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乳がんだとわかった日。 #01

「悪性…がんですね」

乳腺クリニックでそう言われたとき、なぜかわたしは落ち着いていた。さっきまで自分ががん患者になるなんて1mmも考えていなかったのに。

ドラマのように頭が真っ白になるなんてことはなく、「あ、がんなんだ」と悲しむでも受け入れるでもなく、感情にふたをして事実を事実として受け止めただけだった。

胸に違和感を感じながら、放置してしまった数年間


ん?なんか胸に硬いものがある...?

初めてそう感じたのは、まだ20代のころ。右と左、両方に小さなしこりのようなものを見つけた。こわくなってインターネットで調べてみると、「若い女性によく見られる発達した乳腺」「9割が良性のしこり」という言葉が並び、若年層での乳がんの割合は驚くほど低かった。医師が監修した記事を前にわたしは都合のよいほうに信じ切っていた。

それでも、やはり日々触れる自分のからだは気になるもの。人間ドックを受けたタイミングで相談すると、先生は顔色を変えて胸を触診。

「早く専門の病院に行ったほうがいい」

とはっきりと教えてくれた。その後、ようやく乳腺クリニックを予約した。

初めての乳がん検診。次々と検査が追加されていく

そして迎えた予約日。万が一を考えてはいたが、なぜか良性の自信を持っていた私は看護師さんとの問診で一番簡単な検診を選んだ。なにがどんな検査かわかっていなかったが、触診があることだけはわかったから、先生に触ってもらったらなんとかなると思っていた。

そして、マンモグラフィーで撮影、すぐに先生の触診の予定だった。しかし、部屋に入るとすぐさま「もうひとつの検査もやったほうがいいと思いますが、やりますか?」との言葉。超音波でしこりの形を写し出すエコー検査だった。言われるがままにエコー検査と触診。先生が胸をさわるとすぐに顔色が変わった。看護師に「ちょっと記録して」としこりの大きさの数字を伝えている。それでもまだ私はこのしこりは良性だと根拠もなく信じきっていた。

その後、「悪性のものかもしれないので、追加の検査をしましょう」と先生に言われ、詳しい検査をすることになった。同じ日はできないらしく、別日を予約。後日、クリニックに向かうと麻酔をしてボールペンほどの針を胸に刺して細胞をとった。胸に空いた直径1.5mmほどの小さな穴。麻酔をしていたので痛くはなかったが、自分の胸に穴が空いたことに衝撃を受けた。そこから結果が出るまでは2週間弱。この間は待つしかなかったが、まだ自信満々に「自分ががんなわけがない」と思い込んでいた。

良性だと信じきっていたしこりが、悪性だとわかって


そして、迎えた4月21日。付き添いの方と来てくださいといわれていたので親とともに向かった。待合室で直前まで他愛もない話をのんきに喋っていた。そして名前を呼ばれ、問診室へ。結果は椅子に座れるとすぐ先生の口から伝えられた。

「悪性、がんでした」

言われた途端、頭が真っ白に……。とはならず、「あぁ、そうですか」とどこか他人事だった。次々と細胞診の結果を伝えられる。比較的落ち着いて話を聞いていたつもりだったが、先生から「大丈夫ですか?」と声をかけられたことを考えると、呆然として頭の半分は動いていなかったのかもしれない。先生のいう言葉は理解できたが、どこか心ここにあらずの状態だった。

そして、クリニックとつながりのある大学病院を紹介してもらい、初診に行くことに。長い長い闘いの幕開けだった。

photo - TAKAHIRO HOSHI

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