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OriHimeの秘密(前編)

1.体感

皆さんは、OriHimeをパイロットとして操作した体験があるだろうか?

私は、今までOriHimeに興味を持って頂いた方々に、OriHimeについてお話をしたり、時には実物のOriHimeを持参してデモをお見せしたり体験いただきながらOriHimeについて説明をさせて頂く機会が幾度となくあった。

しかし、OriHimeを長い間実際に使い倒してきた私でさえも、OriHimeで体感できることを相手にストレートにわかりやすくご説明するのはとても難しいことであった。

それは、このエバンジェリスト活動を始めるとより一層強く感じられ、もどかしい気持ちが日々つのっていった。
実際に、エバンジェリストとして初のコラム『分身ロボットOriHimeとの出会い & エバンジェリスト活動はじめます』において、文章の最後を”相手に委ねる言葉”で締めくくっている。
(この言葉を当時書くかどうかすごく悩んだことを思い出す)

≫≫≫「だから、もっと、もっとOriHimeを知って欲しい。必要とされている人のところに届けたい。使って欲しい。一度使えばその意味がわかるのだから。。。」

また、先日2021.06.18にアップされた『パイロットインタビューNo.1さえちゃん』の文章において、さえちゃんが「テレビ通話とOriHimeの違い」や、「生身とOriHimeの違い」など、さえちゃんだからこそ感じている「OriHimeでのコミュニケーションの特徴」について下記のようにお話されている。

≫≫≫「テレビ通話」と「OriHimeの違い」は、とてもよく聞かれます。
結構体感的なもので難しくて、普段は「経験してみてください」としか言えていないです。


もともと他人に自分の感じたことや新しい技術をわかりやすく丁寧に説明することは、すごく難しいことだと思う。
しかし、体感、すなわち「身体の感覚的な感じ・からだで体験を受け止めること」をしっかりと言語化できてこその”エバンジェリスト”だろうと自分にずっと問いかけ模索し続けてきた。

そんな中で最近ある本と偶然・いや必然の出会いから、言語化のヒントを得ることができた。ただ、その本の文章や内容をそのままお届けしたのでは理解が難しい部分もあると思うので、エバンジェリストらしくできる限り多くの方にわかりやすく咀嚼して書いていけたらと思っている。

そして、やっと『OriHimeの秘密』を言葉・コトバにして皆さんに届けることができる。
そして、それが分身ロボットカフェ常設実験店オープンに間に合ったことが何より嬉しい。少し長い文章になるが、是非お付き合い頂き、このコラムをきっかけに、新たに日本橋の分身ロボットカフェに足を運んで頂ける方が増えるといいなと心から思っている。



2.道具としてのOriHime ~自己帰属感~


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例えば、人は文字を書く時に鉛筆という道具を使う。その際に人は右に傾斜して圧力は少し強めで右横に滑らせるように鉛筆を1㎝移動させて…など、頭で考えて字を書いている人はいない。人は文字を書く時に、鉛筆という道具を使いつつもそれを意識することはない。鉛筆の重ささえも感じないのだ。

先の本では、この意識せずとも使えるということ、その道具が自分の身体と同じようになるということを『自己帰属感』という言葉で表現していた。


◆OriHimeについて考えてみよう。
小さいほうのOriHime-Bizの場合、パイロットの方々に提供されているインタフェースは、大きくわけて下記の2種類がある。
 ①受動的インタフェース
  カメラを通した映像(視覚)
  スピーカーから聞こえる音声(聴覚)
 ②能動的インタフェース
  腕を動かすことによるジェスチャー(表情・表現)
  首を動かすことによる映像制御(視点移動)

人が道具を使うという意味においては、②の能動的インタフェースになる。その中で、腕によるジェスチャーはいわゆるSNSやWEB会議におけるスタンプや絵文字の役割をなしている。自らの感情をほんの少し付け加えることができる便利な機能である。しかし、これだけではWEB会議でも同じようなことは当たり前にできるし、その違いを正しく語ることはできない。

では、何が違うのか?

私が一番重要だと考えてきたのは、自らの指で画面上をスワイプするという行為によって『視点移動』ができるというインタフェースである。

WEB会議やテレビ通話の場合、PCやスマホの上部にある固定カメラを利用していることがほとんどであり、遠隔からカメラを左右に制御することはできない。こういうことを言うと、決まって、「最近はWEB会議用として会議室専用のカメラを遠隔から左右に操作できるタイプもあるじゃないか」という方もいるのだが、そこには映像を写すというハード的な視点しかなく、本来あるべき人間のコミュニケーションの視点が全くもって抜け落ちているのである。


コミュニケーションデザインの本質は、人が見たい方向を見るという意識の中で、人→指でスワイプという行為→道具(首が動く)→視点移動であり、自らの分身となるロボットが遅延なく動くことができる時、OriHimeという道具そのものが自己帰属感をいざなって自分の体の一部となるのである。

これが、分身である所以であり、OriHimeパイロットの方々がWEB会議とは全く違う!という真の理由の一つである。


さらに、電話やWEB会議のように、打合せの1時間だけ接続するというような目的から発生する制約・縛りがないため、受動的インタフェースから得られる日常の風景や雑談という環境(映像と音声の情報の流れ)をシャワーのように”常時”受け取るという特徴がOrHimeにはある。

この特徴が、自分でも無意識のうちに自分が居る現在の場所ではなく、ロボットがおかれている遠方の世界に自分がいるという知覚を生み出し、同じ場に参加しているという体験を導く
特に、移動に制約があるパイロットの場合は、OriHimeを使った時にワープした感覚を得られるとともに、その場に”私が在る”という喜びを顕著に感じるのである。

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つまり、家にいながらにして、例えばOriHimeが草原にいるなら、その花畑の真ん中に自分がいる体験をできるということだ。

ちょうど分身ロボットカフェのトライアルが始まった1,2年前から、パイロットの方々が頻繁にそして明確に、「OriHimeでワープしてきた」というような表現でツイッターに体験を投稿されているのをみていて、やっと同じ体験を共有できる人がちが増えてきたなと微笑ましく思っていた。ワープする時の浮遊感は最初は感動すら覚えるくらいインパクトのあることなのだ。


さあ、あなたもこのワープ! 体感したくありませんか?
子供の頃に読んだ小説、映画やアニメの世界でしかなかった、あのワープをぜひ体感してみてください!

≫≫≫「だから、もっと、もっとOriHimeを知って欲しい。必要とされている人のところに届けたい。使って欲しい。一度使えばその意味がわかるのだから。。。」
(今、この言葉をエバンジェリストとして自信をもって書くことができる)


これがOriHimeの秘密の一つである。お楽しみ頂けただろうか?

文章が長くなってしまったので、さらなるOriHimeの秘密は後編へ…つづく。


<参考文献>
著者:渡邊恵太 『融けるデザイン』 出版社:ビー・エヌ・エヌ新社
それでも…たかだかスワイプしてカメラを動かすだけでそんなことが言えるのか!?と思う方がもしいたとしたら、『融けるデザイン』にも記載されていた「マルチダミーカーソル実験」という面白い実験を確認してみてほしい。自己帰属感を非常にシンプルで、しかしながら緻密に実装された実験で明らかにしている。これは本当に秀逸な実験だと思う。


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