ナアジマヒカルさん作「おーい!落語の神様ッ」を、もっと楽しむ!/#創作大賞感想
「落語」への愛にあふれた創作が、おぎゃあと産声を上げました。
創作大賞にどどん、と参戦、ナアジマヒカルさん作の「おーい!落語の神様ッ」です。
落語家、と聞いて大半の方が思い浮かべるのは、江戸(東京)落語でいうところの「真打」のことでしょう。
作中でも説明がありますが江戸落語では「見習い」「前座」「二ツ目」「真打」と修行工程が区切られていて、「真打」はいわば免許皆伝。
多くの先輩師匠たちに認められ、『ここから先は自分の才覚で好きにやっていいよ』という立場となるわけです。
「おーい!落語の神様ッ」の主人公・咲太は真打昇進を控えた「二ツ目」。
その咲太が、得体のしれない落語通らしい男と出会うところから物語は大きく展開していきます。
男と出会うことで咲太が目覚めるのが、「貧乏神が見える」という不思議な能力。しかも、落語「死神」の中で死神を追い払うための呪文『アジャラカモクレン・キューライス・テケレッツノパア」で貧乏神を追い払うことができるというからビックリ!
……と、前置きはここまでにして、この作品の魅力を紐解いてみましょう!
推しポイント〈1〉「二ツ目」の悲哀がたっぷり!
主人公・咲太は真打昇進を目前にしながらも、過去の不義理や金銭などにまつわる複数の問題を抱えています。
この咲太をはじめ、出てくる人間がみな体温を持ったリアルなキャラクターであるのはナアジマさんご自身が落語の世界と深いつながりを持っているからなのです。
咲太がトリを務めることとなる寄席興行の番組表をつぶさに見ていくと
「この名前はあの人のモジりかな?」「これはあの方かしらん」と想像しながらも、そんな中でトリをとる責任の重さも感じることができるのように思います。
落語の世界を「二ツ目」目線で体感できるのが、この作品ならではの最大のポイントです。
推しポイント<2>「色物」の魅力
作中では、モギー鳥司という奇術師が存在感のある役どころを果たしています。
寄席演芸の世界は落語家だけでは成立しない部分があります。
人の話を集中して聴き続けるのは、脳に負担がかかります。
そんな時に、奇術や切り紙、大道芸、あるいは楽曲を楽しむ三味線の粋曲などの演芸が入ることで、聴衆は脳をリフレッシュして新鮮な気持ちで、改めて落語を聴くことができるのです。
この物語の中でのモギー鳥司の存在は、まさに「色物」。
訳知り顔の異物感が、オイシイ役柄となっています!
推しポイント<3>「噺」に興味が沸く!
物語が進む中で、咲太が取り組む作品を中心にたくさんの「噺」が引き合いに出されます。
古典落語は、そのプロットが長い年月を経て受け継がれてきた作者不詳(一部を除く)の作品群です。
「噺」自体に著作権はありませんが、『どの流派がどの型で演じるか』ということについては落語の世界の中での禁忌、あるいは慣習というべきものがあります。
ナアジマさんはそのあたりの摩擦を避けるために、細心の注意と工夫を凝らしながら、噺のシーンを描かれているように思います。
そしてその裏には「物語中に出てきた噺に興味が沸いたら、寄席に足を運んでほしい」という落語愛があることは、言うまでもありません。
おまけ
ところで、落語好きの間で「落語の神様」といえば、古今亭志ん生師匠が思い浮かびます。昭和の大名人として愛された志ん生師匠が亡くなったのは1973年。現在50代の私は生で聞いたことのない世代ですが、CDなどの音源でもその独特の口調や間合い、巧みなくすぐりなど『人の心をつかむ天性の才能』の片りんを感じとることができます。
全編を一度読み終えた後に、そんな志ん生師匠の姿を思い浮かべながら読み返すと、さらに深みを感じられること間違いなしです!
最後に!
今作は「お仕事小説」として創作大賞にエントリーされた作品ですが、その裏には「お仕事」を超える、「生き様としての落語家」の姿もつぶさに描かれています。
そしてそれは、私たちの暮らす日常とも地続きの世界。
「寄席」という空間で、体感できる世界です。
そんなわけで皆様、ご縁があればどこかの寄席で同じ空気を味わいましょう(^^)/
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