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【書評】『語るに足る、ささやかな人生~アメリカの小さな町で』:駒沢 敏器

或る物語への熱中を測る尺度が、読書中の「没頭感」にあるとすれば、著者への共感や敬意を表す尺度は、本を閉じた後も、引き続き「著者の視線(語り口)」で自分の日常生活や風景を見てしまうことにあるのではないだろうか。

著者は「地図記号」に溢れるような都市ではなく、メジャーマップからは消し去られたような「名も無き町」だけを渡り継ぐことを己に課して、広大なアメリカ合衆国を横断する。

これまでも、そしてこれからも決して多くは語られることのないであろう小さな町。しかし、それぞれの町で著者が触れ合う人々が垣間見せる等身大の生活やそこで語られる人生は、どんな地図記号よりも雄弁で確かだ(まさに『ささやかながら語るに足る』)。

旅人の立場から、町や人々とは一定の距離を保ちつつも、止むにやまれぬ好奇心をもって「自分自身で確かにつかむことができる真相」を求める著者。

ありのままの現実をありのまま受け止めようとする著者の真摯な態度と視線、そして何より小説家でもあるその語り口は、読後もきっと読者に感染するはずだ。


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