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地図と拳 小川哲 感想

普通なら上下刊にしておかしくないくらいのその厚みにたじろいだが、本を開いたら夢中になって読んだ。読了した今、どのくらいの時間この本と一緒に過ごしたのかという重みもまた、読書の喜びであることを改めて思った。

群像劇というにはスケールが大きく、叙事詩というには個人的な物語である本作の表現形態を、ジャーナル系と名づけてみたい。登場人物たちの、とある季節の出来事を日記=ダイアリーのように綴ったその物語がひとつひとつ綴じられていく構成を俯瞰して眺めてみると、歴史という大海原を漂う人間たちの航海日誌=ジャーナルになっている。

本書のタイトルを決める上で、当初は「建築と戦争」であったものが、それでは新書みたいだからということで『地図と拳』にしたという。建築と戦争、つまり創造と破壊が物語を貫くテーマであるなら、理想郷を目指した都市開発が戦争によって翻弄され灰塵と化した、という物語と、そもそも都市開発というものが、その土地に連綿と続く人間の営みを(どう頑張ったとしても)破壊せざるを得ないという葛藤の、その両面が描かれていると思った。

とはいえ、この小説は何かしらの価値観を提示するというより、そこから遠ざかる方向で書かれたように思う。端正でクールな小説だ。

著者、小川哲さんのレギュラーラジオ番組が始まりました。TOKYO FM 日曜早朝5:30-5:55です。


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