少女から「大人への入り口」へと移る過程。
夏の入道雲。
麦わら帽子を被って登る、
曲がりくねった坂道。
最後の大会を目指す
野球部の練習しているグラウンド。
いつもよりガランとした、
夏休み中の図書館。
湿った風にめくられる、
独特の図書館の本の匂い。
帰宅後に恋しい、冷たい麦茶。
網戸から入る、涼しい夜風。
夏を思い出す映画の1つに
「耳をすませば」がある。
元々は、りぼんの漫画家 柊あおいさんが原作の作品を、スタジオジブリがリメイクしたアニメーション映画だ。
中学3年生で、本が大好きな女の子 月島雫と、バイオリン作り職人を目指す天野聖司。2人の恋愛模様も甘酸っぱくて大好きだが、私がもっと好きなのは、聖司に触発されて、雫がやりたいことに向き合っていく姿。
聖司は、雫に出会う前から日本の高校へは進学せずに、イタリアへバイオリン作りの修行に行くと決めていた。一方で雫は、本が好きという想いはあるものの、将来はぼんやりとした状態。
聖司の職人への夢を
初めて告白された際、
「すごいね。聖司くんは。私、聖司くんと同じ高校に行けたらいいななんて、全然レベル低くて笑っちゃうね」
という静かな雫の言葉は、聖司に対する尊敬と、自分に対する焦りが入り混じった雫の想いが伝わってくる。
そこから一度は落ち込み、
親友に悩みを吐露しつつも、
「あいつ(聖司)は自分の才能を試しに行くの。だったら私も試してみる。」
と決断し、受験シーズンだが、長編小説を書くことに挑む。小説を書きあげる日を決め、寝食をそっちのけで、もくもくと書き、やがて完成させる。
「私、背伸びして良かった。
自分のこと前より少し分かったから。」
初めて長編小説を書き上げた時に、語る雫の言葉には映画を観る度にハッとさせられる。背伸びして、自らを客観視できるようになった様子は、まさに1人の女の子が、大人の階段を上っていく瞬間だ。
真っ直ぐに想いに対して行動していく様が、清々しくて気持ちいい。自分にも、自分の想いに正直に生きられているか、思わず問いかけてしまう。自分の「スキ」の原点に戻してくれる映画である。