【カミヤミスジクラマエ インタビューvol.2】deps.小島めぐみさん
蔵前のなかでも、ちょっとディープな「三筋」エリア。2022年の9月、この地に新しい文化の発信地となる「カミヤミスジクラマエ」が誕生しました。ここで入居されているのは一体どんなお店・人なのか。このインタビュー企画にて、各階の入居者の方にこの場所を選んだ理由、ご活動の経緯などをお聞きします。第二回は、2階でうつわのお店を営業されているdeps.の小島めぐみさん。読んだらきっと、三筋が「ちょっと気になる」から、「行ってみたくなる」まちになるはずです。今回はカミヤミスジクラマエ担当のスタッフ・日比野と一緒にお話を伺いました。
蔵前は、新旧の個性豊かなお店が集う、ふしぎな魅力のあるまち
――deps.さんは、移転される前も蔵前にお店を出されていましたよね。もともとこのエリアにお店を出そうと思われていたんですか?
小島さん:そうですね。当初は谷根千エリア、蔵前、清澄白河の3箇所で検討していました。ただ谷根千は観光客で賑わっているので、ちょっとイメージからはずれてしまうかな、と。清澄白河は街としてすごくいいなと思ったのですが、なかなか物件が出てこなくて。蔵前はもともとものづくりのまちですし、老舗の天ぷら屋さんの側に新しくできたおしゃれな個人店があったりして、独特な雰囲気にすごく惹かれました。ですので、ほかの街を検討しながらも、第一希望は蔵前でしたね。
――蔵前は下町の雰囲気もありながら、新しいお店もどんどん増えてきていますよね。物件もいろいろ見られたはずですが、カミヤミスジクラマエのどんなところがいいなと思ってくださったのでしょうか。
小島さん:まず建物全体と中がすごく気に入って。古い建物ならではの重みが感じられたんですよね。内見したときは、壁際にはピンクのもこもこ(断熱材)で覆われていて、異様な雰囲気だったんです(笑)。
日比野:ここはもともと、食肉加工品メーカーの倉庫だったんですよね。
小島さん:壁に「豚」とか「ハム」とか書いてありましたもんね(笑)。雰囲気あるなあ、手入れたらすごく良くなるだろうなあ、というのが直感でありました。
――以前は国際通りの近くで、お客さんもふらっと入ってきやすい場所だったと思うのですが、あえて蔵前の中でも三筋エリアに移転されたのは、何か理由があったのでしょうか。
小島さん:集客という意味で、以前の立地はたしかに良かったです。from afarさんとか、菓子屋シノノメさんが近くにあったので、お散歩コースになっていたみたいでした。ただdeps.で扱っている作家もののうつわは、ふらっと来てふらっと買うというよりは、目的を持って来てくれるお客さまにゆっくり見ていただける場所の方が、むしろ相性が良いのではないかと考えるようになったんですよね。三筋エリアは個性豊かな強いコンテンツを持っている魅力的なお店も点在しているので、わたしはそこがすごく魅力的だな、と。だから、もう即決でしたよね(笑)。
日比野:そうでしたね、他の不動産屋さん経由でご連絡いただいたんですが、「すぐ見たいとおっしゃっています」とお伺いしていました(笑)。
料理好きな母が選ぶうつわに触れていた幼少時代と、大人になってからの「やちむん」との出会い
――小島さんがうつわに興味を持つようになったのはどういうきっかけでしょうか?
小島さん:わたしの母がすごく料理好きで、作家ものではなかったと思うのですが、うつわも気に入ったものを集めていました。その母の姿を見て育ったから、子どもの頃から「これはわたしのうつわ」とか「このコップで飲みたい」とか、意志を持って選んでいて。学生時代には、国内や海外に旅行へ行くとその産地の器を自分へのお土産で購入していました。
――そこから作家さんのうつわの存在はどのように知ったのでしょうか。
小島さん:沖縄に旅行へ行ったときに、「やちむん」を見たときですね。「やちむん」って沖縄の言葉で焼き物のことなんですけど。「個人で名前を出してうつわを作っている人がいるんだ」と知ったのは、そのときが初めてで、それ以来、作家もののうつわにぐーっとのめり込むようになりました。
広告代理店から、あえて路面のうつわ屋を始めた理由
――そこから自分でセレクトされたオンラインストアを立ち上げられたんですよね。
小島さん:そうです。当時は広告代理店で働きながら自分のオンラインをやっていたので、まさかこんなふうになるなんてまったく想像していなかったんですけどね(笑)。結婚を機に、自分の好きなことを仕事にしたいな、と考えるようになって。広告代理店ではWebの担当をしていたので、Webでこういうのを販売してみたらどうだろう、とやってみたのが最初でした。
――なるほど。お店を持とう、と思ったのはどんな心境の変化があったのでしょうか。
小島さん:オンラインはワンクリックで買えるところが魅力的な側面でもありますが、売り手の自分としては、物を販売しているのに「虚業」というか、空想の中でやりとりが行われているような感覚に違和感を抱いていたんです。そこで、せっかく物を売るんだったら場が必要だな、と。オンラインできれいな写真や書いた文章を載せても、それが相手にどう伝わってどう買ってくださっているのかって、全然わからないじゃないですか。
――うんうん、ほんとうにそうだと思います。
小島さん:扱っている商品も、工業製品ではなく、作家さんの作られる作品だからこそ、作家さんの想いなどもしっかり伝えられる場所が欲しいなと感じていました。あと、これはわたしのエゴかもしれませんが、「あの空間にこうやって置いてあったうつわだ」とか、空間も含めてちょっとでも記憶に残っていてほしいですね。店主さんとああいう話したな、とか、些細なことでも覚えていただけたら、きっとうつわに対する愛着が深まると思うので。
細長い間取りだからこそ思い浮かんだ「茶室」をつくるアイデア
――今回カミヤミスジクラマエに移転されて、一番大きな変化は茶室ができたことですよね。
小島さん:そうですね。ここの間取りが面白くて、入口が真ん中にあり、左右に空間がある構図なんですよ。だから、うつわを並べる側とは違うテンションのものをつくれそうだなって。そこからアイデアの着想まですごく時間がかかりましたが、私自身が茶道を習い始めたことで、お茶の道具なども提案していきたいという気持ちがあったことから、ここに茶室をつくろう、と思い立ちました。
――今日何も知らずにお邪魔したので、入ってぱっと右を見たときに茶室があって、びっくりしました(笑)。この新しい空間で、これからやってみたいことはありますか?
小島さん:お茶に関連することはもちろんなんですが、茶室を使っていろんなコラボをしていきたいですね。すでに10月には料理家の盛り付けレクチャー兼盛り付け会のイベント、11月は中国茶の先生に、ここでお茶入れしてもらうお茶会を開催することが決まっています。あとはdeps.のうつわを使ってくださっている料理家さんの、出版記念パーティーイベントとか。手が回らなくてやりきれないのですが、やりたいことはいっぱいあります(笑)。
――スペースが広くなったことで、よりたくさんのうつわを見られるようにもなりますね。
小島さん:はい、ただたくさん作品を並べる、というよりは、余白をしっかりとって、うつわそのものが綺麗に見えるように展示したいなと思っています。前の店舗ではできるだけ自分の家に近い感覚で見てもらいたいな、と思い、家具を結構たくさん置いていたのですが、移転後はあえてシンプルな空間作りにしました。また、移転前より窓が大きくなり、外からの光が入りやすくなったので、自然光に照らされた作品がどのように見えるのか、とてもたのしみですね。
――最後に、これからのカミヤミスジクラマエに対して期待していることはありますか?
小島さん:この辺りは、地元の方に愛されているお店がすごく多いんです。すぐそこに天ぷら屋さんだったり、目の前の三筋湯だったり。deps.には、まだそこまでの歴史はないけれど、昔からものづくりの文化が根付いているこの土地で営業させてもらうから、そういう歴史あるお店の仲間入りができたらいいなと思っています。あと、やっぱり地元の方にも来てもらえたら嬉しいですね。
取材・文=ひらいめぐみ 撮影=奈良岳
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?