「茎からCBDは取れない」とする某社プレスリリースに対しての反論
こんにちは。ワンインチの柴田です。
突然ですが、今回はCBDに関する「茎種問題」について書かせていただきます。
前提として日本でCBDを扱う場合、大麻草の成熟した茎もしくは種子から抽出されたもののみが合法的に取り扱うことができます。
詳しくはこちらの記事を参照してください。
今回の記事では「茎と種からはCBDが取れない」=「日本のCBDの存在は矛盾している」と表明している、ある会社のリリースに対するワンインチとしての考え方をまとめたものです。
はじめに、弊社では論争というものは炎上マーケティングを目的としない限り何ら価値がないという立場であること。
また論争が当事者以外からは見るに堪えないものになりがちで双方に悪いイメージが生まれてしまうことから個人的に論争はすべきではないと考えております。
特に大麻関連の話題は、関係者それぞれに「思惑」や「都合」が強いレベルで存在しています。
それぞれの立場があり、願いがあり、それは命に関わる切実なものを含んでいることを理解しているつもりです。
これに対しリスペクトがある為、会社としても個人としても論争という形で、介入をすることは避けてきました。
今回、ある企業のプレスリリースにおいて、「CBDは茎と種からは取れない」と公式見解として出されました。
これに伴い、茎からCBDを抽出し原料として取り扱っている弊社にも問い合わせとしても幾つかご意見をいただいております。
某企業のプレスリリースには、事実と異なるミスリードがあり、看過できない内容があることから、論争になる可能性を承知のうえで意見を表明します。
決して一時の義憤に駆られての話ではなく、事実誤認に対する私なりの意見であることを知っていただければ嬉しいです。
まずは、結論を書かせて頂きます。
結論
・当該企業がリリースで提示した、DEAが参考にしている論文からは「茎からCBDが抽出できない」という内容は見いだせない。
・むしろ、引用論文からは「カンナビノイド抽出は、茎からも可能である」という内容が明らかになっている。
・権威ある組織の発表を引用し、事実誤認する形でのミスリードは、他の企業努力を著しく毀損するものであると言わざるをえない。
順を追って説明します。
「茎と種からはCBDが取れないとする根拠」のエビデンス引用論文と内容
今回の議題である「茎と種からはCBDが取れないとする根拠」を当該企業のプレスリリースでは以下の論文から引用し見解を述べています。
こちらはそもそも「マリファナ抽出物の新しい薬剤コード(7350)の明確化について」という題名であり、抽出部位についての説明を明確にするリリースではありません。
このDEAの発表の中で、「最近の一般的な問い合わせに対し、大麻植物のカンナビノイドの出所について誤解があるので基準となる根拠を示す」としており、
A:カンナビノイドは、CSA[規制物質法] のマリファナの定義に該当する大麻植物の部分、例えば花、樹脂、葉などに含まれている。
B:科学文献によると、カンナビノイドは、種子や成熟した茎の表面に付着した少量の樹脂に含まれる可能性のある微量を除いて検出されていません。
としています。
これらAとBに関して、それぞれ論文が参照されています。
Aの論拠となる論文:H. Mölleken and H. Hussman. Cannabinoid in seed extracts of Cannabis sativa cultivars. J. Int. Hemp Assoc. 4(2): 73-79 (1997).
Bの論拠となる論文:See id.; see also S. Ross et al., GC-MS Analysis of the Total Δ9-THC Content of Both Drug- and Fiber-Type Cannabis Seeds, J. Anal. Toxic., Vol. 24, 715-717 (2000).
根拠となる論文の要点
Aの論文の要点
・「種からはほとんどカンナビノイドは取れない」
・「花、葉、小さな茎、大きな茎、根、種子の順にカンナビノイドは減少する」
Bの論文の要点
・「薬剤として使用される種子の品種の方が繊維として使用される品種の種子よりも多くのTHCが検出された」
・品種により種の中に存在するカンナビノイドの率は大きく異なる
・特にTHCについては種子の表面に多く含まれる
以下が、要点として取り上げた論文の具体的な内容となります。
Aの論文詳細
Aについては下記の論文が参考文献として参照できます。
これは1997年の論文です。
いくつかの品種のヘンプオイル(種子から抽出)に関して、どれほどのカンナビノイドが含まれるか検証したものです。
品種によっては主要なカンナビノイド(CBD、CBN、およびΔ 9 -THC)が含まれていない品種が多いことや、ごく微量カンナビノイド含まれる品種があることが確認されており、茎に関しては記載がほとんどありません。
結論としては「種からはほとんどカンナビノイドは取れない」ということを証明した論文になります。
茎に関する記述としては「花、葉、小さな茎、大きな茎、根、種子の順にカンナビノイドは減少する」とし、しかもこの研究は引用で1970年の論文を引用しています。
カンナビノイドが詳細に研究されたのは1960年代なので(ゆえに日本の大麻取締法は制定時成分で規制できなかった)、相当に古い情報がソースになっていることがわかります。
Bの論文詳細
Bについては下記の論文が参考文献として参照できます。
こちらの論文は2000年に出された論文です。
題名は「薬剤型と繊維型のカンナビス種子の総Δ9-THC含量のGC-MS分析」となります。こちらも基本的には種子に関する研究です。
結論としては「薬剤として使用される種子の品種の方が繊維として使用される品種の種子よりも多くのTHCが検出された」とする論文です。
品種により種の中に存在するカンナビノイドの率は大きく異なり、特にTHCについては表面に多く含まれる(しかもおそらく葉や花からの付着)ので洗浄したところTHCは10%以下になったということがわかっています。
しかし、この論文からは茎に関する情報は見出せませんでした。
ここまでの内容を参照したうえで、茎からのカンナビノイド抽出に関して書かせていただきます。
茎に関する研究はAの論文中に参考文献として掲載されている「カンナビノイドが抽出できる部位の順番」に関係があると考えています。
カンナビノイドが抽出できる部位の順番に関して、以下の論文を説明させていただきます。まずは、要点だけを書きます。
抽出部位に関する論文の要点
・大麻草を用いた、様々な部位のカンナビノイドを調べた実験
・全9種類を用い、茎を成分分析したものが2種(メキシコの品種とトルコの品種)
・メキシコ産では「花:葉:茎=100:10:7」の比率でカンナビノイド含有
・トルコ産では「花:葉:茎=100:33:3.3」の比率でカンナビノイド含有
・種は、花の100分の1以下でほとんど取れない。
・データにより「花、葉、小さい茎、大きい茎、根、種子の順」にカンナビノイドが含まれるという研究
以上からも、茎からカンナビノイドが抽出できないことは見いだせません。
以下が引用論文です。
こちらは1971年の研究です。
「ミシシッピ産Cannabis sativa L: 表現型の化学的定義およびテトラヒドロカンナビノール含有量の年齢、性別、植物部位による変化に関する予備的観察」という論文です。
ミシシッピ大学で研究用に各国(9種)の大麻草を用いて様々な部位のカンナビノイドを調べた実験になります。
全9種類のうち、茎を成分分析したものが2種(メキシコの品種とトルコの品種)になり、メキシコ産は花から取れるカンナビノイドを1とした時、葉は約10分の1、茎は葉の約70%が含有することが明示されています。
THCですと花の20分の1しか茎にはないことも同時に明らかにされています。
トルコ産では花に比べ、葉は3分の1のカンナビノイド、茎は花の10分の1程度、THCも茎は花の10分の1以下であることがデータに出ています。
種は花の100分の1以下でほとんど取れないことがここでも証明されています。
これらのデータにより「花、葉、小さい茎、大きい茎、根、種子の順」にカンナビノイドが含まれるという研究でした。
「茎からはCBDが取れない」という文言はどこにもありませんでした。
DEAの発表した内容の論文を参照したが、茎からCBDが取れないというデータは見出せなかった
ここまでの論文のまとめをします。重複になりますが、
・某企業が明示しエビデンスとしたDEAのリリースが引用している論文から、「茎からCBDをはじめとしたカンナビノイドが検出できない」というソースは発見できませんでした。
・種子からはカンナビノイドはほとんど出ないという記述は存在する。
・むしろ参考文献からは茎からは10分の1程度のカンナビノイドが検出できるとしていする。
そもそもDEAのリリースの主意は「マリファナ抽出物の新薬コード (7350) の明確化」であり、種については明示されているものの、茎に対する言及はほとんどありません。
また、いくつかの論文を検証すると、大麻草が植物である以上、THCも微量に各部位に存在するということです。
これは厚生労働省も認めていることですが、現状の部位規制では無理が生じています。
GHQによって制定された大麻取締法はその時代において各成分が明確になっておらず、精神作用のある部位はもっぱら花や葉にあると思われており、かつ日本では主に茎と種子を産業用に使用していたことから、現在の法律になりました。
本題からはずれますが、今回の論文群で明らかであることは、茎にも微量にTHCが含まれてしまうという事実であり、これは厚労省も認識していることです。
もちろん各社は検出限界値以下にTHCを抑えるために企業努力の中で抽出を行っています。
先日の厚生労働省による有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」でも部位規制から成分規制への移行を目指していることがわかりました。
某企業のプレスリリースでは「日本での大麻取締法は部位規制のはずで、茎種からはCBDは取れない+THC検出の可能性もあるから、合成カンナビノイドが安全です」という書き口でしたが、成分規制へと日本が動いている以上、数年内にガイドラインで成分による輸入管理がなされると考えています。
ワンインチとしての考え方
弊社の使用しているCBDは「茎から抽出されたCBD」です。
多くのアメリカCBD企業へ問い合わせを行ったところ、「基本的に葉・花からCBDを抽出しており、茎からは抽出していない、抽出もできないはず」という返答によりほとんどの企業と契約ができませんでした。
そんな中、Kat's Naturals社の創業者Katherineが
「茎からの抽出は、誰も実験はしていないと思います。それであれば、我々が茎から抽出できるか実験してみます」
と提言してもらいました。
結果として、葉・花よりも非常に収量は少ないのですが、茎からCBDが取れることがわかり、小さい規模ではありますが、葉・花の工場と分けて茎からCBDを抽出する工場を作り、日本向けに原料を供給してくれて契約を結びました。
話が戻りますが、弊社からすると某企業による「CBDは茎と種からは取れない」というリリースは寝耳に水で、他の日本CBD企業も様々な努力をしたうえで国内に合法的にCBDを輸入しています。
このような状況を逆なでするような形での見解の表明は看過することはできません。
以上が今回の記事の全貌となります。
誰しもが、それはこの文章を書いている私自身も、この企業と同じ立場になる可能性があると思います。
だからこそ、この文章を書く時にも、エビデンスを可能な限り取ります。
しかし、引用論文自体が、エビデンスの体を為していないということはありえません。
全ての論文を参照・検証することは不可能だと思います。
しかし、可能な限り、肯定論文、否定論文を可能な限り検索し検証します。
これが、新しい主張(何かを否定するなら特に)をするときの基本的な姿勢だと考えています。
CBDを日本に広め、様々な活動をしている同業者に対して礼を失することのないよう自戒も込めて今回の記事を書かせて頂きました。
まとめ
現在の日本のCBD市場はまだまだ過渡期です。
今後も、様々な問題が噴出することは各企業が折り込んでいることだと思います。
しかし、できることならばCBDに関わる企業が同じ方向を向き、市場を共に大きくしていける状況が望ましいと私は考えています。
私自身もCBD事業を行えているのはこれまで日本の中でCBDの輸入に際して厚労省や税関と多くの議論を行ってきてくださった諸先輩方の先にあるものだと感じており、大きなリスペクトをもって事業を進めています。
某企業がどのような考え方かははかり知ることができませんが、「自分たちは合成CBDを扱っていて違法可能性もある天然(大麻草)CBDではないから、天然CBDはすべて排除して自分たちだけが市場を席捲してやろう」という姿勢を感じてしまいました。
そもそも、この企業のプレスリリースでは合成カンナビノイドの安全性についてはほとんど言及していません。
では果たして合成カンナビノイドは安全であるのか、次回の記事で書いていこうと思います。読んでくださりありがとうございました。
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