街に必要なのは、ゆるやかに創造性とつながる場−ときわ平まちのひとインタビュー vol.2 星雅治さん(かものはしの造形おもちゃ代表)
常盤平のまちに暮らし、働く人にお話を伺い、この街の未来の兆しを探るインタビューシリーズ、「ときわ平まちのひとインタビュー」。
2回目となる今回ご登場いただくのは、特殊造形を手掛ける「かものはし」さんこと、星雅治さんです。
少し耳慣れないかもしれない、特殊造形という言葉。一般的に、様々な素材を使って立体物を作る技術のことを指します。その技術を使って、星さんはマスクや造形物などを制作しています。
星さんのアトリエには、特殊造形によって作られた作品や、制作に使う様々な工具や塗料が並びます。
どれもまるで本物のようだけれど、どこか現実ではないような、不思議な雰囲気を称えているものばかり。
6年に渡って常盤平にアトリエを構え、制作活動を続けている星さんに、制作やこの街の魅力についてお伺いしました。
今回は、同じく創作活動を行うomusubi不動産の岩澤も参加。創作活動を行う2人だからこその話も飛び交いました。
見たことがない生き物と出会いたい
−色々な動物たちに囲まれていますね。
星:この中だと、オオカミが一番人気ですね。僕の場合、基本的にはお客様からのオーダーで作るものが多くて。最近は動画撮影やインタビューを受ける時に素顔を出さずに活動したい方からのご依頼も増えましたね。
− 時代を感じますね。他にはどんな理由でオーダーされる方がいらっしゃいますか?
星:普段は飾っておいてイベントの時につける、というような方が多いです。本気で動物になりたいというような思いを持つ方もいらっしゃって、普段お勤めしていてボーナスを使って買いましたという方とか、本気でこういったマスクが欲しいっていう方が購入してくださっている印象があります。
−星さんご自身は、どういうきっかけで特殊造形の世界に入られたんでしょうか。最初からものづくりの仕事をしようと?
星:いや、実は元々全く思っていなかったんです。学生の頃はこういった職業があることも知らなかったので、高校の時に学んだ韓国語をマスターしたいと思って大学は韓国に留学しました。卒業後、日本で就職しようと思って帰国して、小さい貿易会社に就職したのですが自分には合わなくて。だったらやりたいことをやろうと思って転職先を探していたら、着ぐるみを作るアルバイトを見つけたんです。これだ!と思って応募して、採用してもらって。そこからですね。
−ものづくり自体は好きだったんですか?
星:好きだったけど、学校の美術や図工の時間にやるくらいでした。
−プラモデルとかを小さい頃から作られたりとかも?
星:うーん・・あまりなかったですね。
−そこから着ぐるみをつくるお仕事とは、一気に難易度が上がった感じがしますね。(笑)
星:逆に好きだからこそ、仕事としてやらないと意味がないかなって思って。趣味だったら別にやらなくてもいいかなって思ってました。
僕の根本には、「見たことがない生き物と出会いたい」という思いがあるんです。図鑑で新種の生き物をみた時とかって、すごくワクワクする。でも新種ってそんなに簡単に見つからないですし・・。
でも着ぐるみの会社の募集を見つけた時に、「この技術を身に付けたら何かできるかもしれない。自分のワクワクを叶えられるかも」って思ったんです。
−星さんは、見たことがない生き物を「つくりたい」というより「いてほしい」んですね。
星:そう、だから少し極端な話をすると、手をかざしたら生き物が生まれるんだったらそれでもいいんですよ。(笑)(笑)
星:以前、静岡の掛川で「原泉アートデイズ!(*1)」というアート・イベントに参加した時に、神社の中に狛犬のような作品を展示しました。石みたいなんですけど、実は発泡スチロールで作っていて。
−全く違和感がないですね。この神社にはちょっと変わった狛犬がいるんですねって思ってしまいそう。
星:実際にそう思う方も多かったみたいで、何も表記がないと素通りする人もいたみたいです。(笑)制作全般において、その場所にいて違和感がない、みたいな感覚は大事にしていますね。
あとは、例えばこのクワガタの赤ちゃんとか。
−わ、かわいい!
星:そもそもクワガタの赤ちゃんっていないんですよね、幼虫なので。でも成虫のフォルムのまま赤ちゃんになったらこんな感じかなと思って作りました。スポンジみたいな素材で形を作って、その上にフェイクレザーを貼っています。
omusubi不動産 岩澤(以下岩澤):星さんのつくるものって、顔や体のバランスに違和感がないですよね。でもちゃんと主張がある。観察眼がすごいんだろうなと感じます。
星:それは多分、自分の活動のルーツが”生き物”なのが大きいと思いますね。他の同業者の人は映画が好きな方も多いんですが、僕はあくまでも生き物として見えることを大事にしたい。そういうところからきているのかもしれないですね。
求めているのは、気負わない、ゆるやかに繋がる場
−そもそも星さんは、どんなきっかけで常盤平に来られたんでしょうか?
星:数年特殊造形の会社で働いた後に独立して、そのタイミングで物件を探していたんですね。
最初は工場みたいな本格的なところを見ていたんですが、そういう物件は家賃も高いし、初期費用もかかってしまう。その中で見つけた今のアトリエの賃料に驚いて。サイズ的にも良さそうだったので、とにかく見るかって内見したんです。案内してもらっているときに、「この周りには他にもクリエイターさんがいるんですよ」っていう話を聞いて、それも決め手の1つになりました。その時一緒に物件を探していたメンバーの中で、「造形業界から抜け出そう」っていう共通の認識があったんです。
−「造形の業界から抜け出そう」とは?
星:テレビやイベントだったりと企業からの依頼で制作することが多いので、普段の生活で造形の技術を意識する機会ってあまりないと思うんです。でも、この技術を使ったら、色々な面白いものを作ることができる。業界の中では当たり前のことでも一歩外に出ると全然知られてないことも多いですし、もっと造形が身近なものになれば良いなと思っていて。
他のクリエイターと繋がることで新しい風を取り入れられそうだなと思って、当時は「脱造形(業界)」を掲げていましたね。
−実際に常盤平で仕事を始めたり、暮らし始めてみてどうでしたか?
星:住みやすいですね。近くのスーパーの西友も24時間やっていて、100均もあって、ホームセンターも近くて便利ですし。あとは静かなところかな。
−静かなところ。
星:なんというか、すごくまち全体に平和な、のどかな空気があるんですよね。いい意味で何にも起きなさそうというか。
このアトリエも駅に近いから電車の音はしますけど、でも全体的に静か。他の新京成線の駅前とも違いますよね。安心できる街だなって思います。住むところとしてはすごくいいなって。
−確かに、すごく穏やかな雰囲気がありますよね。
星:一方で、”外に出る”難しさみたいなものを感じることもありますね。自分の仕事柄、1つのものを完成させるのにも時間がかかるので籠ってしまいがちだし、生活も仕事も自分の周辺で完結できるから、あまり外に出る機会がなくて。街や周りとの関わりをつくるためには、もう一歩、何かきっかけみたいなものがあったらいいなという気持ちはあります。
−アトリエの外に出ていくということ自体に興味はある?
星:そうですね、やりたい思いはあるんですけど、なかなか動けなくて・・。あとは、元々出来上がっているコミュニティに入っていくのって、やっぱり勇気が入りますよね。omusubiさんが運営されている他のシェアアトリエにお邪魔したりすることもあるんですが、それぞれのコミュニティが既にあるから、入っていくのが難しくて。
岩澤:どこかのコミュニティにどっぷりというよりは、例えばカフェみたいな、お茶したりご飯を食べに行ったらそこでたまたま会う、くらいの人との繋がりがあるといいですよね。お互いに無理のない形で関わることができる。今はなかなかそういう場所がない気がします。
星:確かに。毎日絶対に使うけど、でも気負わないで行けるようなところがあったらいいのかもしれない。例えば、「アーティストにとっての西友」的な。(笑)
−「アーティストの西友」!
星:西友は自分もよく行きますし、知り合いにそこでばったり会うことも多いですけど、みんな誰かに会おうと思って行くわけではないですよね。買い物に行ったらたまたま出会って、挨拶したり、ちょっとした話をする。それくらいの温度感がいいのかもしれないなと。
岩澤:今回のプロジェクトテーマである「常盤平の街の未来を考える」ということも、正直なところ、普通に生活したり仕事をしていたりする中では、少し距離があるだろうなと感じているんですね。
街で何か起きていたら面白いけど、誰もが自分で積極的に動くかと言われたら、なかなか難しい。でもそういう感覚ってすごくリアルだなと思っていて。そうした前提で考えていく必要があると思うんです。
星:そうですね。実は、造形教室みたいなことをやりたいとずっと考えていて。ただ、やるとしたら本格的な教室になるので、値段もプログラムも結構ハードルが高くなってしまいます。そうすると常盤平以外の人が中心になって、あまり地域のためっていう感じにはならないのかなって感じたりもするんですよね。
岩澤:まちづくりの基本って、色々な人がいることだと思うんです。街のための活動をしたい人もいれば、自分のペースを守りたい人もいる。だから、無理して皆が街のために何かやろうとしなくてもいいんじゃないかなって。
岩澤:星さんがつくられるものや「実際にはいない生物」という存在には、創造性がありますよね。
そういう存在とまちのどこかで出会えたら、きっと自分の新しい可能性が広がる。それが「繋がること」が持つ魅力だと思うんです。
だから、まちの中でゆるやかに繋がったり、やっていることを互いに共有できる場がまちのどこかに存在しているということが大事なのかなと思いますね。
星:実は最近テレビ番組で紹介されたんですが、それをみて「近くにこんなところがあったんですね」って訪ねてくる人がちらほらいたんです。おばちゃんたちが「ああ、ここだ」って見にきたりして。(笑)今日もこの後見学の方がいらっしゃるんですよ。知らないだけで、案外近くの地域にも自分の活動に興味を持ってくれる方もいるんだなって思いましたね。
アーティストと街が繋がり、創造性が広がる
−星さんご自身が、これから取り組んでいきたいことはありますか。
星:例えば、期間限定でどこか場所を借りて、大きい作品を作りながら、その作品をお客さんが自由に見れる場所がつくれたら面白そうだなと思いますね。
さっき話に出てきた「原泉アートデイズ!」も、使われていない茶工場で滞在制作したんですよ。そういう場所を、イベントとか期間限定で使わせてもらって制作できたらいいなって。
特に路面でそういう場所があったらいいですよね。お客さんがわざわざ見にくるというよりは、街を歩いていたら「なんかやってるな」くらいのテンションで見ることができたら理想かな。
−アーティストが制作と発表をしつつ、街と繋がる場所になりそうですね。
星:そうそう。そういうところがあったらいよいよ常盤平を出る理由がなくなってくる。(笑)
岩澤:僕らもそういう場所を結構ずっと探してるんですよ。でも大きい場所を借りるのってハードルが高くて。これで他にも求めている人がいるってわかったから、一歩踏み出せます。(笑)
星:自分の業界や周りの人とだけでそれをやろうとするとなかなか難しいですよね。でも、この街に色々なクリエイターさんがいて、そういう人たちと共同で持てる場所って考えると、少しハードルが下がる気がします。それこそ「アーティストにとっての西友」になりそう。
岩澤:ここの近くのアーティストはきっと行きますよね。ぜひそんな場所が作れたらいいなと思います。
誰しも日々、仕事や生活で手一杯になってしまうことが多いと思います。その中で「街について考える」と言われても、少し難しいな、ピンとこないな、と感じてしまうことも否定はできないのではないでしょうか。
そうした日々の中で、街に「気付いたらそこにある」という、無理のなさを伴った創造性やアートと出会う場があったら。
そんな風景を蓄積していくことが、街やそこに暮らす人々が豊かになっていく上で大切なのではないかと感じることができたインタビューでした。
これからも常盤平のまちの未来の兆しを探すインタビューは続きます。どうぞお楽しみに。
(文章・写真:原田恵)
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