無軌道野郎と秘密の花園
都会の僻地、灰色の広い空、歯医者が多い町。整備されていない歩道に、スーツ姿の女が早足でキャリーケースを転がす。
「ハア……」
女の溜息に反応したかのように、携帯電話の不気味な着信音が鳴った。
「はい塚本です、お疲れ様です。今、老人ホームの前です。近くですか、はい、ありました。『花園』。ええ、どうも、では宿に向かいます、はい」
薄汚い男部屋に、ゲームパッドの激しいタップ音。髪を逆立てたパンクスのような男は、部屋の主である夢の無い専門学校生、青木(あおき)。隣のサイケな柄シャツを着た男は、青木のアルバイト先の先輩である、出古井(でこい)。
ブガーブガー。
「青木ィ、裏の処理場だっけ?なんか今日うるさくね?」
ブガーブガー。
「なんか鳴ってますよね」
「青木ィ、ちょっと見に行かね?」
「マジっスか、ああでも、ちょっと苦情入れたいんスよね。夜中もうるさいんで」
青木が住んでいるアパートの裏手、鉄の囲いが物々しい産業廃棄物処理場。当然、関係者以外立ち入り禁止だが、入口は開放されている。
「入っちまおうぜ」
「マジっスか」
青木は立ち入り禁止区域に躊躇無く入っていく出古井の姿に畏怖の念を抱き、やや後ろから廃棄場に入った。人の気配が全く無く、そこら中に緑色の塊が置いてある。廃棄物か。プレハブの小屋には神社のようにお札がべたべたと貼ってある。青木は嫌な予感がし、出古井を置いて帰ってしまおうとも思っていた。その時!
「コラーッ!何やってんの!」
全身を覆う防護服姿の人物が、ドスドスと走って来た。
「あんた達、変な物見た?」
息切れ気味の高い声だ。
「こいつ女だぜ、青木ィ」
出古井を無視し青木が答える。
「俺、裏のアパートに住んでるんスけど、ブザーがうるさくて。変な物って、この緑色のやつっスか」
「ああ、ブザーね、ホラ、帰った帰った」
防護服女は壁のボタンを裏拳で殴ってブザー停止させた。青木達はひとまず帰ったが、当然、腑に落ちなかった。
【続く】
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