#13 - 初めてのお客様へのプレゼン
オンラインシステムのソフトウェアのスペシャリストして活動している頃の話になります。お客様が利用されていたソフトウェアはすでに新しいバージョンが発表され発売されていましたが、お客様はバージョンアップせずに利用され続けていました。しかし、そのために課題が発生していたのです。プログラムで障害が発生するとオンラインシステム自体が影響を受けてしまい、再起動が必要になるという課題でした。
実はこの課題は新しいバージョンに追加された機能を利用することで回避できることがわかっていました。その時のお客様担当のSEさんは、私のところに来て、お客様へ新しいバージョンに切り替えるべきだいう説明をしてくれないかと依頼に来ました。私は自分が担当するソフトウェアなので快く引き受けることにして、説明用の資料を作成しました。もちろん、新しいバージョンの機能説明がほとんどですが、お客様は現在のバージョンは学習済みなので、新しいバージョンとの差がわかるような説明資料を作成しました。もちろん、新機能もあるので新旧比較できない部分もありましたが、それが、今回の課題解決につながる要素であるとことも理解していたので、もれなく説明資料に盛り込みました。
いよいよ、説明会です。私は新幹線に乗って仙台まで行き、初めて訪問するお客様のオフィスに向かいました。お客様担当のSEさんに案内されて、教室のような場所に行くとすでに10名ほどのお客様が集まってくれていました。早速、資料を取り出して説明準備をしました。今だったらPCとプロジェクターをつないでプレゼンすることになりますが、当時はまだ普及していなかったので、OHPと呼ばれる機械を使いました。透明なビニールのようなシートに表示する内容を印刷して持参していましたので、順番に投影して説明を始めました。しばらく説明をしていると、遅れて参加される人が入って来られました。システム部の課長さんでした。課長さんは私の説明をちょっと聞くと遮って発言されました。
「新機能の説明を聞きたいわけじゃないんだよ。今起きている問題を解決したいだけだから、その方法だけを説明しれませんか? 時間も無駄になるだけだし」
「そうですよね。今起きている課題のことは伺っています。そのための説明なのでもう少し聴いていていただけませんか。課題解決のための変更もお話ししますので」
「あぁそうですか。仕方ないな。できるだけ早くお願いしますよ」
「了解しました」
と言うようなやりとりをして、私は説明に戻り話を続けました。実は、ちょうど話をしていたのが、新しい機能の部分であり、その内容を理解してもらってから、新機能を利用すると現状の課題を解決する構成に変更できると言うことを続けて説明したのです。もちろん、そのためにはバージョンアップが必要だと言うことも。
新しい機能というのは、現在稼働しているオンラインシステムが異常終了したら、待機しているオンラインシステムが立ち上がってそれまでの処理を引き継いで実施できるというものでした。そのことを懸命に重点的に説明したのです。そして、それ以外の新しい機能の利点を説明し終えると先程の課長さんがまたコメントされました。
「さっきは申し訳なかった。新しい機能を利用して対応するのですね。説明を聞いて理解しました。聞いていなかったら内容がわからなかったと思います。あなたが言うようにバージョンアップが必須ですね。ぜひ、バージョンアップに向けた準備をお願いします」
「分かりました。ありがとうございます」
キーマンであった課長さんも必要性を腹に落としてくれました。そのあとは、このお客様担当のSEさんと連携してシステムのバージョンアップを実施したのは言うまでもありません。
お客様は焦っておられ、無駄な説明を聞いている暇はなくなんとか早く解決したいと思われていたようで、説明が遮られたのも仕方ないかなと当時は思いました。また、お客様の剣幕に負けて、対応方法だけを説明していたら、内容が理解できず余計に怒られていたかもしれません。お客様の課題を理解した上で説明資料を作り、お客様に理解してもらって課題解決に繋げるということはとても重要です。焦らず、諦めず信念を持って話を進めることの重要性を学んだ案件でした。
今回は、具体的なソフトウェアとか課題の詳細内容は記述しませんでした。初めてのお客様への説明の場でお客様から遮られた時の対応や説明資料作成の考え方が伝わればいいなと思ってまとめてみました。