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【思い出の本】『スタンド・バイ・ミー』:スティーブン・キング

The most important things are the hardest things to say.

小学校4年生の夏休み、小説の冒頭を読み始めた途端に、僕はそれまでにない衝撃を受けた。なぜなら、自分が普段から上手く言葉にできずに、ずっともどかしくしていた心の中の「モヤモヤ」が、他人によって言い当てられる初めての経験だったからだ。

同じような経験をされた方なら誰でもお分かりだと思うが、僕にとってそれは鮮烈な驚きであり、少しばかり恐くもあり、それでいて「分かってくれる人がいたのだ」という安堵であり喜びでもあった。

しかも、そこでキングが書いていたことは「大事なことは言葉にするや否や損なわれる」という言葉だったのだからなおさらである。つまり「言葉が盗み取ってしまうもの」の正体を、まさに当の言葉によって与えられてしまったのだ。

では、いったいなぜ人は、胸に秘められた大事なものを何とか言葉にして他人に伝えようとしてしまうのか?たとえば、この小説で語られる青春時代の友人との(他人には取るに足りなくても、当人にとっては貴重な)思い出のように。

ほんとうのことが失われ、完全には伝わらない、にもかかわらず、いやだからこそ人は言葉にせずにはいられないのかもしれない、と僕が考えるようになったのはそれから随分経ってからのことである。


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