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5時過ぎランチ 羽田圭介 感想

食べるために働き、働いていると食べる時間がない。そうした制限された状況で、何のために働くのかという問いではなく、働くことが答えであるという自発的な意識が、ハードボイルド風の文体で描かれていて面白い。ユーモラスな描写がないのに、ユーモアを感じる。でもタイトルで損をしてないかなぁ。

主人公の専門分野に関する蘊蓄には多弁だが、キャラクターの背景説明をあえて欠落させていて、それへの渇望を感じながら読んだ。その飢餓感が主人公の空腹感と重なり奇妙な共感を呼ぶ。

中編3作のうち、最初の『グリーンゾーン』のすっきりした筋立てが好みだ。自動車整備工の若い女性、萌衣の精神的な自立がテーマである。終盤の、象徴的な「父親殺し」で、相手の台詞「自分のものは絶対に手放さないと思わないと駄目だ」とか、ブレーキオイルで「手を汚す」のダブルミーニングなど、渋くていい。

他の2篇は、お題だけが共通していてテーマは異なると感じた。殺し屋はむしろ小麦アレルギーがユニークだし、写真週刊誌の話は政治スリラーへと途中で路線変更した感がある。ならば長編で読んでみたいと思わせた。

羽田圭介氏は、芥川賞受賞作『スクラップ・アンド・ビルド』を読んで面白かった記憶があるので、全著作読破チャレンジをしようと思っている。先入観を持ちたくないので、当人の人物像に触れないようにして、作品だけを読んでいきたい。

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