グレイブディガー
墓石のように陰鬱な灰色の壁で造られた廃ビル。内部の荒れ果てたオフィスフロアに二人の男が対峙していた。くたびれた作業着の細身の男と、身長180cm以上、緑色のモヒカンで大柄な男。
「あなたうちの社員じゃありませんよね」
細身男は眼に生気が感じられない。
「ああ、違うな」
大柄男は獰猛な笑顔を見せる。
「じゃあ死んでください」
細身男が言った途端、彼の口が不自然な角度まで大きく開き、注射針のような物が飛び出してきた。
「嫌だね!」
大柄男は全く動じず、つま先で細身男の腹を素早く蹴り上げた。
「アゴッ」
呻き声をあげ、くの字に曲がる細身男。大柄男をそれを米俵のようにひょいと抱えると、壁に貼られた『水曜日はNO残業』に黒で×が塗られたポスターを見て、
「ここでいいか。ウオオオオ!」
破城槌を持った攻城兵のように突撃、細身男の頭部を爆砕させた。血液や脳漿の代わりに、緑色の液体と機械の部品が辺りに散らばった。大柄男は残骸の中から緑色に点滅する小さな装置を手に取ると、自分の後頭部に押し付けた。脳内に声が響く。
『ネクサス/ニューマン/チーフ。110銭です』
「やっすいな~、まあこんなもんか」
大柄男は『不良中年』とプリントされたTシャツの汚れを拭いながらぼやき、装置を簡単に握り潰すと、今度は無線通信が入ってきた。
『あー、こちらシン。バッドアス、取れますか。どうぞ』
「こちらバッドアス。シン、どうぞ」
『ガーディアンタイプのネクサスがそのフロアの廊下にいる。ウォッチャーだ。歩きながら通信装置を使っている人間を見つけると、首を捻って更生させるクソ真面目な奴だ。気を付けて。どうぞ』
「ネクサスは仕事熱心な連中だな」
『仕事熱心な連中がネクサスになっていったんだよ』
「そうかい……ところで、廊下の向こうからキャタピラが付いたくすぐりマシンみたいな奴が走ってくるぜ、何だこいつ、どうぞ」
『ウワーッそいつがウォッチャーだよ!どうぞ』
【続く】
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