは、牛を安心させているのだろう。
ところが、牛の脚を拭こうとしゃがんだとき、牛は強烈な蹴りを浴びせた。


「きゃっ!?」


直撃は避けられたものの、蹴りは顔をかすめた。少女は体勢を崩し、起き上がれないでいる。


「大丈夫か!?」


横向きに寝ている少女に急いで近づく。

『牛の蹴りは意外と強烈で、酪農家は骨折することもある』


と、テレビで見た話を思い出す。
少女の髪には艶があった。シャンプーなどないこの世界で、これほど美しい髪があるのか。


「ん・・・・・・・」


少女はゆっくりと立ち上がる。
女性、というには未完成な年ごろなのに、妖しいまでの美貌がある。
頭部が小さく、足が長い。金髪は、仕事がしやすいようポニーテールになっている。
金髪より特徴的なのが、瞳だ。小顔のなかで、猫のような大きな瞳が輝いていた。左目の下にある泣きぼくろが、瞳の魅力を引き立てている。


「ケガはないか?」


心配し、顔を覗き込むようにして声をかける。


「黙れよ、桃野郎。息クセーから近づくな」



透き通る、高く澄んだ声だった。


(つづく)

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