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セイバーメトリクスは短期決戦をどう考える?

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「短期決戦でセイバーメトリクスは通用しない」は本当?


 3月8日、ついに第5回ワールド・ベースボール・クラシックが開幕する。今回の侍ジャパンには大谷翔平(エンゼルス)やダルビッシュ有(パドレス)といったMLBのトッププレイヤーも参加。メンバーは過去最高とされており、3大会ぶりの優勝を期待する人も多いだろう。

 とはいえ大会は短期決戦。実力で優位に立っていても、それがそのまま勝敗につながるわけではない。これまでの国際舞台で日本代表が格下と見られる相手に苦戦してきたことを思い出すと、これは理解できるはずだ。

 こうした短期決戦についてよく聞かれる言説として「セイバーメトリクスは短期決戦では通用しない」というものがある。「アスレチックスの成功により日の目を見たセイバーメトリクスだが、これは長いシーズンを戦う上での戦略に過ぎない。短期決戦でこれは通用せず、現にビリ―・ビーンのアスレチックスもプレーオフでは勝てなかったではないか」という論理だ。

 これについての反論はすでにDELTAアナリストの蛭川皓平氏が「短期決戦とセイバーメトリクス」というコラムで述べているので、そちらを参照してほしい。短期決戦だからといってセイバーメトリクス的な戦略が否定されるわけでもないし、短期決戦になった途端スモールベースボールが有効になるわけではない。

“普通に考えれば、1試合において勝利の見込みを高めることができる方策があるならそれを繰り返せばレギュラーシーズンでも有効ですし、レギュラーシーズンを通して勝率の見込みを高める方策が1試合単位で見たら逆に見込みを下げる、などということはおかしな話です。”

短期決戦とセイバーメトリクス

 蛭川氏は、ビーンのプレーオフについてのコメント「短期決戦の結果は知ったこっちゃない」的な発言が「セイバーメトリクスは短期決戦には通用しない。そしてそのことは利用者自身認めている」と拡大解釈されている点を指摘している。ビーンのコメントの本旨は、試合数が少なすぎて実力が適切に反映されないため、結果はランダム性が強くなる(ゆえに知ったこっちゃない)ということだ。6面のうち4面が勝ち、2面が負けのサイコロでも、7回振っただけでは、負けのほうが多く出る確率が17.3%もある。1試合勝負ならなおさら偶発性に左右されやすい。

プレーオフにおける投手起用トレンドの変化


 ただ蛭川氏は本記事の中で以下のようにも述べている。

“短期と長期で有効か無効かが変わると考えるにはかなり特殊な理屈が必要でしょう。自然に考えられるのは、戦略/戦術と言えるかは微妙としても「優秀な投手の集中的な起用」くらいでしょうか。”

短期決戦とセイバーメトリクス

 確かにMLBでは近年、プレーオフにおいてレギュラーシーズンとは異なる投手起用を行う傾向が強い。具体的には先発投手のイニングが短くなっているのだ。昨年のワールドシリーズでは6試合12投手が先発したが、7イニングを投げきった投手は1人もいなかった。

 そして代わりに増加したのが救援投手のイニングだ。近年のプレーオフではレギュラーシーズンより多くのイニングを任される傾向が強くなっている。昨季は一昨季に比べるとやや低下したようだが、2021年はプレーオフ全体イニングの55.1%を救援投手が消化したようだ[1]。2013年には35%を切っていた値がである。ここ10年の間でプレーオフにおける救援投手の存在感は大きくなっている。

 ということはプレーオフ、短期決戦ではより長く投げる救援がより重要ということだろうか。ただこの見方はミスリードにつながる。救援の占めるイニングが増加しているのは確かだが、これは先発の投球戦略の変化の結果によるものだ。

 どういうことだろうか。

投球の質と量の天秤を傾ける

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