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【小説】遠い星の国クルアテッタ 【サイエンス・ファンタジー ワンシーンカットアップ大賞】

個人企画への応募作品です


 地球とよく似た環境の星、ウユキチ星という惑星がイケガンギ星雲の中にあった。太陽に当たる星雲の中心は、ウヨイタ恒星という太陽の十分の一程度の三つの星が燃焼しながら星雲全体を制御していた。ここは、地球から五千光年離れた宇宙空間だ。地球と異なるのは、宇宙から青く見える地球と違い、緑色の球体に見えるところだ。これは、地球に比べはるかに水が少ないことを意味している。そのせいもあり、ウユキチ星では高度文明の国クルアテッタ国、自然の国イセウヨ国、不可思議な力の国イカツーホマ国、海を支配する国ヨギンニ国と呼ばれる四種類の国と種が存在していた。それぞれが相入れない生き方や文化や容姿のため、ことなる大陸と水中の国でそれぞれ独自の進化を遂げながら独立した国として生活していた。もちろん国同士の交流は存在しているのだが、お互いがお互いの国に入ることは危険であるという認識が強いことから、ヨギンニ国が仲介役をになっていた。交流するときだけ、三大陸の中間に海底を盛り上げた島を作り、大陸からその島まで渡って会議をするのだ。そう、参加者は自国でのパワーを使えないので平等なのである。島は中心が湖のようになっているドーナツ状の島で、ヨギンニ代表はその湖のような場所からいつも参加していていた。そして、会議が終わり全員がそれぞれの国に帰ったのを見届けるとヨギンニの住民は島を海底に沈める。こうしてみかけ上の平和な関係を維持していたがイカツーホマ国はなんとかして世界を手中に収めたいと内心では思っていたのだった。

 しかし、この星の大陸はそれぞれ異なる磁気が発生していて、それぞれの国民の能力に大きく関係していた。それぞれの特異な能力は、自分達の国の中だけでしか使うことができないのだ。このことも三大陸間の平和を保つことに大きな影響を与えていた。他国の住民が侵略しに上陸したとしてもその能力は使えないのでたちどころに駆逐されてしまうことをそれぞれが認識していたのだ。

 クルアテッタ国は、地球人の三分の二程度の身長で手足も細い種が住んでいる。体の中の水分が少ないのだ。それ以外はほとんど地球人と同じような容姿だが科学技術の発達は地球の比ではなかった。重力制御や高効率エネルギー交換技術を開発し、高度な文明社会を築いていた。イセウヨ国は、体に羽が生えていて体長は大きくても十センチ程度の種が住んでいるのだ。体の作りは地球の昆虫に近いが、自然界のなかで分子レベルを共振させ仲間同士で連絡を取ることができるため、結束力は一番強く一番臆病な種だった。イカツーホマ国は、地球人とほぼ同じ身長で、この星では一番大きい種が住んでいる。神出鬼没で頭から生えている触覚のようなものを使って、時空を歪めたり、瞬間移動したり、他の動物などに変身したり、遠くのものを引き寄せたりする不可思議な力を持っていた。さらにもう一種、三大陸を阻んでいる海の国、ヨギンニ国には、水の中を自在に泳ぐためのヒレと呼吸するためのエラを備えた種が住み支配していた。テレパシーで会話し水を自在に操ることができた。唯一、三大陸に対し牽制することができる立場だった。三大陸間はそれぞれが、数百キロの距離があり、途中に島などはない。ヨギンニ国の住民により全ての小さな島は普段は海中に沈められている。大陸間の移動には空か海を渡るしか移動手段はない状態が維持されていたのだ。

 ある日、この星に二つのスペースシップが不時着した。一隻はクルアテッタ国に、もう一隻はイカツウホマ国に不時着した。こんなことはウユキチ星の歴史で初めてである。この二隻の船は共に遠い地球から宇宙空間ワープを繰り返し十年の歳月をかけてやってきた船だった。その二隻の違いは、イカツーホマに不時着した方は宇宙空間でサイバー犯罪を犯しスペースシップを盗んで逃げてきたもの、もう片方は宇宙空間サイバー警察で犯罪者を追いかけてきた船だった。

 不時着することを最初に感じ取ったのは、イセウヨのウヨチという可愛い女の子だった。大気の振動を感じ取り地表への摩擦する振動音が海を越え、ウヨチの羽を振動させたのだった。ウヨチは初めての現象に驚いてリーダーのところに知らせた。その頃リーダーのトブカも同様に感じ取っていて非常事態をイセウヨ国民に知らせた。警備隊長のタガワクは大陸の海岸線に生えている草や木に異常を発見したらすぐに教えるようにと指令を出していた。この国では、大気、草、木、花、鳥、動物、魚に至るまで意思疎通が可能だった。

 イカツーホマ国に不時着した船は、山肌の中央で止まっていた。程なくして住民に発見され、船自体が管理下に置かれ、船に乗っていた10人の地球人は拘束された。地球人側の代表はコウヘイと名乗り、自分は正義を貫くために戦っていると嘯いていた。イカツーホマ国の一時的な収容施設に入れられた地球人の一行は言葉が通じないようで困惑した時間を過ごしていた。2日ほど過ぎ、ひとりのイカツーホマ人のクヤンホという男がやってきて日本語で語りかけた。

「お前たちは、何処から来た。何しに来た」

犯罪者の地球人リーダーのコウヘイはゆっくりと答えた。

「私たちは、強盗に襲われ、なんとかここまで逃げてきた。助けてくれたら必ずお礼する」
「フン、お前の言葉には、嘘が含まれている。本当のことを言え。言わないなら一人ずつ消滅する」
「えっ、いや、解った。我々は宇宙空間を行き交っている船にサイバー攻撃を仕掛けて動けなくし、その船を奪って逃げてきた。助けてくれ」
「フン、やっと本当のことを言ったな。お前たちは他の船を制御することができるのか」
「ああ、通信装置とコンピューターさえあればできる」
「フン、解った。では我々の国のために働くと誓うか。誓えばここから出してやる。そして、部屋と食事を与えてやろう」
「わ、わかった。協力する。働きます」

 こうして犯罪者たちは、イカツーホマ国のために働くことを誓った。かれらは嘘をつくとすぐに見破らられるらしいということを知り、言葉遣いに慎重になった。もとより、ずる賢さで生き抜いてきた犯罪者である。「今」を切り抜けるために正直になり、「未来」を獲得するために正直に騙そうと考え始めていた。

 一方、クルアテッタ国に不時着した船も程なくして発見され、周囲を包囲されていた。この国では警備組織がツサイケと呼ばれている。組織のリーダーはイヤホンのような宇宙翻訳機を通して地球人の頭の中に話しかけた。

「あなたたちはどこからきたのですか。目的を教えてください」
地球人全員が頭の中に響きわたる声に困惑しながらも、リーダーであるマモルが船外に付けられたスピーカーで返事をした。

「我々は、地球という星から、犯罪者を追ってきた宇宙空間サイバー警察のものです。この星に不時着したのは偶然であり、犯罪者の船もどこかに不時着しているはずです。犯罪者を拘束するために我々に協力してもらえませんか」

 警備組織ツサイケのリーダーは、翻訳機が「ピッ」と反応したことにより、正直に答えていると判断した。嘘の場合は、「ピーッ」という音で知らせるようにできているのだ。この後、彼らの宿泊施設にエスコートされ部屋と暖かい食事が準備された。そして、詳細について話し合うため、翌日会議が設定された。リモートからも関係者が参加できるようにセッティングしてくれたようだ。

 この二つの船の不時着は、この星の全ての国の全ての住民に情報が駆け巡った。海を支配しているヨギンニでは、ある不安が国民の中に渦巻き始めた。ヨギンニ国の占い師は「これまでの三大陸の均衡に亀裂が生じる。船が不時着した国の間で争いが起こり、もう一つの大陸も巻き込まれ、ヨギンニにも被害がでるだろう」と予言を伝えた。この予言は、イセウヨ国の水際に生えている草に伝わり、イセウヨ国全体にも情報は伝わった。ヨギンニ国とイセウヨ国は早くも警戒態勢に入った。

 自然の国であるイセウヨ国では、大きな木々たちが少しずつ水際に移動し大きな塀を築き始めた。この国では木々も遅い速度ではあるが動けるのである。水際に綺麗に並ぶとお互いの枝を絡めてバリケードを作った。同時に小鳥たちが特殊な音色で歌い、国内を狙って入ってくる電波や電磁波を妨害するシールドも作って危険に備えた。

 水の国であるヨギンニ国では、クルアテッタ国とイカツーホマ国との間を結ぶ海を重点警戒に指定し、水深を極端に浅く凸凹にして大きな船が航行できないようにした。同時にそれぞれの国に面している水際は常に高い波を立てて容易に海に出られないようにしていた。

 そんな緊張状態に最初に石を投げ始めたのは、イカツーホマ国だった。イカツーホマの戦略部門は、地球人が乗ってきた船を修理し、最初にイセウヨ国を攻撃し自分達の領土にして、磁気の調査をし自分達の能力が使える領土に変える計画を立てた。その後、二大陸からクルアテッタ国を攻撃する計画だ。もう一隻の船がクルアテッタ国に不時着しているため、その船を乗っ取るためにも地球人の犯罪者の力を利用しようと考えていた。いよいよ、自分達の時代が来たのだとイカツーホマ国民は考えていた。

 空を移動されてしまうとヨギンニ国としては手も足も出ない。三大陸の中で作られたものならば、国境を出た途端に利用できなくなるのだが、外部から来た船はそんな影響を受けないことをイカツーホマ国は利用しようと考えたのだったが、そのためには不時着した船にある材料だけで修理する必要性を感じていた。

 宇宙空間の犯罪者集団は、自分達が乗ってきた船を修理し始めていた。利用するパーツは船の中にあるものを使うが、道具はイカツーホマ国で作られた便利なものを利用できていた。ネジに合わせて自在に変化するドライバーや触れずに測定できる電流、電圧計などは便利だった。同時にコウヘイは通信装置とコンピュータの動作を確認していた。そして、それと同じものをイカツーホマ国内で利用するため、コピーしたものを作って国内に設置するように提案した。こうすることで交信可能となるとともにハッキングも可能となる環境ができつつあった。

 その頃、クルアテッタ国でも宇宙船の修理が始まっていた。この国は高度な文明が発達していたため、修理自体は簡単に実施できたが、イカツーホマ国での修理同様に利用する部品は船の中から調達した。そしてこの船と交信するための設備は既にクルアテッタ国内に整備されている管制塔に設置されている量子コンピュータが利用されることになった。

 こうして各国の動きは活発化していった。地球からの宇宙船二隻が不時着したがために、この星の均衡を崩し始めた。そのことに宇宙空間サイバー警察のメンバーは謝罪していた。そこにクルアテッタ国の王女リユサは微笑みながら答えた。

「あなた方のせいではありません。イカツーホマ国はこれまでもなんとかして侵略しようと企んでいました。あなた方の不時着を利用しようと考えたのですから悪いのはイカツーホマ国のほうです。共に戦って平和な星を取り戻しましょう。イセウヨ国やヨギンニ国もわたしたちを応援してくれると思います。ただ、イカツーホマ国は不可思議な力を持っていますので、十分に注意しなければなりません」

 既に準備を終えたイカツーホマ国は、犯罪者集団を使って、イセウヨ国を侵略しようと行動を開始した。イセウヨ国は、防御の手段はたくさん持っているが攻撃の手段は持っていない。果たして、宇宙空間サイバー警察を中心としたクルアテッタ国とイセウヨ国の同盟軍は打ち勝つことができるのだろうか。イカツーホマ国はどのようにして侵略してくるつもりなのか、自然の力を味方につけているイセウヨ国の防御力はどの程度高いのか、ヨギンニ国の支援はどの程度効果的なものなのか、イセウヨ国とヨギンニ国の信頼関係はどれほど強いのか。いよいよ戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。

 しばらくして、イカツーホマ国から、地球人犯罪者たちの船が、静かにじわりと反重力装置で空中に浮き、イセウヨ国を目指して飛び去っていった。


下記個人企画を読み応募するために書いた出だし部分です。
さて、続きはどうなるのか、今後のお楽しみです。


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