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船出を応援するクリエイティブスペース せんぱく工舎|千葉・松戸市

松戸市の新八柱駅から徒歩15分のところにあるせんぱく工舎。ここは昭和35年に建てられた社宅を改装したクリエイティブスペースで、ショップやカフェ、アトリエとして15組ほどの入居者が日々活動しています。オープンした2015年からomusubi不動産が管理・運営してきましたが、今運営も少しずつ見直す中で新たにラジオ「せんぱくポートラジオ」なども始めることになりました。今回はその第一回の公開収録として、omusubi不動産の代表・殿塚と、まちのコーディネーターでせんぱく工舎の運営を担当する岩澤の対談の一部をお送りいたします。


プロジェクトのポイント

  • omusubi不動産・殿塚がジョギング中に物件を発見し、一年の交渉の末一棟借りる

  • 近隣の方々、入居希望者、omusubi不動産スタッフとのやりとりを元に、育むように場の設計を行う

  • 入居者の世代交代を経て、せんぱくポートラジオをスタートし、発信に力を入れる


お話を伺った人たち

左:omusubi不動産の代表・殿塚建吾
中:omusubi不動産 まちのコーディネーター 岩澤哲野
右:公開収録に出演した・omusubi不動産ブランディングパートナーの柳瀬武彦

空き家に魅了される一瞬、空き家を借りるまでの一年


岩澤哲野(以下、岩澤) omusubi不動産にいながら知らないことも多いので、今回はそもそもからお聞きしたいのですが、せんぱく工舎とはどのように出会ったのですか?

殿塚建吾(以下、殿塚) あまり話す機会もないですもんね。僕がこの近くに住んでいて、通っていた高校もすぐそばだったんですよ。近くに八柱霊園という霊園があって、いつもランニングコースにしてるんです。たまたまいつもと違うコースを走った時に、何かめちゃでかい建物があるなと空き家センサーが働きまして(笑)。当時はまだ柵があって、中を覗いていたんです。すごくかっこいいなあって。

岩澤 完全に不審者ですね(笑)。

殿塚 ここが面白くなったらいいなあとピンときて、オーナーさんを調べて連絡したのが最初ですね。

岩澤 それはomusubi不動産始まって1年くらいの時ですか?

殿塚 2015年なので、それくらいですね。

岩澤 そこからオープンまではどのような流れだったんですか?

殿塚 最初、オーナーさんに連絡したらびっくりされたんです。「お貸しする予定はありません」と言われてしまって。平成になってから使っていないという状態でした。僕たちはそういう物件を専門にやっているので、ぜひ企画書をみてほしいとお話をしてお送りしました。

岩澤 なるほど。omusubi不動産らしい始まり方ですね(笑)。僕も地元がこの辺りで、この建物の向かいに友人が住んでいてよく来ていましたけど、この建物は目に入って来てなかったです。アンテナを張っていないと空き物件って気が付かないですよね。

殿塚が日課のランニング中に神戸船舶装備旧社宅(現・せんぱく工舎)に出会う

殿塚 佇まいがすごくないですか?ここまで大きな木造の社宅が残っているのは珍しいと思います。

岩澤 最初から今のようなアトリエと店舗という使い方のイメージはあったのですか?

殿塚 そこまで具体的じゃなかったけど、一階は外から人が来れるお店で、2階は6畳くらいの部屋が10部屋ほどあるので、アトリエや事務所として使うのがいいんじゃないかと最初に見た時に思いました。

岩澤 契約からオープンまではどのように進めていったのですか?

殿塚 オーナーさんが貸してくださるまで、一年くらいかかりました。それから、どうやって改修するのか、お金はどう負担するのか、誰がどこまで責任を持つのか。契約書のルールをどうするかなどの協議に一年くらいかかりましたね。最終的に、omusubi不動産に一棟お貸しいただけることになりまして、そこから入居者を募集して、それぞれのテナントさんが開店を準備するわけなので、僕らが借りてからオープンするまで1年くらい掛かったでしょうか。

岩澤 omusubi不動産の中でも大きなプロジェクトですね。オープンしたときはどんな気持ちだったか覚えていますか?

殿塚 いつまでここを使えるかはわからないけど、永遠に続けばいいなと思っているので。スタートは切れたけど、さあここからどうなるんだろうと未知なことが多いなと感じた記憶があります。

岩澤 達成感とかではなく、意外と淡々としている感じなんですね。

殿塚 始まる前とか後とかというよりは、すべてはつくりたい景色に向かっていくひとつの流れの中にあって、ずっとその途中にいる感じなんです。どうやったらよくなるか、何ができて、何ができていなくて、できるようにするにはどうしたらいいかというのを絶えず考えている感じなんです。なのでオープンも一つの通過点という感覚なのかもしれないですね。

「せんぱく工舎出航式 ~グランドオープン~」

岩澤 リノベーションはワークショップで進めていったと聞いていますが、スムーズだったのでしょうか?

殿塚 オーナーさんにやっていただいたところと、自分たちでやったところと大きく2つあります。オーナーさんにやってもらったところは、予算内で業者さんにお願いしまして。看板を付けたりは入居者さんにご相談をしたり、みんなでワークショップで塗装をしたり。建物の前のスペースを駐車場にするか広場にするかは悩みましたね。みんなとの議論の末、ウッドデッキと芝生を張って広場にしました。今日もそこを使ってイベントが行われていますね。

岩澤 結構みんなで議論しながら進んでいったのですね。「せんぱく工舎」という名前もそうですか?

殿塚 名前はomusubi不動産の中で話し合いました。まだ誰が使うかも決まっていなかったけれど、「建物が学校の校舎みたいだよね」とか、「クリエイティブな人がきっと集まるから工房の『工』にしようか」などと話していて。あとは、小さな場所でチャレンジできるようになるべく安く貸そうというのは決まっていたので、そこから出ていくのが船の出航みたいでいいねと話しながら決まりました。

岩澤 元々、神戸船舶装備株式会社という船に関する会社さんの社宅だったことも、名前にかかっているわけですね。地元にこんな場所ができるなんて本当に想像すらしなかったですよ。

ウッドデッキや天井などDIYワークショップを通じて皆で空間づくり

開かれた場所に身を置くと、心も開かれていく


殿塚 
オープンの前にもご近所の方には挨拶にまわったり、オープンしてからも各テナントさんの丁寧なやりとりもあって、地域には馴染んできているのではないでしょうか。岩澤くんはせんぱく工舎の入居者でもあり、今ではomusubi不動産として運営を担当しているけど、今はどんなことを考えているんですか?

岩澤 そうですね、2020年の時に大きな変化がありました。僕が入居したときはほぼ部屋が入居者で埋まっていて、コミュニティがすでにある状態でした。その後、コロナが始まる少し前に入居者が抜ける時期があり、その時にせんぱく工舎をどうしていくか考えるターンが自分に回ってきた気がしました。

殿塚 確かに世代が変わったようなタイミングがありましたね。

岩澤 それから自分が施設の案内をする機会が増えたり、イベントも開催したりしてきましたが、なんだかエネルギーが続かないような時があったのが正直なところです。どこかで、これまでせんぱく工舎をつくってきた先輩たちを真似なきゃというか、自分がやりたいことから企画ができていなかったなと。そんなことに気がついてきたのが最近ですね。

一階テナントの入居さん

殿塚 今回のせんぱくポートラジオも、自分のやりたいことをやろうという想いで始まったんですか?

岩澤 そうですね。コロナ収束を待っていても仕方がないですし、できることからやっていこうと思い、ラジオという形式で発信していくことにしました。今みんなどんなこと考えてるんだろう、とか、ガンガン攻めている人ってどんなモチベーションなんだろうという興味もあって。

殿塚 これからどんな人に入居してほしいですか?なんだか、逆質問になってきちゃいましたけど(笑)。

岩澤 年齢に関係なく、何かを新しくやろうとしている人に来てほしいなと思っています。コロナ禍で守っている時間が世の中としても長かったと思うのですが、そういう状況からどう逸脱できるか、楽しく攻められる人、何事も楽しもうと思える人に入っていただけるといいなと思います。

殿塚 この場所でずっとやっていきますというよりは、ここからいろんな人が巣立っていくような場所にしたいですよね。次のステップに行くときに応援できる仕組みのようなものも考えられるといいのだろうなと僕は思っています。

岩澤 omusubi不動産として管理や運営している場所は松戸にもいくつかありますし、下北沢のBONUS TRACKナワシロスタンドなど東京での場所も増えている。そういった場所とうまく連携しながら、松戸だけでない次の可能性を提示できるような構造をつくれるといいですね。入居者さんと未来の話をしていると、「omusubi不動産はよく開いていこうという話をする」と聞きますが、殿塚さんとして開くとはどういうイメージなんですか?

殿塚 空間で開くものと、気持ちとして開くものがあると思っていて。空間として開く状態をつくると、強制的に気持ちも開くことにつながると思っているんです。違和感を感じたり、面白みを感じたりいろいろなことが起こるけど、自分にとって異質なものとどう折り合いをつけるかが多様性だとも思うし、大切なことだと思っています。言い換えれば、未知との遭遇ですね(笑)。

岩澤 自分も演劇をやっているので、舞台を創るときは開くという感覚を持っていて、しっくりきます。今日は僕も知らないせんぱく工舎の話もたくさん聞くことができました。ポートラジオはこれから継続していきますので、どうぞよろしくお願いいたします!

せんぱくポートラジオはせんぱく工舎のInstagram Liveで放送しています!(現在お休み中)
https://www.instagram.com/senpakukousha/


岩澤哲野
omusubi不動産 まちのコーディネーター/舞台演出家/theater apartment complex libido:代表。
1990年生/千葉県松戸市出身
学生時代に演劇にのめり込み、そのまま表現の道へ。20代の活動の中で色々な地域やまちに訪れたことがきっかけで、次の10年を地域の中から始めていきたいと思うようになり帰郷。同時に自身の演劇ユニットを集団化し、団体の拠点も松戸市に定める。松戸での活動を続けている中で、omusubi不動産の代表から「”まち”を舞台に演出してみないか」と声をかけられ、まちづくり事業にも参加。現在は、演劇とまちづくりのお仕事を通して、広く”場”の演出に奮闘中。
利賀演劇人コンクール2017にて優秀演出家賞(二席)を受賞。BeSeTo演劇祭2018(韓国開催)に日本代表として参加。百景社アトリエ・レジデンスアーティスト。

殿塚建吾
omusubi不動産代表/宅地建物取引士
1984年生/千葉県松戸市出身
中古マンションのリノベ会社、企業のCSRプランナーを経て、房総半島の古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候し、自然な暮らしを学ぶ。震災後、地元・松戸に戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」にて不動産事業の立ち上げをする。2014年4月に独立し、おこめをつくる不動産屋「omusubi不動産」を設立。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」など多くのシェアアトリエを運営。空き家をDIY可能物件として扱い管理戸数は日本一。2018年より松戸市、アルス・エレクトロニカとの共同で国際アートフェス「科学と芸術の丘」を開催。2020年4月より下北沢BONUS TRACKに参画し、2号店を出店。田んぼをきっかけにした入居者との暮らしづくりに取り組んでいる。


Photo=Hajime Kato
Text=Takehiko Yanase


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