ニンジャスレイヤー・アズール二次創作【アンダー・ザ・ウィングス】

タンクトップ姿の華奢な少女、アズールの青い双眸が周囲の敵を映している。「さんざん舐めたマネしてくれたよなァ、エエッ!?」東部から彼女を追ってきたギャング団のボス、マロウダーのマス・ステルス・ジツのために周囲を囲まれてしまったのだ。

部下たちも重武装、飽和攻撃を仕掛けられればひとたまりもない。しかもマロウダーにはさらなる策があった。「これ以上無駄な損害を出したくないんでなあ」指を鳴らすと、囲みの奥から現れた影があった。

長いマント、幅広の帽子。腰にはホルスターとリボルバー。今まで微動だにしていなかったアズールの瞳が揺れた。

【アンダー・ザ・ウィングス】

◆◆◆◆◆◆◆◆

数年前。アズールはステイツの西部を放浪していた。荒野を抜け、巨木の聳え立つ森林地帯へと入る。マツの香りが土埃にくたびれた鼻腔をくすぐる。

そのとき、「……」アズールは何かに気づき、そちらへ走り寄った。

縛られた小さな少年が、大柄な青年3人に殴られている。「どうだこのケツアナ野郎、思い知ったか!?」「いい加減にしろ、さっさと言えよ!」すでに少年は話す気力もないのか、顔を伏せてグッタリとしている。

「やめなさい」アズールは進み出て止めた。「なんだこのガキ?」「てめえみたいな……」予想通りの反応だ。BLAMN!BLAMN!BLAMN!アズールは抜く手も見せず、3発の銃声はほとんど同時だった。

「あ、アアア」少年たちが凍りつく。全員の頭髪の中央部を弾丸が焦がして道を作っていた。「似合ってるよ」「ヒ、ヒィィィ!」後ろも見ずに逃げ出す。

「大丈夫」アズールが縄を解くと、「ぺっ!」少年が何かを口から自分の手に落とした。「あー、あぶねえあぶねえ!」エメツ鉱石。純度は低そうだがかなりの大きさだ。「ありがと姉ちゃん! 助かったよ!俺、デイヴ!」少年は元気に言った。

「ドーモ、デイヴ=サン。アズールです。それは?」「あいつらが分け前の約束を破ったからさ、一番でかいやつをくすねて逃げてきたんだけど捕まっちゃって……危なかったぜ」たくましいことだ。アズールは肩をすくめ、立ち去ろうとした。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ姉ちゃん!助けてくれたんだ、お礼するぜ!」「別にいいよ……趣味みたいなもんだから」少年の目が輝いた。「うえー、チョークール!それに、さっきはよく見えなかったけど、その銃……」そこまで言って少年の動きが止まった。

耳に手を当てキョロキョロとあたりをうかがう。「どうしたの?」ただならぬ気配に、アズールも振り向く。「う、ウソだろ、やべえやべえ……!」少年はアズールの手を引いて走り出す。

「隠れないと!」「……あの音?」「そうっ!」アズールは即座に透明な狼を呼び出すと、少年を掴んでまたがった。
「え、ええっ!?」何が起きているのかわからないまま、猛スピードで森の中を疾走する少年とアズール。

「どっちに行けばいいの」「こ、このまま森の奥へ!」そして、先ほどから聞こえていたヘリのローターのような音が近づいてきた。

「あれは!」アズールは目を見開く。迫ってくるのは陽光の反射で不可解に変色し続ける大量の鳥の群れだ。いや、群れなどという生やさしいものではない。雪崩、洪水、聖書に描かれた群れなす悪魔。

バイオリョコウバト。自然保護団体の復活させたこの小さな鳥は、現在数千億匹にまで復活し、誰にも予想できない渡りを行うたびステイツ全土に壊滅的被害を与えるのだった。

「このまま! このまままっすぐ!」少年が叫ぶ。だが、極彩色のハトたちの速度は速い。BLAMN!振り向きざまにアズールの放った一発の弾丸が同時に3羽のハトを撃ち落とす!

「エッ!?」BLAMN!BLAMN!BLAMN!次は5羽、7羽、9羽!だが森を飲み込まんばかりのハトの渦!「ンッ!」BLAMN!BLAMN!続け様に放たれた弾丸が複数の大枝を打ち砕いて崩落させ鳥たちを巻き込む!

「す、すげえ……!」命の危機も忘れ見惚れる少年。そのとき中央にそびえたつセコイアの根元にアズールは違和感を感じた。「あの下?」「そ、そうだよっ!」

透明な獣が飛び込むと荒い木肌をすり抜けた、ホログラムだ!2人と1匹は地下の空洞に着地した。空母の甲板のような爆音が頭上をつんざいてゆく。

どうやら古い地下倉庫を利用して住居にしているらしい。「よくわかったね、姉ちゃん……」アズールはこっくり頷く。「わたしはニンジャだから。ニンジャには、いろんなことがわかるの」

「に、ニンジャ!?姉ちゃんニンジャなの?じゃあさっき乗ったのも」「デイヴ?どうしたの?」「あっ、姉ちゃん!」奥から現れたのは金髪をお下げにした細身の少女だ。

「あら、お友達?」「俺を助けてくれたんだ!」「ドーモ、アズールです」金髪の少女も一礼を返した。「まあまあ、ありがとうございました。デイヴの姉のアリスです」デイヴは姉の様子をうかがいつつ「姉ちゃん……その、驚かないでくれよ。アズール姉ちゃんはニンジャなんだって」

「ニンジャ?」少女が目を丸くし、「ウ、ゴホ、ゴホッ!」思わず咳き込む。「……」少年は慣れた様子で姉の背中をさする。「ありがとう、大丈夫よ」

アリスはふたたび一礼し「失礼しました……」「いや」アズールがかぶりを振る。「こちらこそここへ案内してもらった」

「バイオリョコウバトがもう本格的に来ちゃってさ」「まあ……」アリスが口元をおさえる。「あの鳥はどのくらいの期間?」「早ければ1〜2週間、長ければもっと……」「……」アズールはわずかに眉を顰めた。

「どうぞ我が家にご滞在ください。なんのお構いもできませんが……」「それは」アズールは躊躇ったが、先ほどの様子では外に出るのは無理だろう。「ありがとう。お礼はするよ」「そんなのいいって!食料はけっこうあるんだ、この地下に貯蔵庫があってさ」楽しげに話す少年をアリスがニコニコと見つめていた。

次の朝、「頼むっ!」日課の訓練を始めようとしたアズールにデイヴが何度も頭を下げていた。「俺に銃を教えてくれっ!」少年の瞳は真剣だ。「……」アズールは黙って少年を見つめている。

「あれ、父ちゃんなんだ」写真の中で笑う、カウボーイスタイルの大柄な男性。「町一番の銃の名人でさ、十歳になったら撃ち方を教えてくれるって約束だった。でも……」

「もしも誰かにここがバレたりしたら……今のままじゃ戦えない。お願いだっ!」アズールは腕を組み、何かを思い出しているようだった。「……わかった」アズールはこくりと頷いた。「本当かっ!?」もう一度首を縦に振り「ええ。でも一つ忘れないで」

どこまでも深い空色の瞳にまっすぐ見すえられ、デイヴは目をしばたたかせた。「銃は大切な人を守ることもできる。でも、あなたが殺す相手にも家族が、大切な人がいる」
「……」少年は息を呑んだ。「わかった、約束する。絶対忘れない」

「よく見て」目を皿のようにして見つめる少年の前でアズールは何気ない動作で49マグナムを抜き、弾丸を放つ。目標は床に置かれたビーンズの缶。「エッ!?」1発ではない、続け様に放たれた3発の弾丸は魔法のように缶をアズールの掌におさめた。

「……すげえ」缶には傷一つない。「俺、がんばるよ……!」熱を帯びた少年の瞳。アズールの口元がわずかに緩んだようだった。

「ね、姉ちゃん、まだ?」「まだ」
水を入れたボトルを頭上に直立不動のデイヴ。アズールのボトルは微動だにしない。

「とっても助かるわ〜」「ひえ〜……!」空洞の壁面全体に強化塗料を塗る、しかも3度塗りだ!

「よっ! はっ!」「だめ、軸がブレてる」アズールの白く小さな手が少年の肩に触れる。「波紋が広がるみたいに、そよ風が吹くみたいに動くの」

「もっと早く!」「さ、さんじゅういち、さんじゅうに〜!」逆さ吊りでのフッキングだ!

「とってもよく寝てるわ」ミルクだけ飲み寝床に倒れた瞬間寝てしまったデイヴにケットをかけ、アリスがほほ笑む。「この子のこんな寝顔は久しぶり」

「ええ、よくやってる」アズールも静かに頷いた。「アズール=サン、ありがとう。この子も打ち込めるものができてほんとうにっ……ゴホッ、ゴホッ!」

咳き込んでしまうアリスの背をアズールが撫でる。「……もう大丈夫」アリスが体を震わせながら俯く。「わたし、この子に苦労ばかりかけて。何もできなくて……」

「違う」アズールはアリスを見つめて言った。「え……?」「デイヴが頑張れるのは、あなたがいるから。あなたも、頑張ってる」
アリスの動きが止まり、目からは涙がこぼれた。

「わたし、わたしは……」毛布の中、背中を向けた少年の目は、いつのまにか決意に満ちて見開かれていた。

◆◆◆◆◆◆◆◆

「ほーら、センセェ、頼んだぜぇ!?」マロウダーの近くの部下が抱える金髪の女性は紛れもなくアリス。そして、
「姉ちゃん、久しぶりだな」

たくましく成長し、どこか寂しげな笑い顔。「変わらないなあ、お世辞じゃないぜ」

「ニンジャになったの」「ああ」両手を合わせ、一礼する。「ドーモ、ウルフベインです」「ドーモ、ウルフベイン=サン」少女が返した。「アズールです」

デイヴ……ウルフベインはゆっくりと銃を抜いた。落ちていた空き缶に向けて、1発、2発、3発。跳ね上がってきた缶を掴む。「できるようになってたよ、ニンジャになる前からさ」

「がんばったね」「アズール=サン!ゴホッ、ゴホッ!」アリスが絶望に身を震わせ声をあげる。

「まあ、こういうわけなんだ」「……」アズールが言いかけてやめた。彼の態度はどこかおかしい。「とりあえず勝負しようぜ、姉ちゃん」
ウルフベインは銃をホルスターに収め直した。2人の右腕が垂れ下がる。

見つめ合う両者、そして、
BLAMN!BLAMN!BLAMN!
銃声は3発、いや6発!

「ホォー!」マロウダーが思わず声をあげる。互いの弾丸は空中でぶつかり合っていた。技量は互角か。

「やっぱすげえや姉ちゃん」
こんな状況なのに、デイヴの瞳は昔のままに輝いている。「しかしニンジャになるといろんなことがわかるんだなあ」青年が笑う。そのとき、慣れぬアズールにもようやくわかった。

近づいてくる羽の音。湧き上がるギャングたちの悲鳴。         バイオリョコウバト。
「な、なんだァー!?」
2人はニヤリと笑い背中合わせに銃を抜いた。

【アンダー・ザ・ウィングス】終

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