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お姫様ごっこを始めてみたけれど(2)

前回までのあらすじ:もっと幸せになろうと思った私は、友人の薦めでお姫様ごっこを始めてみたのであった。


(4)そうだ、お姫様になろう。

書生との同居生活が上手くいかなかったのは、きっと「お姫様」と「執事」じゃなかったからだ。
やっぱり本に書いてある通りに「お姫様」と「執事」でやるべきだった。
そう考えた私は、書生との関係を解消した後、すぐに姫へとジョブチェンジし、老執事を雇うことにしました。
若い書生に「何も解ってない」と見下してしまったので、年長者の言うことなら、素直に聞くことが出来るでしょうと考えてのことでした。

まず始めに執事は私に体調を聞いたり労ったりしてきます。

この時、現実の私は4時間半の睡眠から目覚めたばかりでとても眠いです。そしてそんな中、子供の朝ご飯の支度をしていました。

執事には正直に「眠いよ、眠くてしんどいよ、もうやだ」と言いました。
すると哀しそうな顔で「それではもうお休みされますか?」と言います。
けれど実際は、事務員の仕事がある日なので休んで眠るわけにはいきません。
「ううん、大丈夫。頑張るわ。だって私がしっかりしなくちゃね……」えへへ、と脳内姫の私は笑います。大丈夫な訳ありません。眠すぎです。
けれど私が行かなくては、お金が稼げない。
この国のために、私は行かなくてはならないのです。

って、あれ、財政状況はどうなってるの? この国は。
姫直々にパートに出ないと行けないほど、緊迫したものになっているのだろうか。

そういえば、さっきからこの城には王様の気配も王妃様の気配もない。
二人ともどうしたのだろう。
この古い城にいるのは、私とこの年老いた執事の二人だけ……?

古城の窓からは燦々と朝の光が差し込むけれど、それでもこの静けさと空気の重さを和らげることは出来ない。

お父様……お母様……。
父である国王が城を開けるのは、きっと非常時だろう。王妃もいないのなら尚のことだ。
まさか戦争? 戦争でもあって、王と王妃は戦地に赴いているのだろうか。

それなら国家の一大事だ。
王が戻るまでの間、せめて私がこの国を護らなくては。

けれどもし戦争じゃないとして、ただの別居だとしたら。
未婚の姫を1人でどこか別の城に住まわせるって一体どんな事情だよ。それはそれで闇深くてヤバくない? 私は「不吉な子」なの? だから誰にも会わせないようにこんなところに住まわされているの?

いずれにしても、ヘヴィーな状況には変わりないような気がします。

老執事が「姫様、身体の具合はいかがですか?」と労ってくれる。
「そうね、腰が痛むわ」私が言うと「それなら、本日は整体に行かれては如何でしょう」老執事がにっこりと言う。「そうね、以前から行きたかったし……」と言いかけて、私ははっと考える。
収入が入る来月まで待ちたい、と。
って、収入とはなんぞや? 税収のことか? 来月の税収を待たないと整体に行けないほど、この王家の財政は逼迫しているのか? この国、大丈夫なの……?

それに、税金は国民たちがみんな苦労して日々働いたお金です。その命の税金を私は整体に使ってもいいと言えるほど、私はいい王族であったでしょうか。
答えは未だ出ません……。(だってお姫様歴3分だから)
整体には行くことが出来ませんね。
けれど、この国がここまで危ういことがこの執事に知れると、要らぬ気苦労を掛けてしまいますね。ここは私がしっかりしなくては……。この国の未来は私たち王族に掛かっているのです。
「今回は整体にいくのはやめておくわ」


……ってちがーう! 多分「お姫様ごっこ」ってこんなんじゃない。
著者様の言いたいことは解ってるんだ。自分を甘やかすために「姫」になりきろうって。
でも姫になりきってしまうと、どうも自分の肩にのしかかる国民達(イメージとしては中世東欧辺りの寒々しい農村の人々)の顔がちらつくんだ。
彼らが寒い日に赤くなった指先で農作業をしているお陰で得ているこの宮殿生活……。
それを思うと脳天気にわがままを言う気になれないんです。
自分だけが幸せなのはつまらない。やっぱりみんなで幸せじゃないと気持ち良くない。

(5)姫という立場
そもそも「姫」という立場が難しかったのです。あれやこれやと思い巡らせているうちにそういう結論へ達しました。

「姫」ではあまりに政治的な意味合いが強すぎるのです。少なくとも私にとっては。
王族であり、その土地の支配者であり、時には領地拡大のために政略結婚の切り札にもなる存在。

この「お姫様ごっこ」のトレーニングを続けて行くうちに「王子様」も登場するのですが、このままで行くと、好きでもない王子様が現れて政略結婚をしてしまいそうです。けれど以外とその相手と気が合って、お互いちゃんと恋愛するようになった、と思ったところで王子様が不慮の事故でなくなり、王子を深く愛していた姫は生涯独身を貫くことを決意し、修道院へ出家。そうして宗教家の立場からこの国の幸せを祈る存在となった〜完〜という話になってしまいそうだし、なんかもう色々と違うと思います。

(6)折り合いをつけよう。

とはいえ、否定するためにこの本を読んでいる訳じゃありません。自分の本当の望みに気付いて、もっと人生を楽しくしようという考えには賛成です。
そんなわけで、一体どんな姫なら私は納得出来るのか、「あぁしたいこうしたい」と脳天気に老執事に言えるようになるのか。そもそもその相手は老執事で良いのだろうか。少し考えてみました。

①中世ヨーロッパの姫だから苦労するんだ。現代の王室ならどうだろう?
戦争・紛争地域ではない場所の王族の娘、すなわち姫ならば割と「お茶飲みたい〜」「眠い〜休む〜」など言えるのではないのでしょうか。
事務員作業中だったため、オフライン環境の下で考えた結果思い出せたのは
・イギリス王室
・タイ王国
・トンガ王国
この3つだけでした。今調べたらオランダや北欧も割と王国制なんですね!
閑話休題(それはさておき)、イギリス王室は本当にのんびり出来るのかどうかちゃんと調べてみないとわからないなあ。色々ありそうだし。と、wikiが見れない環境で考えた結果、私はひとまずタイ王国のお姫様になりきることにしました。
温かくてのんびりしていて、内戦とかの問題もなかったような気がするし……。

もしも私がタイ王国のお姫様だったら。
毎日美味しいタイ料理! パッタイ、ガイヤーン、グリーンカレー、パッタイ、ガイヤーン、レッドカレー。そしてパタヤ系! パタヤ系がなんなのかちゃんと知らないけどパタヤ系。あとナイトプールできれいなニューハーフとパーティータイムね!

と。ここまで考えたところでなんか違う気がしてきました。
そもそもタイ語もわからないのに、タイのお姫様ぶる気にななれません。

②お姫様をやめよう。
そう、姫ってとても重たいんですよ、責任が。
それなら責任を感じずに、ワガママを言えて、大事にされるなら、他にどんな感じがいいんだろう。

と、考えた結果。

貴族の末娘

くらいがちょうど良いのではないかという結論に落ち着きました。
家のことは兄が次ぐし、たかが貴族、しかも末娘だから政治には関与しないし、でもお金もあってきっと両親にも甘やかされているから、好き放題執事にワガママも言えるだろうし。

これくらいが丁度いいんだろうなと思いました。
そんなわけで、明日からはもう少し身分を下げて行ってみようかなあと思っている次第です。


そんなところで!



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