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探偵

ある日、私が経営する探偵事務所に、珍しくお客さんがやってきました。いつもは閑散としているこの事務所に、不意に現れた彼は、浮気調査を依頼したいと言いました。


その男性は、緊張した様子で話し始めました。「妻が最近、怪しい動きをしているんです。仕事が忙しいと言っては出かけ、夜遅くまで帰ってこないことが増えました。」


私は彼の話を聞きながら、メモを取りながらうなずきました。「分かりました。では、調査を引き受けましょう。まずは妻の行動を探ってみましょう。」


翌日、私は彼の依頼に基づき、妻の行動を調査するために動き出しました。彼女の通勤経路から妻の職場までを尾行し、彼女が出勤している様子を確認しました。しかし、私が予想していたような怪しい行動は見当たりませんでした。


数日間にわたって、私は彼の妻の行動を監視し続けました。しかし、彼女は普通の主婦としての生活を送っているように見えました。家事をこなし、子供たちの世話をし、夜は早めに寝る。何の問題もないように見える日々が続いていました。


しかし、私は諦めるつもりはありませんでした。ある日、私は彼女が出かけた先で彼女を尾行することにしました。車で彼女の後を追いながら、彼女が向かった場所を窺っていました。


そして、彼女が辿り着いた場所は、なんとある公園でした。彼女は一人でベンチに座り、何かをじっと見つめている様子でした。


私は彼女の後をそっと近づき、声をかけました。「すみません、ちょっとお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」


彼女は驚いた表情を浮かべながらも、私に向き直りました。「どうぞ。なんでしょうか?」


私は彼女に彼女の夫が私に依頼したことを告げました。「夫は、あなたの浮気を疑っているんです。でも、私が調査しても特に問題は見つかりませんでした。」


彼女は目を丸くして私を見つめました。「浮気?そんなこと絶対にありません!」


私は彼女の言葉に少し疑問を感じましたが、彼女の言葉には確かな説得力がありました。彼女の様子や表情からは、浮気をしているようには全く見えませんでした。


彼女は深いため息をつきながら、言いました。「私、実は最近、夫には言えていない秘密があるんです。」


私は興味津々で彼女の話を聞きました。「どんな秘密ですか?」


彼女は小さな箱を取り出し、私に手渡しました。「これ、見てください。」


私は箱を開けると、中には一つの写真が入っていました。写真には、彼女の夫と一緒に記念撮影をしている姿が写っていました。しかし、その夫は、私と同じように探偵の姿をしていました。


彼女は涙を流しながら言いました。「夫は、私のことを探偵に調査させていたんです。私の行動を監視していたのは、浮気の証拠を探していたのではなく、私の秘密を知りたかったんです。」


私は驚きと同時に、彼女の夫の真意を理解しました。彼は妻の行動を調べることで、彼女の秘密を知ろうとしていたのです。


彼女の夫は、私たち探偵の力を借りて、妻の秘密を暴こうとしたのです。しかし、その秘密は彼女自身が明かしてくれることになりました。


私は彼女の肩を優しく抱きしめ、彼女の涙を拭いました。「あなたの秘密は、必ずしも他人には知られるべきではないものです。あなたが心の中で抱えている秘密は、あなた自身が決めたらいいことです。」


彼女は私の言葉に頷きながら、深い溜息をつきました。そして、彼女は自分の秘密を胸にしまい直し、再び前を向いて歩き出しました。


私は彼女の背中を見送りながら、思ったのです。人々は、誰にも話さずに抱える秘密を持っているものだということを。そして、その秘密を暴こうとすることは、時には誤解を招くこともあるのだと。



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