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今週の俳句と解説(2021.02.08-02.13)

つくしんぼ あなたは何の人 僕は生きてる人

春は新しい人に出会うことが多い。でも僕は自己紹介が苦手だ。何をしてる方なんですか?って聞かれても、答えに困る。僕が仕事でしてること、趣味、出身。どれも僕の一部ではあるけれど、自分自身を一言で表すのに適した言葉ではない気がする。そもそも一言で自分のことなんて言い表せない。周りと比較して自分の個性をわかりやすく属性化・ラベル化することは、群衆からあなたのことを見つけてもらうのに便利かもしれないけれど、その属性に自分が縛られてしまうような気がするし、そのラベルがなかったり剥がれてしまったりしたらとずっと心配をしていなくちゃいけない。そんなとき僕は心の中で、「僕は生きているをやっている人です」って呟いている。クマのプーさんみたいに。

あの日から アイスクリームと 大寒波

寒い日こそ暖房の効いた室内でアイスを食べたいという人がいるけれど、僕はそんなことはせずにうちでコーヒーでも飲んでのんびりしていたかった。それなのに君はどうしても聞かずに、僕たちはわざわざ大雪の中をコンビニまで歩いてアイスクリームを買いに行った。それからというもの、その冬一番の大寒波がくるたびに、僕はアイスクリームを食べながらあの冬のことを思い出す。

これ聴いてみ 無線じゃなければ 良かったのに

昔からの友達である彼には最近ハマっているバンドがあるらしく、熱っぽくそのバンドの良さについて語っている。その流れで、「これ聴いてみ」と音楽の流れている彼のイヤホンを片方差し出してきた。もちろん彼と音楽を共有できるのはすごく嬉しいんだけれど、彼のイヤホンはコードのないbluetoothタイプ。贅沢かもしれないけど、昔みたいにコードがあればもっと近くに行けたのになあ。

はぐれないで 混んでないとは 知りつつも

彼とデートするようになってからもう数ヶ月が経ったけれど、まだ手もつなげていない。私からつなぐなんて恥ずかしくてできないし、彼はどう考えているんだろう……。そう思いながら待ち合わせ場所から二人で歩き出したとき、彼が「はぐれないで」って手を差し出してくれた。勇気を出してくれた彼の気持ちがとても嬉しかった。はぐれるほどの人混みじゃないって、私も彼も知ってはいたけれど。

母のチョコ いらないなんて 言わなきゃ良かった

バレンタインには毎年母がチョコレートを作ってくれていた。思春期を迎えて"本命"チョコのことが気になりだしてから、母にチョコをもらうことがなんだか恥ずかしいような気がしてきた。今年はチョコいらないよ。と母に伝えたら、本当にいいのお?0個になっちゃうかもよ?と、明るく返しながらもそれ以来チョコのことは触れられなくなり、僕は母とのつながりを一つ失った。

着飾って ドアノブに託す チョコレート

今日こそあの人に気持ちを伝えよう。真心を込めたチョコを作って、精一杯のおしゃれをして、あの人の家の前までやってきた。だけど、面と向かって顔を見ながら渡す勇気が出ない。しばらく玄関の前で悩んだのち、私はこの想いとチョコレートをドアノブに託して、買ったばかりのイヤリングを揺らしながら彼の家を離れた。 

冴え返る 喉元過ぎた アラームよ

立春を過ぎてから日中は暖かくなってきて、ほっとしながら過ごした週末。ベッドに入ってうとうとし始めたとき、スマホから緊急地震速報が流れ出す。何回聞いても心臓に悪いアラームだ。東日本大震災からほぼ10年が過ぎ、あの時の恐怖を忘れつつある。しかしあのアラームが鳴るたびに、喉元を過ぎてぬるくなっていた気持ちが一瞬で凍りつく。


今週は女性目線の句もいくつか作ってみました。自分とは違う人格からものごとを捉え直すといろいろな気づきがあって面白かったです。
あなたの感想を聞かせてくれたら嬉しいです。

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