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【ドラマっこ】「17才の帝国」

「今ここにある危機とぼくの好感度について」の記憶が蘇る。
2021年放映、NHKオリジナルドラマ。
次々と起こる学内不祥事に対し保身に走ろうとする上層部に翻弄されながらも、正しい行動は何か考えもがき苦しむ大学広報担当者の成長物語。ラストは大学の研究室が人々を死に追い込む蚊の発生源であることが明らかになり、それを隠蔽しようとする学内の動きと闘う。それは現世の感染ウイルスを自国が発生源ではないと主張するある国の、体裁を取るか?早期対策により助かる命を取るか?そんな場面を彷彿とさせた。

NHKの作るドラマは、タイムリーな話題をテーマとし、それをしっかり作りものとして我々に見せながらも、やはり根底にあるテーマの是非を視聴者の胸に問いかけてくる。


20X X年、「サンセット・ジャパン」と世界から呼ばれる日本は経済的な落ち込みにより窮地に立たされていた。その突破口として内閣府肝入りのプロジェクト「UA(ウーア)」が立ち上がり、特区として選ばれた都市ではAIが政策の補助を行ない、そのマスターである総理には17才の高校生が就任した。
総理だけでなく大臣も20代迄の若者で構成された新政府は、若さゆえの経験のなさを莫大な過去のデータを処理するAIが補完し、しがらみや利権と無縁であることから、市議会の廃止など論理的な意思決定を決行していく。しかし、彼らを選んだのもAIであり、なぜ彼らが選ばれたのか?人間はAIに支配翻弄されずに都市を統治できるのか?その行く末は誰にもわからなかった。



5話完結でどうなることか?と不安になるSF感満載のストーリーだったけれど、もっと!もっと!と欲求巻き起こる内容と展開で、充実の5話だった。

このドラマと合わせて、制作サイドのブログも見てほしいのだが、それぞれが「境界線」にたたされているという設定で、
総理の真木君だけでなく、大臣を担った林も雑賀も、それぞれの境界線を持っているような描かれ方で、そこを掘り下げてもまたこの「AIを根幹に取り入れた政治」の是非も変わるのかもしれない。

ブログついでに。
昔から伊賀大介さんが好きなのだけれど、今回の衣装も彼であり、かつオリジナルブランドまで劇中製作したとのことで、鼻血もの。
音楽もさることながら、こういうなかなかフューチャーされにくいところまで徹底的に作り込んだというエピソードは、受け手の作品への愛着を増幅させる。これだからドラマ視聴はやめられないのだ。


右 真木(神尾楓珠)

「みんなが幸せな社会を」と真木総理は何度も口にし、そしてUAは日々市民の「幸福度調査」を行ない、政策の評価も「幸福度の増減」となっている。


「みんなが」幸せになるなんて幻想である(宇多田ヒカルも誰かの願いが叶うころ誰かが泣いていると歌っているように)と分かりながらも、それでも「みんなが」幸せである状態を模索していく、それが政治であるならば、政治を担う政治家たちは毎日どれほどの虚無感に苛まれているのだろうか。

「みんな」の中に当然自分が含まれていると市民国民は考えるし、ときに「みんな」に己がカウントされていないのではと不安を感じた途端に政治を糾弾する。

それでもやはり政治は、一定の群衆のためだけであってはならない。

「みんなを幸せに」
青い夢だと誰かに揶揄され、ときに自分でもシニカルに捉えながらも、その夢を愚直に追い求められるか?ということがリーダーに求められる素養なのだろうし、そしてそんなリーダーを私たちは盲目にならないバランスを保ちつつも、信じ続けることができるのかが問われている。

長い政権は腐敗への一途だ、と言われるが、
リーダーへの適材がそう何人も存在するはずがないし、それならば60点だな?と感じる人を批判や称賛しながら65点70点と成長・軌道修正させていくほうがいいのではないか、とも感じる。

また、「みんな」は具体的な政策においては主語が大きすぎるからこそ、「ママ議員」とか「経営者出身議員」が我々の期待を背負って登壇するわけだが、
それもまた「偏りがある」「有権者に媚びている」そんな穿った視線が彼らの行手を阻むというパラドックスもあるな、と感じる。
それだけ政治というのは「こうあるべき」の理想がとても高いものでありながらも、日常と切っても切り離せないリアリティも求められるものであり、
正常な感性を持つ人間であればあるほど、自分の意思決定の範囲から遠ざけたくて仕方ないのではないかと思ってしまう。
だからいつまで経っても投票率は一定水準を超えないのではないか。
なんだか絶望しか目の前に無くなってしまったが、それでも「諦める」という単語は1番ふさわしくないのだと強く胸に刻み、わたしは今回も投票へとむかった。

救世主として舞台を用意された17才の彼がその存在意義に悩み苦しめられながらも前に進み、そして彼を信じて前に進もうとした群衆からその手を離される迄の一部始終を描いた今回のドラマ。

最後に青波市民が行った「反射」での行動・判断の様子は、
インターネットを手段とすることにより「反射でモノを言い、反射で人を動かしてしまう」現代の危うさをまじまじと見せつけられた気がした。

救われたいとそう願っている彼らが自ら救世主を手放したのだ。
その選択肢が自分達の行く末を、ユートピアにしたのかディストピアにしたのか。
しかし平議員は真木にこういった「君は青波市の初代総理なのだから」。そう彼は、17才の総理は、確実に存在したのだ。


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