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あの喫茶店

人生で初めて行った喫茶店が閉店した。

話には聞いていたが、いざ空になった建物を見ると、本当になくなったんだという実感と何でもっと行かなかったんだろうという後悔が押し寄せてきた。

大学1年生の頃、人見知りな性格からなかなか思うように友人が出来ないでいた。珈琲が好きだということで意気投合した友人と喫茶店に行く約束をして、訪れた店がそこだった。

店内では薄暗い照明にお洒落なジャズが流れ、常連と思われる客は店員と雑談を交わしている。横に座っているおじさんはぷかぷかとタバコをふかしながら、新聞を読んでいた。暖房が効いていて店内はほの暖かく、タバコと珈琲の香りに混じってなんだか甘ったるい香りが鼻を掠めた。

すごくドキドキした。大人の空間に足を踏み入れてしまったような、あるいは自分が生まれていない時代へとタイムスリップしたような心地がして、高鳴る胸が痛かった。そのくらい自分がこの雰囲気に不相応なほど幼く感じられたし、この空間だけ他とは時間の流れが違うようにも思えた。

ここではランチセットのカレーライスとカフェオレを注文した。机いっぱいに料理が並んでいるのをみて、有り余るほどの食欲に若さを感じた。「恥ずかしいね」などと言いながら、その時間を楽しんだ。

店を出る頃にはくだらない冗談を言い合えるくらいには打ち解けていた。

大学に入ってすぐ出来た友だちほど進級するにつれて疎遠になりがちだけれど、この時の友人のことはソウルメイトだと思っている。ここまで仲良くなるとはお互いに思っていなかっただろう。

今では喫茶店巡りが趣味だし、ソウルメイトとのつながりを取り結んでくれたあの店には一方的に感謝している。とにかく感謝の気持ちでいっぱいなのだ。

空になった建物には何か別の店が入るのだろうか。数年後にそこを通った時、私は何を思うのか。忘れてしまうはずがないと思いつつ、少しばかり不安にもなった。

やっぱり、寂しい。

まあ、でも、自分もしばらく行けていなかったのだから今更何か言ったところで後の祭りだ。

大好きなひとや場所があって、大好きだと思っていてもそれではきっと足りなくて、想いを伝えることと足を運び続けることが必要なのだと思う。好きの発信はこんな私にも出来ることであり、なおかつそれがどれだけ大切なことか。

後の祭りだ。ただ、今日感じたことや考えたことを学びに変えることはできると思った。

大切だと思うものは、自分自身で守り続けないといけないね。


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