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転移の可能性。不安のなかで見つけた心の拠りどころ#03

大学病院の初診を終えると、怒涛のように検査と診察の日程が入った。最初はCTでの全身検査。治療前に他の臓器に転移がないかを調べるために行われるらしい。

この頃になると、がん告知のショックから立ち直りつつあったので、ドラマや漫画に出てくる大きな検査に少しだけワクワクしていた。

名前を呼ばれると私服のまま検査台へ。造影剤を入れるために腕に点滴を繋がれる。最初は生理食塩水なので感覚はほとんどなかった。その状態のまま装置の中に入り、アナウンスとともに息を吸って吐いて止めるの繰り返し。しばらくすると、造影剤を入れるアナウンスがあり、体内に造影剤が入ってきた。

造影剤が静脈をまわるとからだが熱くなる感覚があり、どのあたりを巡っているのかがわかる気がした。

その週の金曜日、CTの結果を聞くために病院へと向かった。ここでも呑気に「さすがに転移はしていないだろう」と高を括っていた。人生なにが起こるかわからないとたった3週間前に学んだばかりなのにも関わらず…。

待合室で待ち、診察室に呼ばれる。席につくと先生から衝撃的な一言を告げられた。

「この前の検査の結果なんですけど、肝臓に小さな影がありまして。詳しい検査をしなければいけないんですよね」

考えてもいなかった事態に頭が真っ白に。がんの告知を受けたときは冷静だったけど、転移となると話が別。人生の最期がぐんと近くなる。思考が停止しそうになるのをなんとか踏みとどめて、先生の話を聞く。

MRIの予約を取るとなると1ヶ月以上後になるから、エコーとPET検査をするらしい。それでも検査は2週間後。がんの進行速度もわからない中、不安な日々が続くことになった。

そして、その日に言われたことは肝臓の話だけではなかった。心電図の波形が少しおかしいらしい。これだけでは何が原因かわからないので、循環器内科の診察も受けることになった。

転移しているかもしれない。

事実をすんなり受け入れることなんてできなかった。転移していたら手術はできない。胸に抱えたがんの固まりと生涯を共にしなければいけなかった。なにより、漠然と遠く考えていた人生の最期が急に身近になる。親より早く最期を迎えるのかな、結婚して子どもを持つなんて夢のまた夢の世界なのかな。家族や友人の人生に寄り添えない悲しさ、自分という存在がいなくなってしまう寂しさに押しつぶされそうになっていた。

でも、そんなときに救われたのが、今までの職業だった。ライターとしてさまざまな記事を書いてきて、中には署名記事でWeb上に残っているものもある。こうした記事がわたしの生きた証になる。その事実に心底救われたのだ。

同時にわたしは以前ライターの方が言っていた「自分よりも長生きしてくれる記事を目指す」という言葉を思い出していた。そのときは80-90年以上続く記事をと思っていたけど、たとえ最期が早く訪れたとしても、書いてきた記事はわたしの軌跡となる。今までとは違った意味でライターをしてきてよかったと思った瞬間だった。

photo - TAKAHIRO HOSHI

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