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3年ぶりの空気感、そしてブランクを経て思うセミナーの重要性、先鋭性

~八ヶ岳ミュージックセミナーについて、徒然に~(横山琢哉)

 1999年8月、初めて訪れた隠岐・島前(どうぜん)の海士町。まだ若輩者だった私は、この場所が選ばれた詳しい経緯などは知らなかったが、新実徳英先生、西村朗先生が、栗山文昭先生と、なんかおもしろいことやろうよ、という話になった、と漠然とは聞いていた。初めから私は主催者側のスタッフとして動いていた。栗山先生、藤井宏樹先生とともに、往きのフェリーでもう酒盛りをしていたような。作曲家の久留智之先生、今は亡きカール・ホグセット先生とともに、楽しく有意義な日々を過ごした……


ついについに、セミナーが復活した

 なんて毎年のことを書いていたら紙面がいくらあっても足りないし、たぶん書けない。そんなわけで、2003年から、長野県川上村に場所を移してこのセミナーは続いてきた。2019年の、21回目(川上に移ってから17回目)までは……
 その間のことは書かなくてもいいだろう。お願いしていた招聘作曲家の、福士則夫先生と土井智恵子先生にも3年待っていただいて、2022年8月、ついについに、セミナーが復活したのだ!多くの参加者を募りたい、しかし多すぎても困る、という状況の中、ほんとうにちょうどいい数の参加者を得て。
 例年通り、私たちは前夜から野辺山のホテルに宿泊。事情があって遅れて着いたら、3年前までと同じように、広い部屋に集まって前泊組の実行委員や事務局員がしっぽり飲んでいた。ああ、この空気!

ハードな曲も、しだいに音楽になっていく

 3年の間に小海線の列車が減便され、いつもより早い開始になったが、終了を早めなくてはならない今年の状況にはちょうど良かった。信濃川上駅に着いた先生方、参加者のみんなの明るい顔。
 それにしても今年の曲は例年にも増して歌い手側にはハードだった! 福士先生の、最大30声部に分かれる男声合唱の難曲(下の画像参照)! 土井先生の混声合唱曲は、ファンタジー満載の音に乗る、正直わけのわからない言葉……! この中ではもはや【古典】になるのか(大袈裟)、西村先生の女声合唱曲「祇園双紙」だって簡単ではない。
 しかし、川上村の美味しい空気、新鮮なレタス、そして3年ぶりの仲間たちとの空気が味方して、練習はどんどん進んで……はいなかったかな。とりわけ男声は、本当に演奏出来るのか?という空気だった。しかし、福士先生のわかりやすく妥協のないアドバイスと、どんどん進化する藤井先生の指揮で、音楽になっていく! 混声合唱も、指揮の経験がほとんどないという土井先生も、振り方を工夫されて歌いやすくなっていく! 私は西村先生のレッスンを見られなかったが、参加者の中の私が指揮する大学合唱団のメンバーに聴くと、たいへんためになる、楽しいレッスンだったらしい。

福士則夫先生「SINFONIA for male chorus」の一部

来年はメンバーとの語らいが戻ってほしい

 最終日のコンサート。演奏を終えた参加者の充実感!
 この雰囲気、この空気感。本当に帰ってきたのだ。そして、ブランクを経て思う、このセミナーの重要性、先鋭性。ここで行われていることを、もう少し広く知ってもらうことを私たちは考えないといけない。
 今までは懇親会があった。バーベキューをやったこともあった。そこで、実行委員の先生方や事務局のメンバーと参加者との語らいの時間があった。それが出来なかったことは、本当に残念なことだった。来年には、もう少し元に戻るだろうか。戻ってほしい。
 来年も8月上旬。ゲスト作曲家は、隠岐時代の2000年以来2度目の招聘の南聡先生(混声合唱曲)、そして若手のホープで、藤井先生の合唱団の団員でもある五十嵐琴未先生(男声合唱曲)。今年の西村作品のようなスペシャルな女声合唱曲も準備されることでしょう。どうかみなさま、全国各地から、この空気を吸いにいらしてください!

2022年9月22日 国分寺市自宅にて

【隠岐&八ヶ岳ミュージックセミナー これまでの委嘱作品
[1999] 久留智之:ハミングバード *マザーアース
[2000] 南 聡:2つの合唱曲
[2001] 川島素晴:O-Ki
[2002] 藤原 豊:僕の足りないもの/三輪眞弘:またりさまCPU
[2003] 寺嶋陸也:四つの黄色いバラード/信長貴富:女声合唱のための モニュメント
[2004] 溝入敬三:ワシとびわぼん/鷹羽弘晃:交点K
[2005] 篠崎正嗣:ーことばあそびー「トラと信長」「竹垣」*音楽之友社/久田典子:聊斎志異
[2006] 鈴木輝昭:CANZONI DEL GIARDINO(庭園の歌)
[2007] 新実徳英:三つの愛の歌 *音楽之友社
[2009] 原田敬子:(5)つのムーブメント
[2010] 糀場富美子:生命の種まき ―女声合唱とピアノのために *カワイ出版/鈴木純明:ルバイヤート 混声合唱のための
[2011] 北爪道夫:回文集 四季/鶴見幸代:豊かな水
[2012] 寺嶋陸也:混声合唱とピアノのための 花筐 *カワイ出版/新実徳英:女声合唱とピアノのための おくのほそ道―越の国々 *音楽之友社
[2014] 上田真樹:合唱組曲 花と風と *全音/山内雅弘:男声合唱とピアノのための 蛙の交響 ―草野心平の詩による―
[2015] 新実徳英:女声合唱とピアノのための おくのほそ道―みちのくへ *音楽之友社/中村ありす:Phra-a-phay-ma-nii for male voice choir
[2016] 植田 彰:注文の多い船上の彼女―男声合唱(と 3人のナレーター)のための/萩 京子:みるく世がやゆら
[2017] 茂木眞理子:まりちゃんの大阪/日野原秀彦:石の沈黙―無伴奏女声合唱のための
[2018] 新実徳英:A Song and Songs for Mixed choir/寺嶋陸也:九相詩歌 男声合唱とピアノのための
[2019] 吉川和夫:長田弘の詩による 2 つの無伴奏女声合唱曲/茂木宏文:三篇の詩による合唱組曲
[2022]土井智恵子:麻酔シミュレーションテスト/福士則夫:SINFONIA for male chorus

※2008年は三善晃特集のため、2013年は西村朗室内オペラ「清姫」演奏のため、委嘱作品はありません
※出版された作品はタイトルの後ろに「*●●(出版社名)」と記載しています


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