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【読む湯治♨️】虹色の温泉

温泉は名探偵である。日常を生きる中で疲労困憊した身体をひとたび湯船に沈めれば、迷路のように入り組んだ思考に一閃の道筋が見え、実はもっとシンプルに生きていけばよいことに気づかされる。白い濁り湯を身に纏い、硫黄の香りで鼻腔を満たせば、そこはまさにユートピアだったことがわかるーー
いや、たしかに白い濁り湯は素晴らしいと思う。とても温泉っぽい。でも「温泉といえば白く濁っており、それが至高だ」と言い切るには、ちょっともったいないのではないか。
私は1年4か月にわたって日本一周をしたことがある。その過程で326か所の温泉を訪れたが、温泉は実に幅広く、奥深い。その中でも今回は「色」という側面から、温泉を語ってみたいと思う。温泉って想像以上に、カラフルですよ。

①【赤〜橙】黄金崎不老ふ死温泉〈青森県〉

赤い温泉は全国に点在しており、鉄っぽい香りがすることが多い。温泉成分の濃厚さゆえ、「マッチョなお湯」という表現がしっくりくるような気がする。
黄金崎不老ふ死温泉は青森県西部の深浦町にあり、露天風呂が海のすぐそばにあることでも有名である。夕暮れ時には、潮と鉄の香りに包まれながら海に沈む夕日を眺めることもできる。

類似した色の温泉
・苗場温泉〈新潟県湯沢町〉
・花山温泉〈和歌山県和歌山市〉
・筋湯温泉〈大分県九重町〉
・温泉津(ゆのつ)温泉〈島根県大田市〉
・十勝岳温泉〈北海道上富良野町〉

黄金崎不老ふ死温泉

②【黄】末吉温泉〈東京都〉

黄色い温泉は珍しい分、遭遇した際の衝撃は大きい。何に由来する色なのかはわからないが、個性的な香りがすることも多い。
末吉温泉は八丈島南東部にあり、お湯に近づいて見るとくすんだレモン色をしている。酸味と鉄が混じったような香りが特徴的。この温泉は「みはらしの湯」という別名の通り、青い海と断崖絶壁を眺められる絶景スポットでもある。

類似した色の温泉
・象潟(きさかた)温泉〈秋田県にかほ市〉
・指宿(いぶすき)温泉〈鹿児島県指宿市〉
・あおき温泉〈福岡県久留米市〉

末吉温泉

③【緑】月岡温泉〈新潟県〉

緑色の温泉には、白い濁り湯と混じったような緑白色、湯の華たっぷりの抹茶色、透き通った翡翠色など、さまざまな種類がある。
月岡温泉は新潟県北部の新発田市(しばたし)にあり、エメラルドグリーンのお湯は見た目だけでもインパクトが強い。肌触りがとてもつるつるとろとろのため、美人の湯という異名を持っている。

類似した色の温泉
・須川高原温泉〈岩手県一関市〉
・国見温泉〈岩手県雫石町〉
・韮崎旭温泉〈山梨県韮崎市〉
・塚原温泉〈大分県由布市〉
・熊の湯温泉〈長野県山ノ内町〉

月岡温泉

④【青】観海寺温泉〈大分県〉

青い温泉はとても神秘的で、心身ともに癒してくれる。硫黄の香りがすることが多く、とても印象的である。
観海寺温泉は大分県別府市内にあり、時間が経つほどターコイズブルーが濃くなっていく不思議な温泉である。名前の通り海の観える露天風呂があり、晴れた日には温泉・海・空と青に囲まれる絶景の温泉である。

類似した色の温泉
・蔵王温泉〈山形県山形市〉
・奈良田温泉〈山梨県早川町〉
・湯泉地(とうせんじ)温泉〈奈良県十津川村〉
・長門湯本温泉〈山口県長門市〉
・燕温泉〈新潟県妙高市〉

観海寺温泉

⑤【藍〜紫】湯の峰温泉〈和歌山県〉

藍色の温泉はなかなか出会えない。その藍色には温泉成分の濃厚さと気品が詰まっており、出会ったときの感動はひとしおである。
湯の峰温泉は和歌山県南部の田辺市にあり、熊野古道の経路上に位置する。中でも「つぼ湯」は熊野参詣に先んじて身を清める湯垢離場(ゆごりば)であり、なんとも珍しい「浸かれる」世界遺産となっている。

類似した色の温泉
・妙見温泉〈鹿児島県霧島市〉
・柴石(しばせき)温泉〈大分県別府市〉
・荒城温泉〈岐阜県高山市〉

湯の峰温泉

⑥【黒】十勝川温泉〈北海道〉

黒い温泉は、植物性の有機物を豊富に含む「モール泉」であることが多く、芳醇な香りが特徴的である。このモール泉は北海道東部や青森県に集中している。
十勝川温泉は北海道・帯広市の隣にある音更町(おとふけちょう)にあり、コーヒーのように真っ黒なお湯が湛えられている。しっとりとろとろの肌触りも心地よく、一度浸かればファンになること請け合いの温泉である。

類似した色の温泉
・東北温泉〈青森県東北町〉
・蒲田温泉〈東京都大田区〉
・養老渓谷温泉〈千葉県大多喜町〉

十勝川温泉

⑦【灰】泥湯温泉〈大分県〉

灰色の温泉にも様々な種類があり、鉄分の混じった灰白色の温泉や石油の混じった灰色の温泉、そしていわゆる泥湯がある。
泥湯温泉は大分県別府市内にあり、「紺屋地獄」と呼ばれていたこともある。かの有名な別府の地獄には入れないが、ここなら泥がたっぷりの地獄に入るという貴重な体験を味わえる。

類似した色の温泉
・後生掛(ごしょうがけ)温泉〈秋田県鹿角市〉
・泥湯温泉〈秋田県湯沢市〉
・鹿沢温泉〈群馬県嬬恋村(つまごいむら)〉
・古里温泉〈鹿児島県鹿児島市〉
・豊富温泉〈北海道豊富町〉

鬼石坊主地獄

⑧【白】みくりが池温泉〈富山県〉

白い温泉は一般的な「温泉」像に近く、硫黄の香りがすることが多い。美しい濁り湯は何度入っても興奮するし癒される。
みくりが池温泉は富山県南東部の立山町にあり、立山黒部アルペンルート上に位置する日本最高地点の温泉である。4月下旬に訪れれば、乳白色のお湯とたっぷりの硫黄に包まれながら、真っ白な残雪に覆われた立山連峰を一望することができる。

類似した色の温泉
・高湯温泉〈福島県福島市〉
・那須湯本温泉〈栃木県那須町〉
・雲仙温泉〈長崎県雲仙市〉
・白骨温泉〈長野県松本市〉
・大雪高原温泉〈北海道上川町〉

みくりが池温泉

こうして見てみると、地中から湧き出す自然の賜物が色鮮やかだというのは、とても美しい現象である。赤や緑といったビビッドな色、青や藍といった神秘的な色もあれば、白だけでなく黒もある。いったい地球の奥底には、どんな摩訶不思議が詰まっているのだろう。それを究明するためには、まず温泉に足を運んで、その色を自分の目で確かめてみなければーー
そう思ったあなた自身、気づけば地球の謎に迫る名探偵になっているのかもしれない。

※温泉の写真は全て筆者撮影
※温泉の色は日によって異なる場合があります

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