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燕三条ローカリストカレッジ2018【最終報告会】内と外から見た燕三条。ローカリストの使命とは

ものづくりのまち新潟県燕三条地域。江戸時代から続く技術を受け継ぎ、新しい機械も取り入れながら、庖丁やはさみ、自動車部品など数多くの金属製品を生み出してきました。しかし全国にある工業産地と同様に職人の高齢化や後継者不足など将来に対する問題も多く抱えています。

そんな課題がたくさんあるなか立ち上がったのが、「燕三条ローカリストカレッジ」。

今後、燕三条地域全体としてどのような方向性に向かって進んでいけば良いのか。この地域の課題を自分ゴトとして捉えながら鳥の目を持って行動できる若者を育成する。

そんな目的を持って「燕三条ローカリストカレッジ」は始まりました。燕三条地域を発信するため、公募で集まった6人。座学やフィールドワーク、WEB媒体への記事掲載、他地域の視察を通して、どんなことを感じ、どんな未来を築いていきたいのか。そんな半年間の軌跡を発表する最終報告会にお邪魔してきました。

前半はパネルディスカッション方式で活動内容の紹介や参加メンバーや講師陣の振り返りを、後半は参加者も交えて燕三条の未来について考えます。

ローカリストになるために歩んだ半年間の軌跡

司会進行は、山倉あゆみさん。まずは半年間の活動内容を振り返ります。

山倉 あゆみ さん
新潟を拠点にローカルインタープリター集団として活動する
Sync board Inc.代表。
個人/地域/企業/行政/団体と様々な人々と協働しながら、食農、コミュニケーション、空間などプランニングディレクターとして地域創生伴走型のコンサルティング事業を展開する。料理人経験を生かし、2010 年のケータリングチーム立ち上げから、キッチンカーでのアグリフード提供、古⺠家レストラン、公共施設の飲食店等、食空間を楽しむ仕組みを展開。フードマガジンや、料理通信社「料理通信」の連載 local topics Japanなどにてフードキュレーション、ライターを担当する。2017 年 SHIBUYACAST に誕生した生活共同体「Cift」スタートメンバー。現在、新潟と渋谷など全国の多拠点を行き来する一児の母。

6月から始まった燕三条ローカリストカレッジはオリエンテーションとして地域を知る講座からスタート。専門家の講座やフィールドワークなど座学から実地研修まで多種多様な活動を行いました。まずはどんな活動をしたのか簡単にお伝えします。

1、 地域を見据える
日本全国の地域づくりに取り組まれてきた清水先生から地域人材の未来についてお話を伺います。

2、 地域を伝える

普段から発信している講師の3人からどんな風に伝えているかを教えていただき、その後実際に燕三条の工場をまわり、編集・デザイン・発信する方法を学びます。この取材を経て各々で記事を執筆。書いた記事は講師陣からの講評をいただき、実際にWEBニュースメディア「ハフポスト」に掲載されました。

笹川 かおり さん
(ハフポスト日本版ニュースエディター/ブランド・マネジャー)
岐阜生まれ。横浜国立大学卒業。出版社にて、コミックエッセイ、小説、ビ ジネス書、実用書など様々な書籍を手がける。2013年、ハフポスト日本版の立ち上げに参画。副編集長を経てブランド・マネジャー。働きかた、ジェンダー、LGBTQのほか、ライフスタイル領域の記事を執筆、イベントを企画している。
ハフポスト日本版:https://www.huffingtonpost.jp/
白水 高広 さん
(株式会社うなぎの寝床 代表取締役)
1985年佐賀県小城市生まれ、大分大学工学部福祉環境工学科建築コース卒業。2009年8月から2年半携わった雇用創出事業「九州ちくご元気計画」は、2011年グッドデザイン賞を受賞。 2012年7月にアンテナショップうなぎの寝床を立ち上げ、現在まで地域文化商社として成長させている。地域の中のシステムとして機能していく商品開発を行っており、代表作の久留米絣のMONPEは1型で年間生産 15,000着。
うなぎの寝床: unagino-nedoko.net/
坂口 祐 さん
(物語を届けるしごと/デザイナー/フォトグラファー)
1980年東京生まれ、茅ヶ崎市育ち。慶應義塾大学、ロンドン大学にて景観設計と建築設計を学ぶ。2010年に四国に移住、経済産 業省四国経済産業局にてウェブマガジン『四国びと』を担当。2014年に独立し食材が届く情報誌『四国食べる通信』や雑誌『せとうち暮らし』に関わる。徳島県唯一 の村、佐那河内村の農産品のブランディングを手がけ、季刊誌『さなのごちそう便 り』編集長も務める。
『物語を届けるしごと』: https://yousakana.jp/

3、 九州研修視察
うなぎの寝床白水さんに案内してもらい、他県のものづくりの現場を視察。自分たちの地域を俯瞰できていたか、自分ごととして捉えられていたかを改めて考えます。

4、 燕三条 工場の祭典ツアーサポート
期間中に開催される工場めぐりでツアー当日の運営サポートとして参加。実際の来場者を相手に燕三条の魅力・伝え方について実践します。

大きく分けて4つの活動を行なってきた6人。
「ここからはパネルディスカッション方式でお話を聞いてみましょう。まずは1分くらいで感想を」と山倉さんから最初にバトンを受け取ったのは、大阪出身の橋本さん。(以下、自己紹介と感じたことをセットで記載します)

橋本 和明 さん
大阪府出身で、現在は柏崎市に移住。かやぶき一軒家で住み開きをしている。今年の受講生のなかで唯一の移住者。

感じたこと/記事を書いたり現場をまわったりする中でいろんな角度から伝えることの難しさ。
成田 駿さん
三条市にある株式会社山谷産業に勤務。ECサイト「村の鍛冶屋」を運営し、三条の包丁金物やアウトドア商品なども扱う企業。ゆるキャン△とのコラボ商品の発案者。

感じたこと/僕はアニメ・漫画好きなんですが、工場を見たときにオタクに通じるものがあるなと。記事を書くときには自分のことばで書いたほうが響くかなと思って、オタク文化を取り入れた記事を執筆。
田中 美央さん
三条市下田地域の地域おこし協力隊。新潟市出身。古民家を住み開きして地域の人や外からの人が集まれる場を作っている。

感じたこと/今までは工場って海沿いに煙突があるようなイメージだったのですが、燕三条の工場は家と家の間にあったりして、生活に溶け込んでいるんだなあと。また自分で発信することに責任感を感じるように。
北澤 嘉奈恵さん
三条市出身。以前、オープンファクトリーを見学する機会があり、そのときに初めて職人のかっこよさを知る。これを契機に自分の地域について知ってみたいと思い、このカレッジに応募。

感じたこと/カレッジを通して有名な企業だけでなく、おじいちゃんが一人で経営しているような小さな企業も知れた。自分で発信してみて伝えた後の結果、「どうなりたいのか」まで考えるように。
野村 麻由子さん
新潟市(巻)出身。もともと燕三条は隣町で、ものづくりの町として知っていた。しかしどんな工程で作っているのか、何が凄いのかよくわかっていなかった。

感じたこと/記事執筆という表現をする中で何が凄いのか、どういった魅力があるのかと考えるように。常になぜ・何がと考える癖がついた。
斉藤 恵さん
三条市出身のフォトグラファー。母親が燕市、父親が三条市出身と燕三条で生まれ育った。実家の近くに小さい工場はあったが、本当に何をしているのかは知らなかった。

感じたこと/地元である燕三条には魅力的な工場がたくさんあるのに気づけないことが多かった。今回記事を書くことで頭の中にあることを文章にうまく表現できなくて苦労することも。これからは自分の力で発信していきたい。

自分ととことん向き合う。初めての大手WEBニュースメディアでの執筆

今回、講師の一人として参加してくださった、笹川さん。普段は東京都にある大手Webメディアハフポスト にて編集職として活躍していらっしゃいます。

笹川さんからは「なぜ自分が書くのか」「どうしたら燕三条を知るきっかけになるのか」をとことん考えるように導かれ、それぞれ独自の色が出た原稿が出来上がったそうです。

自分たち以外のものづくりの現場を見る、九州研修視察

ハフポストでの執筆を終えると、九州へ研修に出かけます。なぜ執筆“後”なのかというと、「他の地域をみてから書いたら、キレイに書いてしまうから」。井の中の蛙という状態で書き、書き終えた後に他地域をみて、自分たちが書いた記事と比較してほしいといった運営側の想いがあったそうです。

「九州研修視察で得た発見は?」との質問されると、成田さんが印象的なお話をされていました。

成田さん:燕三条という地名が有名になってきている中、「made in 燕三条です」で通じてしまう部分がある。ネームバリューに甘えないことが大事だなと思いました。

白水さん:現地に足を運び、人と接することで自分ゴト化し、それぞれの解釈を生み出すことができる。こうした人が増えることが産地をつくっていく。ネームバリューもそうだけど、もっと物語を噛み砕いて話せるといいよね。

と、白水さんからは成田さんが感じたことを踏まえてさらに先を見据えたお話も。会場にいる多くの人がはっとした瞬間だったような気がします。

四国を中心に様々な産地を訪れる坂口さんからはこんな話も。

坂口さん:作り手の顔が見える、ストーリーを知っていることが、あの人に合いそうといったプレゼントになることもあります。

山倉さん:私、前に坂口さんから手袋もらいましたよね?

坂口さん:そうそう。東かがわ市の手袋を渡したよね。実は日本の手袋の約9割は東かがわ市で作られているんです。そこにある「tet.(テト)」は各工場の職人に話を聞き、今を伝える仕事をしています。

こういったように誰が作っているか、どんなストーリーがあるかを知ることで「あ、この人にはこんな商品が合いそうだな」って思うようになるんですよね。

と、ストーリーを見せることでその先に何が起こるかをエピソードとともに話してくれました。

最後に清水先生からはいかに自分ゴトとして捉えるかの大切さについてお話をいただきました。

清水先生:今の時代、インターネットが発達し、誰でも安易に情報を伝えることができるようになりました。

しかし議論されずに公開された情報はただ流されていることが多い。他人ゴトから自分ゴトへと、伝えられる人から伝える人になることが最初の一歩。誰に・何を・どんなふうに自分の言葉で伝えるのか。こうやって伝える難しさを知り、考えたことは受講生にとって大きな進歩だったと思います。

会場からのQ&A

少し休憩を挟んで、会場からの質問を募集。休憩の間に受付時に手渡された白い紙に質問を書いてスタッフに渡しておきます。

そして始まると山倉さんが質問を読み上げ、次々と受講生に話をふっていきます。

「地域に興味を持ったきっかけは何ですか?」
橋本さん:山倉さんのアツい想いに惹かれたから。この人がこんなに言うんだったらと内容はよくわからないまま応募していました。

「地域に人が来るにはどうしたら良いのでしょう?」
橋本さん:僕自身に興味を持ってもらえるように発信する。それで面白い人に会いに来てもらえるようになれば、伝染して面白い地域になるのでは。

「今後やりたいことはありますか?」
斉藤さん:カメラマンからライターもするように。自分から興味を持って発信していきたい。

北澤さん:今、求職中なのですが、ものづくりに関わる仕事をしていきたいなと思うようになりました。

その後はファシリテートを山本輝さんに渡して、グループワーク。受講生と来場者が一緒になって「燕三条 工場の祭典がもたらしたもの」「未来の燕三条のありたい姿」について話し合います。

山本 一輝 さん
(Idea partners 代表/
プランニングディレクター/ 国家資格キャリアコンサルタント)
1986年新潟県新潟市生まれ。小・中学校でいじめと不登校を経験。定時制高校を経て大学で教育心理学を専攻。東日本大震災を仙台で経験し、自らの”命の使い方”を考え転職を決意。仕事の傍らこれまでの経験を生かし、プロボノとして東北でのまちづくり活動 や被災地域の若者のキャリア教育に携わる。現在は教育、人材育成と持続可能なまちづくりをテーマに、企業・学校・NPOのパートナーとして活動。人材育成や教育の企画監修やプログ ラムデザイン、キャリアに関する研修・講演、 地域振興企画のプランニング、ワークショプデザイン、ファシリテーションなど幅広い分野で、 新潟を拠点に各地で活動中。

今年で6年目となる燕三条 工場の祭典は毎年参加企業も来場者も増え続けているそう。こうした背景を踏まえた上でどんな未来をつくっていけば良いのか。みんな真剣に課題に向き合っていました。

最後は受講生がそれぞれのテーブルで発表し、参加者は気になる場所へと聞きにいく形式。同じグループでは出なかった意見も聞く機会ができ、さらに広い視野を持って燕三条に向き合うことができた時間でした。

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当日はこのような流れでイベントが進んでいきました。参加者は燕三条のこと、はたまた自分の関わる地域について改めて考えるきっかけになったようでした。

もし燕三条のものづくりに少しでも興味を持ってくださった方がいらっしゃったらぜひ事務局に問い合わせてみてください。きっとあなたの一歩を手助けしてくれますよ。

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当日の様子(動画)

※写真は全て事務局よりお借りしました。

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