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面接(短編小説31)
千夏が席に座ると、面接官たちは書類から目をあげて千夏を見た。
よく晴れた日の午後。無機質な面接室の窓から流れる風がカーテンを爽やかに揺らす。
「えー、それでは面接を始めたいと思います。横田千夏さん、ですね。横田さんはなぜ、当校に入学しようと思われたのか、教えていただいてもいいですか?」
千夏は今、音楽スクールの入学面接を受けている。「なぜ」と問われているけれど、千夏にとって頭でわかる範囲の理由なんて、たいしたことではなかった。
「面白そうだと思ったからです」
面接官たちが続きどうぞ、と促すかのように千夏を見るが、千夏は、以上です、という顔で面接官たちを見つめる。
「えー、それでは、当校に入学できたら、どんなふうに学校生活を贈りたいですか?将来の夢などはありますか?」
千夏は、その問いを聞いて、思う。つくづく自分はこういう面接に向いていない、と。理由や将来への希望などに千夏は興味がないからだ。
「音楽のことを学んで、楽しめたらいいな、と思っています」
あ。どうでもいい回答をしてしまった。
しかし面接官たちは、なるほど、とでもいうかのようにうなづいている。今の回答で何がわかったのだろうか、千夏の方が教えて欲しいくらいだった。
明日になったらもう、気分だって考え方だって変わってるのかもしれないのに、こんなやりとりをして何になるのだろう?と思いながら面接を終える。
「将来どうしたい?」そんな問いを持つからこそ余計な苦しみが生まれるのだから、千夏はただ、音と触れ合って感じることを表現するために音楽を学べればそれでよかった。
大人たちはいつも「そんなんじゃダメ。もっとしっかり考えなさい」という。
だけど千夏はもし、それでダメなんだったら、今を生きることさえ、叶わなくなって、そうしたらどんどん病気になって、将来どころではなくなる、と感じていた。
ただ、風になったり、空になったり、山になったりする日々の延長線上に、音楽がある、それだけのことに、なぜ、「理由」などいるのだろうか。
「生きるってもっと簡単じゃないのかねえ」
千夏は空を見上げて、背伸びをした。
おしまい
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