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モチベーションのレシピ本


「毎日8時間も働けるのか」

入社する日になっても、わたしの心配事と言えばこれだけだった。
学生時代の最後は、6時間×2日間しか働いていなかったからだ。

自分が打たれると弱いのは、就活で嫌というほど知った。
とにかく、体力的に精神的に持つかどうかを気にしていた。

働き始めてから2日後、新型コロナウイルスが猛威を振るい、自宅で仕事をするようになる。

受験勉強は、毎日塾に行かいければできないタイプで、自宅での集中力の”なさ”には、とてもとても自信があった。

そんな私が、家で仕事することになるなんて。
嫌といったところでどうしようもなかった。やるしかないのだ。

朝の9時45分、自宅のデスク(勉強机)に腰を下ろす。
定時よりも15分早く、Web上の「出勤ボタン」を押す。

まず最初にするのは、今日やるタスクの整理。

8時間勤務の恐怖を再認識しながら、
パソコンのタスクバーにピン止めしたメール、チャット、ノートなどを立ち上げ、chromeのお気に入り登録している”いつものページ”を次から次へと開く。

「今日もまた、始まってしまった」

そんな、典型的なさえない新入社員をしているうちに、
理事長との面談日をむかえた。

理事長は、うちの法人の中で一番偉い人で、
月に一度、理事長と面談をするというルールがあるのだった。
わたしが就職したのは、大学2年のときからインターンとして働いているところで、新卒と言いつつ実態は3年目なので、付き合いも長く、お互いのことにも詳しかった。

面談が始まる。
今までも毎月やっていて慣れているはずなのに、やっぱり汗が止まらない。
うまく答えなきゃ、といつも以上に見栄を気にしてしまうからか。

10分くらい毎日の仕事について話し、頃合いを見計らう。
ひとつの話題がおわり沈黙が一瞬おとずれたとき、わたしは一番言いたかったことを言う。

「毎日、8時間仕事をするモチベーションがわからないんです」

入社してから、今まで社員さんがやっていたルーティン業務が回ってきて、8時間を5連勤して、次から次へと来るメールに返信しているだけで終わってしまう、そんな日もあった。
売上をあげるまでの過程で、仕方がなく発生してしまう雑務をやっているような気がした。

「わたしは何のために、ここに就職したのだろうか」

それを思うと毎晩涙が出そうになっていた。

これを聞いた理事長は、モチベーションがないと言う社員に対して怒ることもなく、”レンガを積む人”の話をし始めた。

昔々、3人のレンガを積む人がいて、
彼らに何をしているのかをたずねると
1人目は「レンガを積んでいる」と言い、
2人目は「お金を稼いでいる」と言って、
3人目は「人が集まる教会を作っている」と言ってね。

数年後、この3人は
1人はレンガをまだレンガを積んでいて、
もう1人は、日給の良いからと別の仕事をしていた。
ただ最後の1人は、その働きぶりを買われて、
町役場で水道橋をつくる仕事を任されていた。

同じ作業をしていても、目的が違うだけで行きつく先が変わる。
だったら、最後のレンガ積みの人がいいよね、
今やっていることも、最終的に何になるのか、誰のためになるのかを考えてみるのはどうかな、と理事長が言った。

後日詳しく聞くと、このレンガ積みの話は『働き方の哲学』という本の言葉だったらしい。

さっそく買って、レンガ積みの話が書いてある箇所をみつける。
そこには、一番お気に入りの付箋を貼った。

名前は「哲学」といかついネーミングだが、
わたしにとっては「モチベーションのレシピ本」だったよ。

おに

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