見出し画像

夜中の電話

今日電話しよう。遅くても大丈夫。仕事が終わったら気にせず鳴らしていいからね。

休憩中に恋人からきていたLINE。何気ない優しさが嬉しくて、あと少し頑張ったら帰ろう。そう思った。

21時半、予定より長引いた残業。慌てて帰り支度をしながら電話をかける。

LINEに表示された、“”通話中“”の文字。

恋人は電話友達が多い。なんの前触れもなく友達や家族からよく着信がある。一緒にいるときに電話をしている事も少なくない。
聞き上手なので、みんなが話を聞いて欲しくなるのもよくわかる。

容認こそしているが、長電話となると嫉妬の嵐で心が苦しい。

悲しい気持ちを抱えながら帰路につく。帰宅してLINEをひらく。いつもなら、簡単なメッセージも折り返しの形跡も無い。電話に夢中なことがわかって辛くなる。

恋人からの反応を期待するのをやめて、お風呂に入るのでしばらく電話に出れない旨を送る。

恋人からの着信。

今とったら、きっと不機嫌な声音で話してしまう。
そう思いながら画面を眺めてるうちに、呼び出しはやみ、着信に気づかなかったことへの謝罪と電話ができるまで待ってる内容のLINEがとどいた。
脱いだ服を着なおして折り返しの電話をする。

再び表示された、“”通話中“”の文字。

自業自得だけど、落胆。
ばからしくなってきて先に夕食の準備をはじめる。

再び着信。

恋人の落ち込んだ声音に驚いて、悲しさも辛さも飛んでいった。

どうしたの?大丈夫?

数年ぶりにかかってきた友人からの電話。
友人が泣きながら話した内容がちょっとショッキングでつられて辛くなったとのこと。

ぼんやりその友人の話を聞く。
どうやら男性ではないよう。

また急に悲しくなった。一番つらいのは恋人の友人なのに。
さも私が誰よりも悲しいかのような気持ちになった。

その後、うとうとしながら他愛もない話で数時間。
こんな時間まで話をしてくれるのは、私が恋人だからじゃない。
ただ話をするのが好きなんだ。きっと。
友人の話だって、何時になろうと付き合うんだと思う。優しいから。

また辛くなった。

きっと、恋人の友人は今日も電話をかけてくるだろう。

だって、恋人は友人に、いつでも話を聞くからね、と伝えている。
言葉通り恋人はいつでも電話を受けてくれるし、ちゃんと話をきいてくれる。

私が友人だったらきっと電話をしてしまう。
辛い時の優しい言葉ほどすがりたいものはないから。

でも私は恋人だから、今日は電話をしない。

悲しくても、辛くても、嫉妬心は隠さなければいけない気がして。