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仮説ごっこ楽しい【読書感想】川上 和人 「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」 新潮社

川上 和人 「鳥類学は、あなたのお役に立てますか?」 新潮社


この人の書くものは、名文調でとても楽しい。
今回もパロディたっぷり。マンガにアニメ、映画などなど。
半分以上、元ネタ知らないものだったよ。それでも楽しませてくれるのがすごい。

絶海の孤島での生態系調査の苦労談を
面白おかしく語る。
何時間も何十時間も飛行機と船に詰め込まれ、荒波を身一つで泳ぎ渡り、絶壁をクリフハンガー。
肉体的過酷さと反比例して、脳内でとにかく面白ネタを展開する。
鳥類学者の頭の中はどうなっているんだ?
いや、違うか。
せめて楽しいことでも考えないと、身体の極限状態に耐えられないのだ。生命がギリギリまで追い詰められた時に発揮するストレス緩和反応。きっとそう。

そんな経験談にも感心するけど。私がもっと気に入っているのは
この作者の展開する、安楽椅子型学術思考。
日常で拾ったしょうもない疑問を、学者らしく推論していく。
これが屁理屈こね回しなのに、いかにも学説っぽい仕上がりでとても面白い。暇なときに皆さんにもぜひやってみて欲しい。お子さんにも勧めていただければ、論を組み立て謎を解明する楽しさに取りつかれて将来学者になる人が増えるかもしれない。そうしたら鳥類学者も増えて、鳥の保護に繋がるかもしれない。さらにそんな学者たちは面白い本をいっぱい書いてくれるだろうから、私は老後も読む本に困らないという寸法だ。イイね!


「なんで自然を守るんですか?」


この問いに、自然の有用性――人間の役に立つ――を挙げて答えるのは簡単だ。

遺伝子工学のためにDNA配列を保全する?
ジャングルの植物から薬効成分が見つかる?
生態系ピラミッドが崩れると、いづれ人間に影響する?

確かにそうかもしれない。
重要な理由ではあるだろう。

でも。
なんか、違う。
建前に聞こえる。ただの理想論に思える。

環境問題だ、SDGsだとニュースに取り上げられるたび、感じていた違和感。
これに、著者なりの回答を記してくれている。

それは、多くの人を納得させるべく作られた机上の正論ではなく。
深い意義を持ち人間の本能から導かれる理論だった。
非常に腹落ちさせられた。

それを踏まえたうえで、私なりの、冒頭の問いへの答えは、こうだ。
「いーじゃん。
いろんな生き物がたくさんいたほうが世の中、楽しいじゃん」

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